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ベース⚾ガール!  作者: ドラらん
第一章 野球女子!
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2nd BASE

お読みいただきありがとうございます。


一話目で好きなものを存分に詰め込んだと述べましたが、それが一体何なのか、その辺りも考えながらお楽しみください。

 近くの海から聞こえる波の音を背に、私と京子ちゃんは駅へと続く坂を上がる。


「いやー、今日からウチらも高校生だねえ」

「ふふっ。楽しみだなあ。高校でもよろしくね、京子ちゃん」

「あいよ。こちらこそよろしく」


 赤ぶち眼鏡をかけ、中学時代から変わらない三つ編みを揺らす私の親友、陽田ひなた京子ちゃん。小学校の頃からの付き合いで、ずっと前から一緒に登校し続けている。


「そういえば真裕は、高校でも野球部に入るの?」

「もちろんだよ! そのために女子野球部のある高校を選んだんだから」


 私は鼻息荒く、京子ちゃんの質問に答える。


「ま、そうだよね」

「京子ちゃんも入ろうよ。中学もソフト部だったんだし」

「えー。お誘いはありがたいんだけど、他にもやりたいことあるしなあ。せっかく女子高生になったんだし」


 京子ちゃんは腕組みをし、眉をひそめる。私と京子ちゃんは小学校の時、同じ学童野球のチームに入っていた。


「やりたいことって、例えば?」

「そりゃあ一番は恋でしょ。天下の女子高生なんだから、実りある青春を送らないと」

「え? でも京子ちゃんの恋愛対象は、画面の中にしかいないんじゃないっけ?」

「う……、それはだねえ……」

「しかも最近は、男同士もいけるとかなんとか言ってた気が……」

「そうなんだよ! ウチも分かってきちゃったんだよ、その良さが!」


 私の言葉に食い気味に反応する京子ちゃん。私の額にぶつかりそうな勢いで、顔を近づけてくる。


「昨日なんか紘汰様と進之介様という、最高にベストマッチなカップリングを見つけちゃったの! 真裕はどっちが攻めだと思う?」

「さ、さあ……。私はどっちも知らないから何とも……」

「やっぱり紘汰様が攻めかな。なんたって神様だしね」

「そ、そうなんだ……」


 私は引きった笑いを浮かべるしかない。この話題は私には向いていないようだ。


「ていうか、真裕こそどうなの? 中学は男子に混じって野球部に入ってたわけだし、何か良いこと無いの?」

「な、何にも無いよ。私なんてきっと、女子として見られてなかったよ」

「いやいや、そんな立派なもの持っておいて、それは絶対無いわ」

「へっ?」


 京子ちゃんは私の胸元に目をやる。何故だか羨ましそうな眼差しだった。


「ま、当の本人は野球にしか目が無いみたいだし、仕方ないか」

「うん。言うなれば今の私は、野球が恋人かな」

「あそ。そりゃ末永くお幸せに」

「えへへ。ありがとう」


 私は思わずはにかむ。ただし京子ちゃんの方は憮然としている。


「……えっと、褒める意味で言ったんじゃないんだけどね」

「へ? 何か言った?」

「何も言ってない。電車ももうすぐ来ちゃうし、ちょっと急ごっか」

「そうだね」


 私が頷くと、京子ちゃんは僅かに歩くスピードを速める。私もそれに合わせながら、駅の中に入った。

 

 私が進学先に選んだのは、県立亀ヶ崎(かめがさき)高校。県内で二つしかない女子野球部がある高校の一つで、私の家からはこちらの方が近かった。最寄りの駅から少し距離があるというのが難点だけれど、野球ができるのなら私はそんなこと気にしない。聞いたところによると女子野球部は一昨年から顧問が変わり、つい五日前まで行われていた全国大会ではベスト八まで進んだそうだ。


