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ベース⚾ガール!  作者: ドラらん
EXTRAINING 誕生会!
41/181

40th BASE

今回と次回は番外編をお届けします。

次の章と時系列がやや前後します。

ご容赦ください。


この話を書いている最中、小学生の頃によく家に友達呼んで誕生会やってたことを思い出しました。

ああいうことができたなんて、本当に幸せだったんだなと何年も経ってから実感してます(今も幸せです)。

「明日からゴールデンウィークだ。遊んだり部活に打ち込んだりするのは大いに結構だが、課題もしっかりやっとけよ。くれぐれも休み明け、居残りにならないように」


 紗愛蘭ちゃんが入部して一週間が経った。明日からはゴールデンウィークに突入し、学校も休みの日が続く。


「さようならー」


 帰りのホームルームが終了。私たち三人が昇降口へと向かうと、ちょうど六組の人たちとタイミングが重なる。


「紗愛蘭ちゃん」

「ん? あ、真裕ちゃん」


 紗愛蘭ちゃんは篤乃ちゃんたちと一緒だった。四人が一斉にこちらを振り向く。


「柳瀬さんたちか。じゃあ紗愛蘭、私たちは先に帰るね。部活頑張って」

「うん、ばいばい」


 篤乃ちゃんたちと別れる紗愛蘭ちゃん。私たちもその後ろから手を振る。あのメンバーとは少し話す機会があり、千恵ちゃんや小春ちゃんとも顔馴染みとなった。


「さて、私たちも行こうか」

「うん」


 他の人たちが正門の方に向かう中、私たちはその流れに逆らって部室へと歩き出す。


「明日からゴールデンウィークかあ」

「といっても一日と二日は学校あるし、他の日もほとんど部活だから、遊んでる暇なんてないんだけどね」

「ほんとだよ。実質休みは一日。これじゃあ全然攻略進まんわ」

「攻略? 何の?」

「乙女ゲー。この時期って春の新作が一気に出るから、追いつくために大変なの」

「乙女ゲームって、確か恋愛ゲームみたいないやつだよね? 私一回もやったことないんだけど、どんな感じで面白いの?」

「あ、紗愛蘭それは……」

「へ?」


 紗愛蘭ちゃんの口から零れた何気ない疑問。だがご存知の通りそれは、京子ちゃんの乙女スイッチ?の起爆剤となってしまう。駄目だ、あの惨劇を繰り返してはならない!


「よくぞ聞いてくれ……」

「ああ! あのさ、紗愛蘭ちゃんって六日の日、何か予定ある?」


 私は瞬時に紗愛蘭ちゃんと京子ちゃんの間に割って入った。京子ちゃんが何やら話し続けているが、とりあえず放置しておこう。


「六日って、練習休みの日だよね、今のところは何もないよ」

「ほんとに? だったらさ、うちに遊びに来ない?」

「え? 真裕ちゃんの家?」


 唐突な私の誘いに、紗愛蘭ちゃん困惑する。ただどちらにせよ後で聞くつもりだったので、良い契機にはなった。


「実は私と京子ちゃん、先週誕生日だったんだよね。それでちょっと遅いけど、六日に二人の誕生会やるんだ。紗愛蘭ちゃんもどうかなと思って。菜々花ちゃんたちは都合がつかなかったんだけど、祥ちゃんやゆりちゃんも来るよ」

「へえ、そうなんだ。けど私なんかが行ってもいいの?」

「当たり前じゃん。こっちとしてはもっと紗愛蘭ちゃんと仲良くなりたいから、ぜひ来てほしい!」

「そ、そう? だったら、喜んでお邪魔させてもらおうかな……」


 紗愛蘭ちゃんは伏し目がちにはにかむ。こうして六日の誕生会は、私と京子ちゃん、祥ちゃんとゆりちゃん、そして紗愛蘭ちゃんを加えた五人で行うことが決まった。




 誕生会当日。京子ちゃんが案内役となり、他の三人を引き連れて私の家にやってきた。


「おじゃましまーす」 

「いらっしゃーい」

「おお! 真裕っちが可愛らしい服着てる」

「可愛らしいって、いつもこんな感じだよ」


 ゆりちゃんが興奮気味に目を見開く。今日の私の服装は、黄色のカーディガンに灰色のスカートという組み合わせ。一応外行きの格好はしているものの、特別に気合を入れているつもりはない。


