41th BASE
真裕や京子の誕生日が近いという設定は全く図ったものではありませんでした。
キャラクターの誕生日はある法則によって決めていて、今回は偶然重なりました。
どのような法則で成り立っているのか、気になる人は探ってみてください。
「皆本当にありがとう。どれも大切に使わせてもらうね」
プレゼントタイムが終わり、皆が再び料理を食べ進める。誕生会といっても、ここからはゲームなどで遊ぶだけ。元々部屋を派手に飾りつけしたりしているわけでもなければ、アンゴラウサギをマスコットとして飼っている、どこかの喫茶店を貸し切ったりしているわけでもない。どこにでもありそうな素朴な誕生会だ。もちろん、それをしてもらえること自体とてもありがたいことだし、私自身も大いに満足している。
「かあー、また負けたあ」
料理を片付けた後、私たちは皆でトランプをすることになった。昨日ちょうど人気アイドルグループの番組で最弱王決定戦を行っていたのに感化され、最初に選んだのはババ抜き。ただ今のところ、京子ちゃんが全敗している。
「京ちんはジョーカー来るとすぐ顔に出るじゃんね。これならあの相羽君とも良い勝負できるよ。ていうか楽勝だよ」
ゆりちゃんの冷やかしの言葉に、皆の笑い声が上がる。京子ちゃんは面白くなさそうに頬を膨らませた。
「うー、ゆりに言われると一層むかつく。もう一回!」
「えー。そろそろ他のゲームやりたいなあ」
「あと一回。あと一回だけやろ。お願い。そしたら他のゲームに移ろ」
祥ちゃんたちは少し飽きてきたような素振りを見せる。しかし京子ちゃんの強い要望により、もう一ラウンドだけ行うこととなった。
「よし、上がり!」
四番目に抜けた私が、勢いよくカードを手放す。そして最後まで残っていたのは……。
「くっ……。どうして、どうしてなの……」
ぐったりと項垂れる彼女。その手にはジョーカーが握りしめられている。お察しの通り、今回もビリは京子ちゃんだ。
「ど、どんまい。きっと今日はそういう日なんだよ。切りかえて次のゲームしよ」
「……うん」
紗愛蘭ちゃんが頭を撫でて慰める。ここまで負け続けると、もはや神ってると言っていい。
「いやー、でも偶にはこういうことするのも、高校生って感じがして良いよね。できれば恒例行事にでもしたいなあ」
ゆりちゃんはそう言って、一度背伸びをする。重たくなりかけた雰囲気を変えようとしてくれたのかもしれない。私は話の流れに乗っかり、三人に誕生日を尋ねてみた。
「そだねー。ゆりちゃんたちは誕生日いつなの?」
「十二月でーす」
「私は三月」
「あらら。二人ともかなり先だね。紗愛蘭ちゃんは?」
「え? 私?」
紗愛蘭ちゃんは何故か戸惑いを示す。彼女は太ももを摩りながら、小さな声で答える。
「……月二六日だよ」
「へ? 何月って言った?」
「……しがつ……です」
「……え? えー⁉」
全員が顔を見合わせる。四月二六日って、この中の誰よりも誕生日が近いではないか。
「ほ、ほんとに……?」
「う、うん。だ、だけど全然気にしなくていいから。私はあっちゃんたちから祝ってもらってるし、今日の主役は真裕ちゃんと京子ちゃんだよ」
「いやいやいやいや。それならそうと早く言ってくれれば良かったのに」
「ごめん。せっかく二人の誕生日会なのに、水差すのは申し訳なくて……」
「謝らないでよ。それならさ、今から紗愛蘭ちゃんのお祝いしよ。蝋燭に火付け直して」
「いいね。やろうやろう」
「そんな悪いよ。それにもう蝋燭立てるところもないし」
紗愛蘭ちゃんは遠慮しようと手を広げるが、やっぱりきちんとお祝いしてあげたい。きっと他の三人も似たような気持ちを持っているはずだ。
「大丈夫。まだ余ってるケーキあるから、そこに立てよ。ちょっと窮屈になっちゃうけど、いちご退ければ全然いけるよ」
