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ベース⚾ガール!  作者: ドラらん
第二章 初試合!
24/181

23th BASE

私自身、強豪と対戦するのは経験はあまりなかったですが、やっぱり強いチームの選手って醸し出す雰囲気から明らかに違うんですよね。

あういうのって、どうやったら身に付くんだろう……?

 九回表のマウンドに上がるのは、男子野球部三番手の米野(よねの)。前の回から登板している。


(追い越すことができたし、この回を抑えればこっちの勝ちだ。椎葉なんて登板させない。この試合は俺が締めてやる)


 米野は入念に足場を整える。先頭バッターである真裕は、自らを鼓舞する大声を張り上げて打席に入る。


「お願いします!」

(私が出れば、逆転だって見えてくる。良い形で光毅さんたちに繋ぎたい)


 初球、米野は内角にストレートを投げてきた。真裕は果敢に打ちに出る。

 しかしバットには当たらず。続く二球目は外角にスライダーが来る。ストレートにタイミングを合わせていた真裕は思わず手を出してしまい、連続で空振りを喫する。


(追い込まれちゃった。でもここは何としても塁に出なきゃ)


 バッティングも苦手ではない真裕。右方向に意識を置き、外に逃げていく球にもついていけるようにする。


 だが三球目、男子野球部バッテリーは膝元へのストレートを投じてきた。アウトコースを警戒していた真裕にとって、ここは死角となるゾーンだ。


(そ、そこは……)


 咄嗟に対応しようとする真裕だったが、体の反応が追い付かない。スイングすることすらできず、ボールがミットに収まるのを見届けるしかなかった。


「ストライク、バッターアウト!」


 あっという間にワンナウトを取られる。打順はトップに返り、光毅にバッターボックスが回ってくる。


「ごめんなさい」

「気にすんな。私が何とかするから」


 すれ違う真裕を宥め、光毅が打席へと向かう。今日は一打席目に加え、その後更に二本のヒットを重ねている。


「光毅さん……」


 ベンチに戻った真裕は、不安そうな顔を浮かべて光毅を見つめる。いくら三本打っているとはいえ、この場面で出るとは限らない。


「だ、大丈夫だよ」

「え?」

「光毅は打つ。きょ、今日は、そういう日なんだから」


 そこへ、たどたどしくも信頼の籠った言葉が聞こえてくる。声の主は、光毅の後を打つ風だ。半信半疑の真裕だったが、風の発言は現実となる。


 初球、男子野球部バッテリーはアウトコースのストレートで攻めてくる。ストライクゾーン一杯のボールで、打つのは至難の業だ。ところが光毅は、それを物ともしない。


(へへへ。今日はボールがよく見える!)


 光毅は真芯で打ち返す。鋭いライナーがセカンドの上を越え、右中間を割っていく。


「おお!」


 自慢の快足を飛ばして光毅は疾走する。一気に二塁まで到達したが、外野はまだやっとボールに追いついたところだ。


(これはもう一つ行ける!)


 光毅は二塁ベースも蹴った。ボールが中継に入った碧来から、サードに送られる。しかし光毅はそれよりも早く三塁ベースに到達。三塁打となる。


「しゃあ!」


 雄叫びを上げながら、光毅はベース上で手を叩く。ワンナウトランナー三塁。土壇場で大チャンスが巡ってきた。


「すごい! 本当に打った!」


 見事な一打に、真裕の声にも活気が戻る。同時に女子野球部ベンチの士気も上昇する。


「風、絶対(かえ)してよ!」


 光毅からの声に頷いた風が、ネクストバッターズサークルを立ち上がる。だがここで、まさかの出来事が起こる。


「タイム」


 風との対戦を前に、キャッチャーの小谷はマウンドに駆け寄り、一回間を取る。


「コースは悪くなかった。あれはバッターが上手く打ったよ。ランナー三塁だし、さっさと切り替えてゴロを打たせにいこう。良いボールは来てる。きっと抑えられるさ」 

「ああ、分かった」


 米野を励ましつつ、小谷は対策を練る。すると突然彼の身体が何かの気配を感じ取る。


「ん?」


 小谷の首は無意識にそちらの方へ動く。その先にはなんと、こちらに向かって悠然と歩いてくる丈の姿があるではないか。


「え、ええ……?」


 グラウンドにいたほとんど全員が状況を把握できず、何も言わずに傍観している。というよりも、丈の(まと)う覇権的なオーラが、誰一人言葉を発することを許さなかった。


「俺が投げる」


 マウンドに来た丈は開口一番、小谷と米野の二人にそう言い放つ。頭が真っ白になりかけていた小谷だったが、瞬時に我に返った。


「い、いや待てよ。お前は今日投げる予定じゃないだろ。それに監督だって、投手交代なんて告げてないぞ」

「関係無い。ここは俺が抑える」


 選択の余地など与えないと言わんばかりの、丈の尖った目つき。気圧されてしまった小谷は慌てて自軍のベンチを見る。大道は仕方無く小谷を自分の元へと呼ぶ。


「あの……」

「分かっとる。どうせ、ここは俺が抑えるというようなことを言っとるんだろ」

「はい……」


 腕組みをしつつ、口を真一文字に結ぶ大道。長い間監督を務めているだけあって、その辺りの監督よりも飛び抜けて貫禄がある彼だが、立ち上がるとその迫力は更に増す。小谷の表情も強張り、とりあえず余計なことは言わないようにと口を噤む。


「ふん、まったく世話が焼けるな」


 大道はそう言葉を溢す。本音としては丈を投げさせたくない。だが彼がブルペンで投球練習を始めた時点で、こうなることは予測していた。それがチームにとって、丈自身にとって良いことかどうかを考えた上で、大道は決断を下す。


「小谷」

「はい」

「ピッチャー交代だ」

「え……」

「ピッチャーに椎葉を入れ、四ノ宮に代わって米野をファーストに回す。良いな?」

「は、はい。分かりました」


 小谷は瞠目(どうもく)しながら返事をする。この時彼は、自分の胸が焼けているのではないかと錯覚を起こすくらい、熱くなっていくことに気付く。小谷もまた、碧来と同じように丈が投げることを切望していたのだった。


「椎葉を出すからには点を取られるわけにはいかん。きっちりとリードしてくれ」

「はい!」


 小谷は駆け足でマウンドへと戻っていく。その顔の中に、真っ白に輝く歯を捉えることができた。


「球審、ピッチャー椎葉に交代します」

「え? 俺交代なの?」

「ああ、お前はファーストに入ってもらう」

「はあ? ちっ……」


 米野は明らかに不満そうな顔をする。しかし監督が言った以上、逆らうことはできない。

彼は渋々、グラブを取り換えにベンチへ戻る。


「さてと、じゃあそういうことなんで、頼みますよ大エースさん」

「当たり前だし」


 丈は小谷からボールを受け取る。


 思わぬ形ではあるが、男子野球部の大型ルーキーが今、ベールを脱ぐ。



See you next base……



PLAYERFILE.15:小谷勇輝(こたにゆうき)

学年:高校一年生

誕生日:4/23

投/打:右/右

守備位置:捕手

身長/体重:166/58

好きな食べ物:味噌カツ、どて煮


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