「お母さん、皆来たよ」

「はいはーい」


 私は皆を居間に迎え入れる。台所に立って料理を作っていたお母さんは一旦手を止め、皆に挨拶する。


「どうも、真裕の母です。よろしくね」

「こんにちは。笠ヶ原祥です」

「西江ゆりです。よろしくお願いします」

「踽々莉紗愛蘭です。真裕ちゃんには入部の時にお世話になりました」

「祥に紗愛蘭にゆりね。全員若々しい顔してるし、熟れる前の果実って感じがまた堪らないわ」

「どういう意味?」

「内緒。えへへ」


 お母さんは怪しげな笑みを見せる。


「そうだ京子、授業ついていけてる? もうじきテストだけど、赤点取らないようにしないとね。あんた受かったのぎりぎりなんだし。下から十番目くらいだっけ?」

「うっ……。ま、まだ大丈夫ですから。てかこんなところでそういうこと言わないでくださいよ」


 京子ちゃんがたじろぐ。中学に入った辺りから、こんな感じのいじりがお決まりとなってしまった。こうやって娘の友人とか関係なく、平気で人の弱みをえぐっていく私のお母さん。身内から見てもかなり怖い人だと思う。紗愛蘭ちゃんたちは若干顔を引き攣らせながら笑っていた。なんか、ごめんね……。


「さて、早速だけどもうすぐ料理が出来上がるから、皆も準備手伝って」

「は、はーい」



 私たちは料理や食器を机に並べていく。準備が整ったところで誕生日ケーキが登場。皆がお祝いの歌を歌ってくれた。


「ハッピーバースデー!」

私と京子ちゃんがケーキに立てられた蝋燭ろうそくに息を吹きかける。残念ながら一度で全部の火は消せず、一本だけ残ってしまったので、後から京子ちゃんが一人で消す。

「おっけー。じゃあ食べましょうか。いただきまーす」

「いただきます」


 私たちは各自料理に手を伸ばす。用意されたメニューは、唐揚げにフライドポテト、海老のアヒージョなど私と京子ちゃんの好きなものばかり。これらに加えてサーティーンアイスクリームがあれば完璧だが、ケーキがあるので我慢しよう。


「そうだ。忘れないうちに二人にプレゼント渡しておくね」

「来ましたねプレゼントタイム。私も出そっと」


 紗愛蘭ちゃんとゆりちゃんが鞄を持ち出す。私も食べる手を止め、棚に仕舞っておいた京子ちゃんへのプレゼントを用意する。全員が机に座り直したところで、最初に祥ちゃんがプレゼントを差し出す。


「はい、二人ともおめでとう」

「わあ、綺麗!」 


 祥ちゃんからのプレゼントは、三日月のヘアピンだった。透明感のある色合いの中に無数の結晶が輝いている。私のはオレンジ色、京子ちゃんのは緑色が基調となっている。


「色は迷ったんだけど、私が二人にイメージしてるのを選んでみたんだ」

「なるほど。私オレンジ好きだから、とっても嬉しいよ。ありがとう」

「ウチも緑は好き。来人らいと様と同じ色だし」


 京子ちゃんも喜んでいるみたいだ。因みに来人様とは、京子ちゃんが乙女ゲームの中で一番好きなキャラクターのこと。イメージカラーが緑という設定がある。


「ではでは次は私の番ということで。どうぞお納めくだされ」

「ふふっ、ありがとうゆりちゃん」


 ゆりちゃんに渡された袋を、私と京子ちゃんは同時に開ける。中に入っていたのは……きのこ?


