3rd BASE
お読みいただきありがとうございます。
ペンネームの由来は全くありません。
いきなり空から降ってきたものを使用しております(笑)。
「祥ちゃんって、野球やったことあるの?」
「一応キャッチボールとかならしたことあるよ。中学の体育ではソフトボールもあったし、友達とバッティングセンターも行ってた」
「そうなんだ。なら全く経験がないわけじゃないんだね」
渡り廊下を歩きながら、私たち三人は互いのことを聞き合っていた。私は祥ちゃんとは初対面だがとても話しやすく、スムーズに会話が続く。
「真裕は野球やってたの?」
「私は中学も野球部に入ってたよ」
「女子野球部?」
「ううん。男子に混じってやってた」
「え? それは凄いな」
「驚くのは早いよ祥。それだけじゃなくてこの子、男子たち押しのけてエースピッチャーだったんだから」
「ほえー……。まじか」
祥ちゃんは目を瞬く。私は心なしか、照れくさくなってしまった。
「わ、私の話はもう良いでしょ。京子ちゃんだってソフト部でレギュラーだったんだし、小学校の頃は私と同じ野球チームに入ってたじゃん」
「へえ、京子も野球経験者だったんだ」
「まあね。真裕とは雲泥の差だけど」
少々皮肉めいた言い方をする京子ちゃん。京子ちゃんも十分上手なんだから、自信持てばいいのに。京子ちゃんは自分の話を早々に切り上げ、祥ちゃんのことについて尋ねる。
「祥は中学何部だったの?」
「私はバレー部。そこそこ熱心だったけど、強くはなかったかな」
「高校で続けるつもりはないの?」
そう私が聞くと、祥ちゃんは少しだけ考え込む素振りを見せる。
「うーん……。あんまり上手じゃなかったからね。それにさっきも言った通り、新しいことに挑戦したいと思ったんだ」
「なるほど」
昇降口で靴を履き替え、私たちは外へ出る。真正面には大きなグラウンドが広がり、半面を女子野球部、もう半面をハンドボール部が使用している。
「お、やってるやってる。あれ? 他の部活は?」
「うちの高校は男子野球部もサッカー部も、全国大会に出場する強豪だからね。こんな体育の授業でも使われるようなグラウンドじゃなくて、専用の場所があるの」
「京子ちゃん、よく知ってるね」
「入学式で配られたパンフレットに書いてあったでしょ」
「あー。女子野球部の欄しか見てなかった」
私は思わず舌を出す。京子ちゃんは呆れたとでも言いたげに首を振る。
「さてと。もう少し近くまで行こっか」
私たちは野球部の練習が間近で見える位置まで近づく。適当なところに段差があったので、そこに座って眺めることにした。
「さあこーい!」
「バッチここまで飛ばせー」
白球を金属バットで捉える音と、守備に付いている人たちの声が青空にこだます。見たところバッティング練習が行われているようだ。防球ネットが二つ用意され、その中に一人ずつ打者が入り、投手の投げる球を打ち返している。芯で捕まえた鋭い打球が飛んだかと思えば、当たり損なって弱々しく転がる打球も混ざっている。どこにでもある練習風景だが、普通と比べて少しだけ違う。
それは、グラウンドに立っている選手が全員女子だということ。女子がボールを投げ、女子がボールを打つ。女子が打球を追い、女子がグラウンドを駆け巡る。けれども正式な部活として認められていて、一つの野球チームとして成立していて、皆が腕を磨くために練習している。女子が野球をできる環境が、確かに整っている。それを目の当たりにした瞬間、私の胸は一気に熱くなった。
「ふふっ……」
「ええ? きゅ、急にどうしたの?」
私が小さく笑うと、隣に座っていた祥ちゃんが咄嗟にびっくりした反応をする。
「いや、すっごくドキドキしてきちゃって」
「そっか。真裕って、心の底から野球が好きなんだね」
「うん」
自然と零れる笑み。心臓の高鳴りが更に増していく。
早く野球がやりたい。今すぐグランドに飛び出して、練習の輪に参加したい。そんな私の想いに呼応するかのように、右手の人差指と中指の先が微かに疼く。
そしてその願いは、意外にもすぐに叶うこととなる。
「ちょっと良いかな君たち!」
「へ?」
突然グラウンドの方から声を掛けられ、ユニフォームを着た一人の先輩がこちらへ駆け寄ってきた。
See you next base……
PLAYERFILE.3:笠ヶ原祥
学年:高校一年生
誕生日:3/17
投/打:左/左
守備位置:???
身長/体重:156/56
好きな食べ物:柑橘類(特におばあちゃんの家で採れる八朔)