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ベース⚾ガール!  作者: ドラらん
第三章 野球がしたい!
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30th BASE

30話まで来ました。

まだまだ数は少ないですが、とりあえずここまで続けていられることを嬉しく思います。

ただ自分で言うのもなんですけど、30th BASEって、いつになったら点が入るんだろう……(笑)。

 ――私には、壊してはいけないものがある。


「ごめん、待たせちゃったね」

「全然オッケー。じゃあどこ行く? 私ゲーセン行きたい」

「えー。ゲーセンはこの前行った。それより新しくできた喫茶店行こうよ」

「あそこ遠いじゃん」

「ちっちっち。分かってないなあ篤乃(あつの)は。それが良いんだって。頑張って自転車を漕いだ先で、至福の時が待ってる。そしたら食べる物も一段と美味しさが増すじゃんね」


 楽しそうに行き先を決める三人の女の子たち。(はやし)篤乃、宮下(みやした)小春(こはる)中園(なかぞの)千恵(ちえ)。皆、私にとって大切な友達だ。


「紗愛蘭はどこ行きたい? いつだったか行きたい場所があるって言ってたよね」


 “あっちゃん”こと、林篤乃が私に尋ねる。こういう時、決まってあっちゃんは私の意見を尊重してくれる。


「私は良いよ。皆が行きたいところで」

「そんなこと言わずに言いなよ」

「ほんとに大丈夫。私は皆と居られればそれで十分だから」

「うわこいつ、また調子の良いこと言いやがって。嬉しくなっちゃうだろ」


 ありのままの気持ちを言っただけだったが、横で聞いていた小春は照れ隠しをするように微笑み、私の肩を組んでくる。私はその腕を軽く握る。


「あれ? 紗愛蘭の目なんか赤くない?」

「そう? 日焼けしちゃったのかも」


 小春に指摘され、私は咄嗟に瞼をマッサージする仕草を見せる。


「いやいや、今日体育無かったでしょ。それに中学でソフトやってた私たちが、そんな簡単に日焼けするわけないじゃん」


 小春から突っ込みが入り、他の皆が笑い出す。それに釣られて、私も無意識に笑顔を作った。


「ささ、早く行こ。お店まで遠いし、暗くなっちゃうよ」


 千恵が颯爽と自転車を漕ぎ出す。


「待ってよ千恵。ていうかまだ喫茶店行くって決まってないでしょ」

「えへへ。こういうのは行動したもん勝ちでしょ。じーっとしてる方が悪いんだよ」


 三人は私の親友でもあり、恩人でもある。どん底にいた私に、手を差し伸べてくれたのだ。だから、この関係を絶対に壊してはいけない。そのために少しの我慢をするくらい、私にとってはどうってことない――。



 

 鼠色のアスファルトに滴る汗の雫。現在私たちは、体幹トレーニングの真っ最中だ。腕の筋肉と爪先だけで体を支え、腰が地面に落ちていかないよう必死に堪える。


「……4、3、2、1、はい止め」

「はあ……」


 左隣の京子ちゃんが大きく息を吐き、お腹から倒れる。今にも泣き出しそうな苦悶の表情をしていた。


 私たち一年生は、全ての練習を上級生と一緒に行っているわけではない。別個で筋トレやランニングなどの体作りがあり、全体練習から離れて行っている。


「うう……、きついよお」

「こら陽田、まだ一セット終わってないぞ。お前は他の人に比べて体幹が弱いんだから、よりしっかりやらないと駄目だ」

「はーい……」


 体幹トレーニングとは、胴体の核となる部分を鍛えることで体を強くし、パフォーマンスの向上や怪我予防を図るものだ。女子野球部では何種類かのトレーニングを組み合わせ、各六〇秒ずつやることで一セットとしている。どのメニューも結構体に効くもので、かなり辛い。


「じゃあ次、よーいスタート」


 そしてこのトレーニングを仕切っているのが、女子野球部の第二顧問、森繁(もりしげ)(なごみ)先生だ。名前を聞いた時、どうしてか私は強面の男の人を想像してしまったが、全然そんなことはない。凛々しい顔立ちの女性の先生で、大人びたポニーテールがとても似合っている。

 年齢は不詳。ただし先輩に聞いたところによると、木場監督より三つくらい年上らしい。グラマラスなプロポーションを兼ね備え、京子ちゃん曰く森繁先生こそ理想としている体型の人であるそうだ。野球のことになると妥協を許さない人で、とりわけ基礎練習においては容赦が無い。


「西江、体が下がってきてるぞ。もっと上げなさい!」

「は、はい」

「菜々花、前屈みにならない。真っ直ぐに上体を整えろ!」

「はい……」


 こうしたトレーニングをやっていると、どうしても楽をしたいと思うのが人間の(さが)。しかし森繁先生は、そういったものを一瞬たりとも見逃さない。


「……2、1、はい終了」

「はひい……」


 皆揃って地面に崩れ落ちる。私の腹筋は何が楽しいのか、愉快気に笑っている。


「そうだゆりちゃん」


 一セットの区切りついたところで、私は右隣にいるゆりちゃんにある質問をする。


「どうした?」

「ゆりちゃんってさ、一年六組に知り合いいたりする?」

「六組? 六組はいないかな」


 ゆりちゃんは倒れ込んだ状態のまま、考え込む素振りをする。


「あ、そういえば椎葉君とかは六組だったと思うよ」

「そうなの?」

「うん。クラスの男子から聞いた。けどなんで?」

「六組にちょっと気になる人がいてね。その人について知りたいんだよ」

「おお、それは男か? もしや椎葉君だったりして」


 悪戯な笑顔をするゆりちゃん。私は少し頬を赤らめながら、真っ先に否定する。


「ち、違うよ。そもそも女の子だって」

「ほんとかな? 顔赤いぞ」

「ほんとです」

「おいそこの二人。次のセットに移るぞ! それともまだまだ元気があるようだし、お前らだけ九〇秒でやるか?」


 魔女のように口角を上げる森繁先生から、地獄の提案が飛んでくる。


「い、いえ、大丈夫です!」


 私たちは直ちに次のセットに入るための体勢を取る。ただでさえ苦しいのに、それ以上の負荷はごめんだ。


 何はともあれ、椎葉君が六組にいることが分かったのは大きい。今日の夜にでも紗愛蘭ちゃんのことを聞いてみよう。



See you next base……


PLAYERFILE.17:森繁(もりしげ)(なごみ)

学年:教師

誕生日:11/18

投/打:右/右

守備位置:第二顧問

身長/体重:162/58

好きな食べ物:落花生、はかりめ


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