「これは?」

「それは野菜型のボールペン。傘のところ押すと芯が出てくるよ。京ちんのはナスだから、ヘタの部分ね」

「うわ、ほんとだ。しかも柄のところが指に引っかかって、何気に書きやすい」

「でしょ。面白いけど使いやすい。一石二鳥もんだよ」


 ゆりちゃんはしたり顔で親指を立てる。一方、京子ちゃんは何だか不満そうな目つきでナスボールペンを見つめている。


「……ウチ、ナス嫌いなんだけど」

「ほうほう。だったらそれを腹ペコの時に使い込んでいれば、自然とナスが食べられるようになるんじゃないかい?」

「何その理論……」

「まあ細かいことは気にしないで。ちゃんと学校でも使ってね」

「えー、普通に嫌なんだけど」 


 祥ちゃんたちから笑いが起きる。私も正直学校で使うのは気が引けるが、ネタとしては成功だと思うし、ありがたく貰っておこう。


「ゆりちゃん面白いね。この後に出すのは恥ずかしいよ……。えっと、私のプレゼントはこれだよ」


 紗愛蘭ちゃんが鞄から取り出したのは、二本のミサンガだった。


「あ、あんまり時間取れなくて不出来なものなんだけど、もらってくれると嬉しいな」

「これ紗愛蘭ちゃんの手作り?」

「う、うん……」


 紗愛蘭ちゃんは頬を赤らめる。ミサンガにはそれぞれ、私たちの名前も刺繍ししゅうされていた。


「すごいよ紗愛蘭ちゃん。早速付けさせてもらうね」

「ウチも付けよ」

「どこにしよう。やっぱ左腕かな」

「足の方がいいんじゃない? 身だしなみ検査の時とかに見つかったらめんどいし」

「あー。でもこれくらいなら見逃してくれないかな」

「無理でしょ。うちってそういうとこだし」

「確かに」


 皆で一様に苦い顔をする。京子ちゃんの忠告通り、ミサンガは左足に付けることにした。ここなら靴下で隠せるし、まず見つからない。


「これでよしと。ありがと紗愛蘭ちゃん」

「えへへ。こっちこそありがとう」


 私は紗愛蘭ちゃんと笑顔を交わす。紗愛蘭ちゃんの笑った顔はとてもたおやかで、私の心は自然とぬくくなる。


「じゃあ最後は、京子ちゃんに私からプレゼントだよ」

「待って。ウチもちゃんと用意したんだから。はい」


 私と京子ちゃんがプレゼントを交換する。共に同じような大きさのポチ袋を用意していた。


「おお!」


 中身を確認し、私たちはほぼ同時に歓喜の声を上げる。二人の手元に届いたのは、小さな一枚のカード。しかし双方にとって最高のプレゼントだった。 


「これってサーティーンアイスクリームの十個分無料券じゃん! しかも伝説のフレーバー、デスサイズ・セサミンプティングにも使えるし」

「こっちは来人様確定演出付きのりんごカードだ! 今回のガチャどうしても回したくて、課金するか迷ってたんだよ!」

「めちゃ嬉しい! ありがとう京子ちゃん」

「真裕もありがとー! さすがウチのことを分かってるねえ」


 私たちはグータッチをして喜びを共有する。一緒にいる期間が長いからこそ、こうしたお互いの“ツボ”をついたプレゼントができるというもの。ミサンガやヘアピンのような素敵さはないかもしれない。けれどもそれは、私と京子ちゃんの仲の良さの証明でもあった。



See you next base……


WORDFILE.16:サーティーンアイスクリーム


 真裕の大好きなアイスクリーム屋で、彼女の最寄り駅の近くにある。“マンちゃん”と呼ばれている店主がずっと変わらずに切り盛りしており、今年で開店してから二〇年目を迎える。

 これまでに開発されてきたフレーバーの数は四〇四で、現在も更新中。その中の最高傑作である「デスサイズ・セサミンプティング」味は至高の逸品と評され、ミシュランで星を獲得したとかしてないとか。あまりの人気に、現在はある条件下でしか手に入らない限定チケットのみでしか味わうことができなくなっている。

 因みに真裕と京子はこの店に幼い頃から通っており、店主とも仲良し。一応本名も知っているそうなのだが、どこかの新聞社から口止めされているらしく中々口を割ってくれない。


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