私たちは残っていたケーキの中から、一切れ取り出す。
「このいちご食べちゃっていいかな?」
「良いと思うよ」
京子ちゃんが外したいちごを口に入れる。幸い、ケーキに刺し直した蝋燭は、どれもまだ点火できた。
「ハッピーバースデー紗愛蘭!」
本日二回目のバースデーソング。紗愛蘭ちゃんは見事に、一発で全ての火を消した。
「ごめんね皆、ありがとう」
「だから謝らないでって。こっちこそ気づけなくてごめんね。プレゼントも用意できてないし」
「ううん、これしてもらえるだけで十分」
「えー、こんなに素敵なものもらっておいてお返ししないってのも嫌だしなあ。紗愛蘭ちゃん、何か欲しいものない?」
「ほ、欲しいもの? うーん……」
紗愛蘭ちゃんが口元に手を当てて考え込む。
「……あ、欲しいものではないんだけど、一つお願いを聞いてもらっていいかな?」
「何々? 何でも言ってよ」
「皆のこと、呼び捨てで呼んでいいかな?」
「え、そんなこと?」
私たち四人は肩透かしを喰う。
「……うん。駄目かな?」
「駄目っていうか、そんなこと態々お願いしなくてもいいのに。全然大丈夫だよ」
「ほんとに? なら遠慮なく呼ばせてもらうね。えっと……ま、真裕」
「はい、紗愛蘭ちゃん」
紗愛蘭ちゃんは頬を紅潮させ、私の名前を呼ぶ。なんでもないことなのに、どうしてか胸が時めいてしまった。
「真裕っちだけずるい。紗愛やん、私のことも呼び捨てで呼んでよ」
「わ、分かった。ゆり」
「うほお。何か胸がきゅっとなるう」
ゆりちゃんは悦に入ったように顔を綻ばせる。それに続き、祥ちゃんと京子ちゃんも呼び捨てを要求した。
「紗愛蘭、次は私ね」
「ウチもウチも」
「祥……、京子……」
「おー」
祥ちゃんと京子ちゃんが揃って感嘆する。これでひとまず、紗愛蘭ちゃんは全員を呼び捨てで呼んだことになる。
「えへへ。やった」
満足気に笑う紗愛蘭ちゃん。ただこれがプレゼントというのはあまりに味気ないので、今度別で用意しておこう。
「そ、それじゃあゲームに戻ろ。私、人狼やりたいな」
「えー。紗愛蘭マジで言ってる? ウチあれ苦手なんだよね」
「京子苦手なものばっかじゃん」
「違うし。あれは弱いとかじゃなくて、音楽が嫌なの」
「本当かなあ。試しにやってみよっか」
「だから嫌だって言ってんじゃん!」
皆の愉快な声が、私の家を包み込む。紗愛蘭ちゃん含め、今日で私たちの距離は随分と縮まったことだろう。明日からまた学校も部活も始まるけれど、これまで以上に楽しくなるに違いない。その手応えに心を弾ませながら、私は皆の笑顔を心に刻んでいた。
See you next base……
おまけ『今日の飛翔くん』(全一回)
俺は柳瀬飛翔。地元の大学に通って二年目の男子学生だ。
大学生の休日といえばやはりバイト漬け(※個人の見解です)。今日はほぼ座っているだけの仕事だったが、それでもきちんと時給は発生している。ホワイト労働万歳!
「ただいま」
「おかえり飛翔。冷蔵庫にケーキあるよ」
「まじ? 食べるわ」
真裕の誕生日会の余りだろうか。何にせよ働いてきたことへのご褒美としては完璧だ。
母さんににやついている顔を見られないようにしながら、俺は冷蔵庫の中からケーキを取り出す。
「あれ?」
「どうしたの?」
「このショートケーキ、いちご乗ってない。しかもなんかあちこちに串刺しにした跡があるんだけど……」
「ああ、なんか色々食べ終わった後、残ってたそれにもう一回蝋燭立ててたよ。その時にいちごが邪魔だったから食べたんじゃない? どんまい」
「は⁉ ガッテム!」
『今日の飛翔くん』終。
P.S ショートケーキのいちごは大切にしましょう。




