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ベース⚾ガール!  作者: ドラらん
第三章 野球がしたい!
40/181

39th BASE

W杯、今日(明日?)は日本の決勝トーナメント一回戦です。

相手はスター集団のベルギー。サッカーに疎い私でも知っている選手が揃っているので、かなり手強いと思います。何とか食らいついて勝利をもぎ取ってほしいですね。

けど開始時間午前3時って……。どうしよう……。

 私たち亀高女子野球部に、新たな仲間が加わった。私と同じ一年生の踽々莉紗愛蘭ちゃんだ。


「えっと……、く、踽々莉紗愛蘭と言います。中学ではライトやってました。よ、よろしくお願いします!」


 ソフトボール経験者の紗愛蘭ちゃんは初日から本格的に練習に参加。他の部員に引けをとらないプレーを見せ、特にシートノックの中で披露した強肩は皆を驚嘆させた。


「すげー! 良いじゃん紗愛蘭」

「あ、ありがとうございます」


 少々怯えた様子を見せながらも、先輩からの声かけに口元を綻ばせる紗愛蘭ちゃん。私とキャッチボールをしていた時よりも一層楽しそうだ。


「あの子上手だね。もしかしたら夏の大会のメンバーにも入ってくるかも」

「うん。打球に対する反応も良いし、何よりあの肩は魅力だよね」


 マウンドで見ていた空さんや葛葉さんも紗愛蘭ちゃんを絶賛している。紗愛蘭ちゃんの加入は、チームにとって良い刺激を与えることだろう。

 私もぼんやりしていられない。初めての登板も終えたわけだし、これからは結果を残して、夏の大会のメンバーに選ばれるためのアピールをしていかなければ。


 そして、私たち女子野球部に次の練習試合の機会がやってくる。

 

 練習後、木場監督の前に腰を下ろして話を聞いていた私たちから、驚きの声が上がる。


「ゴールデンウィーク中に三チーム合同の練習試合を組むことになった。相手は楽師館(がくしかん)高校と右京(うきょう)高校だ」

「おー」


 それもそのはず。楽師館高校と右京高校はどちらも野球の強豪で、男子の方は甲子園への出場経験もある。楽師館は同じ県内の高校だが、京都の右京高校も私たちが名前を知っている名門校だ。女子野球部も相当な実力を持ち、この前の大会では楽師館がベスト四、右京高校に至っては準優勝という成績を収めている。


「場所は楽師館で行う。右京高校は京都から遥々来てくれるそうだ。二校とも非常にレベルが高いことは言うまでもない。この機会を決して無駄にせず、多くのことを学ばせてもらおう!」

「はい!」


 監督の声もどことなく意気揚々としている。いつもより気合が入っているみたいだ。


「では今日は解散。明日も朝練があるから、遅刻しないようにな」

「ありがとうございました!」


 全体での挨拶を済ませ、各々が自分のことに取り掛かる。私と京子ちゃんは、紗愛蘭ちゃんの様子を覗う。


「紗愛蘭ちゃん、お疲れ様」

「お疲れ」

「どうだった? 初練習は」

「緊張したよ。けど先輩たちも優しかったから、すぐに溶け込めた」


 紗愛蘭ちゃんの表情がとろけるホイップクリームのように解れる。


「踽々莉さん、いきなり動きキレッキレだったね。さすが甲中ソフト部」

「そんなことないよ。それと私のことは紗愛蘭って呼んでくれていいから。えっと……」

「京子。陽田京子だよ」

「京子ちゃんか。よろしくね」


 紗愛蘭ちゃんは小さく頭を下げる。帽子からはみ出ている髪の毛先が、こぢんまりと上下に揺れる。可愛い。


「京子ちゃんは緑中のソフト部で、甲中とも試合したらしいよ」

「へえ、そうだったんだ。緑中とは公式戦でも練習試合でも、しょっちゅう対戦してた記憶がある」

「その度にウチらがけちょんけちょんにされてたんだけどね……」

「そんなだっけ?」


 馴染みのソフト部出身同士ということもあってか、京子ちゃんと紗愛蘭ちゃんは思い出話に花を咲かす。私は混ざれないのでちょっと寂しい。


「もっと話聞きたいんだけど、今から私、監督のところに行かなきゃいけないの。入部の件で話があるみたい」

「おお、それなら早く行かないとね。ごめん、呼び止めちゃって」

「全然気にしないで。寧ろ声掛けてくれてありがと。また明日ね」

「うん。ばいばーい」


 紗愛蘭ちゃんが校舎の方へと走っていく。私たちは揃って彼女に手を振る。すると背後から、晴香さんが話しかけてきた。


「柳瀬さん、踽々莉さんはどこへ?」

「監督のところに行きました。入部について話すそうで」

「そうだったの。ちょっと話してみたかったけど、しょうがないわね」


 残念がる晴香さん。私は、次の練習試合の話を振ってみる。


「ゴールデンウィークの練習試合、楽しみですね」

「ええ。この時期に強豪と対戦できるのは大きなプラスだわ」

「それにしてもよく試合組めましたね。楽師館や右京みたいなところだと、中々引き受けてもらえないんじゃないですか?」


 京子ちゃんが不思議そうに尋ねる。


「楽師館の監督、木場先生と親交があるみたいなの。そうした縁も関係してるんじゃないかしら」

「へえ、そうだったんですか。それはすごいですね」

「そうね。あの人は偶に変な発言したり適当なところがあったりするけれど、野球の指導は的確だし、顔も広いの。現役の時も相当な実力者だったらしいわ」 


 晴香さんは校舎の方に目を向ける。頬はうっすらと赤く、何か思うところがあるように感じさせる顔をしている。


「今回はこの前と違って二試合あるし、柳瀬さんの投げるイニングも増えるでしょう。陽田さんも出番があるかもしれないわね」

「え、ウチですか? ウチにはまだそんな実力ないですよ。ウチよりも紗愛蘭の方が全然可能性ありますって」

「何言ってるの。貴方だって十分試合に出る力はあるわよ。木場監督は新人を積極的に使う人だから、きちんと心構えをしておきなさい。期待してるわ」

「は、はい……」

「じゃあ私はこれで。二人も仲良く話す分には構わないけど、校門が閉められる前には帰ってね」

「はい。お疲れ様でした」


 私たちは帽子を取って会釈し、晴香さんを見送った。


「次の試合、京子ちゃんも試合に出られるんだね。益々楽しみなってきたなあ」

「はあ……。あんたは何でそう気楽に思えるのかねえ」


 笑顔の私とは対照的に、京子ちゃんは気が重そうな雰囲気を醸す。


「ええ⁉ だって試合に出られるんだよ。こんな嬉しいことないでしょ」

「真裕みたいな実力があればね。ま、ウチは変なミスしないよう頑張るわ」

「そんなこと言ってちゃ駄目だよ。もし私が投げてる時に京子ちゃんが出てきたら、どんどんそこに打たせるから頼んだよ」

「勘弁してよ……」


 京子ちゃんは頭を抱える。何はともあれ、名門校との対戦が決まった。今から待ち遠しくて堪らない。



See you next base……


CLASS SEPARATION:1st


1-北条巧

2-北本菜々花

3-柳瀬真裕、陽田京子、笠ヶ原祥

4-西江ゆり、宮藤碧来

5-

6-踽々莉紗愛蘭、椎葉丈、小谷勇輝


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