「京子ちゃん、野球部見に行こうよ」


 入学式が終わり、私は早速野球部の見学に行くことにする。京子ちゃんとは同じクラスになり、正直かなりほっとした。


「相変らずやる気満々だね。でもウチ、まだ入るって決めたわけじゃないんだが」

「良いじゃん、行こうよ。別に入部するわけじゃないんだしさ」


 渋った顔をする京子ちゃんの肩を揺らし、私は何とか一緒に連れていこうとする。実を言うと、一人で行くのは非常に心細い。怖い先輩とかに捕まったら嫌だし。


「入部するわけじゃないって言うけど、こういうのって、行ったら確実に入部させられる流れに持っていかれるでしょ」

「そんなことないって。ほんとに見るだけだから」

「し、信用ならない」


 中々首を縦に振ってくれない京子ちゃん。そこへ、一人の女子生徒が声を掛けてくる。


「陽田さん、どこか部活見に行くの?」


 女子生徒は既に京子ちゃんと仲良くなっているみたいだった。私と同じくらいの背丈で、左右にバランス良く跳ねた髪が、雄雄しくも可愛らしい。


「えっと……」


 私は困惑気味に女子生徒の顔を覗く。すると京子ちゃんが名前を教えてくれた。


(かさ)()(はら)さんだよ。笠ヶ原(さち)さん。ウチの隣の席なの」

「祥で良いよ」

「そう? ならウチのことも京子で良いよ」

「分かった。それでそっちの子は……」


 祥ちゃんが私の方を見る。すかさず私は自己紹介した。


「あ、私の名前は柳瀬真裕。京子ちゃんとは幼馴染なの。よろしくね、祥ちゃん」

「そうだったんだ。こちらこそよろしく、真裕」


 私は祥ちゃんと握手を交わす。祥ちゃんは女子にしては落ち着いた声色をしているからか、他の人たちよりも高校生として相応しい雰囲気が出ている。


「私たちは今から、野球部の見学に行くつもりなんだ」

「ウチはまだ行くって決めてないんだけど」


 京子ちゃんはしかめ面で私を見る。


「野球部に入りたいってことは、真裕はマネージャー希望なの?」

「違うよ。私たちが見に行くのは女子野球部。選手として野球をやるの」

「へえ。女子野球部なんてあるんだ。知らなかったよ」


 祥ちゃんは口でほの形を作る。全国大会でベスト八に進んだといっても、まだまだ女子野球自体が盛んでないこともあり、どうやら部の存在もそこまで知られていないらしい。


「けどなんだか面白そうだね。私も付いていっていいかな?」

「全然構わないよ! 寧ろこっちからお願いしたいくらい」

「ほんとに? 嬉しいなあ」


 祥ちゃんは腰に手を当て、白い歯を見せる。ところがそこに、京子ちゃんが横槍を入れる。


「祥、気を付けて。安易な気持ちで付いていったら、その気がなくてもあれよあれよという間に入部させられるよ」

「ちょっと京子ちゃん、そんなことないって言ってるでしょ」


 私と京子ちゃんのやりとりを見て、祥ちゃんは柔らかに目を細める。


「あはは。でもそれならそれで良いかな。高校生になったことだし、何か新しいことを始めてみたいと思ってたんだ」

「そうなの? よし、そうと決まれば早く見に行こう!」


 私は祥ちゃんの腕を取り、意気昂然(こうぜん)と駆け出す。


「わっ! いきなりは危ないって!」


 私の走り出す勢いに押され、体が前のめりになる祥ちゃん。咄嗟に右足を前に出して踏ん張り、体勢を立て直す。


「ごめんごめん。張りきり過ぎちゃった」

「もう、気を付けなよ」


 祥ちゃんに怒った様子はなく、口元も軽く緩んでいる。


「気を取り直して行こうか」

「うん。京子ちゃんも早く来なよ」


 私は手を振って京子ちゃんを呼ぶ。


「はあ……。しょうがないなあ」


 京子ちゃんは額に手を当てる。だが少ししてから、私たちの後を追って歩き出した。




See you next base……




PLAYERFILE.2:陽田京子(ひなたきょうこ)

学年:高校一年生

誕生日:4/20

投/打:右/左

守備位置:遊撃手

身長/体重:151/49

好きな食べ物:ポテトチップス、ハンバーガー

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