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ベース⚾ガール!  作者: ドラらん
第二章 初試合!
20/181

19th BASE

お読みいただきありがとうございます。


ゴールデンウィークに入りました。

といってもこの三連休は特に予定が無く、家に引きこもることになりそうです(笑)。

 セットポジションに入り、打席の北条と対峙する空。彼女は優築からのサインを受け取ると、二塁ランナーを目で牽制し、北条への一球目を投じた。


左手から離れたボールは一旦浮き上がり、弧を描くようにいて落ちていく。低めのカーブ。一打席目と全く同じ入り方だ。しかしまたしても、北条は空振りを喫する。


「ちっ」


 北条は見るからに苛々(いらいら)した様子で舌打ちをする。それを目にした優築は、心の中で溜息をつく。


(さっきから同じこと繰り返してるだけじゃない。これでよく四番任せてもらえてるわね。当たれば大きいのが打てるんだろうけど、こんなんじゃ話にならない)


 二球目は高めに外れる。その次の球、優築は外角にストレートを要求した。


「ストライクツー」

「え?」


 審判のコールに、北条が不満げな目つきを向ける。彼にはボールに感じられたようだ。優築はマスク越しに呆れ顔を作る。


(いやいや、今のは全然ストライクでしょう。これが外れて見えるってことは、意識が大分レフトに向かっているってこと。それなら迷うことはない。空さん、この球で決めましょう)


(オッケー。一発で仕留めますよ)


 カウントはワンボールツーストライク。サインの交換が終わり、空が投球動作に入る。


(さあ、さっきみたいに盛大に空振れ!)


 空は力強く腕を振る。最初の見た目は、真ん中へのストレート。北条はタイミングを合わせてスイングを始める。


 だが突如ボールは失速し、下へと沈んでいく。バッテリーが選んだ勝負球は、一打席目と同じチェンジアップだ。


(やった!)


 北条のバットは止まらない。バッテリーは勝利を確信する。


 ところが次の瞬間、北条のスイングの軌道が微妙に変化。若干低めに下がる。


「え?」


 間近で見ていた優築が虚を()かれる中、北条は体勢を崩されながらも、バットの先でボールを拾う。


「セカン!」


 空と優築が揃って声を上げる。打球はセカンドの頭上に飛んだ。


「うおっ⁉」


 光毅がジャンピングキャッチを試みるが、ボールはそれを嘲笑うかのように通り過ぎていく。そのままセンターを守っていた晴香の左前に落ちる。


「よっしゃー、回れ回れ」


 二塁ランナーの真田はスタートが遅れたものの三塁を回る。一塁ランナーの四ノ宮も二塁を蹴って三塁へと向かった。


「バックホーム!」

(バックホーム? いや、ホームは多分間に合わない。ここですべきことは……)


 ボールを掴む晴香。彼女は前進してきた勢いを利用して、指示された本塁ではなく三塁へと送球する。

 ボールはノーバウンドで杏玖のグラブに収まる。杏玖は滑り込んでくるランナーの足先に、グラブで触れる。


「アウト!」


 晴香の好判断により、更なるピンチの拡大は阻止された。ただし二塁ランナーは生還。同点となる。


「うう……、まじかあ」


 カバーに入ったホームの後ろで、空は天を仰ぐ。その前方では、優築が悔しそうに奥歯は噛んでいる。


(思惑通りのボールだった。タイミングも外した。だけど付いてきた。それまでは丸きり対応出来てなかったのに)


 打った形を考えれば、北条はチェンジアップを狙っていたわけではない。狙い球を外されてもバットに当て、外野まで運んだ。まぐれなのか本来の技術なのかは分からないが、兎にも角にも結果は同点タイムリー。バッテリーにとっては悔やまれる勝負となった。


「よっしゃ! さすが北条!」


 対する北条は、一塁ベース上でベンチからの声を聞き、ぎこちなく頬を緩める。優築はその一部始終を見つめていた。


(次の打席からは配球を考え直さないと。でも今は切り替えて、後続を絶つ)


 試合は振り出しに戻る。しかしその後の打者を空が打ち取り、一対一のままチェンジとなった。


「追い付かれちゃった……」


 スコアボードに一点が刻まれるのを見て、ベンチの真裕は表情を堅くする。それと同時に彼女の心の奥から、急激に闘志が湧き上がってくる。


「……準備するか」


 真裕は徐にそう呟くと、グラブを持ってブルペンへと駆けていく。ちょうど次の回から登板予定となっている、三年生の武田葛葉が仕上げの段階に入っていた。


「お、真裕も準備に入るのか?」

「はい。居ても立ってもいられなくなっちゃって。少し早いかもしれないですけど」

「分かるぞその気持ち。こういう展開だと、うずうずしてきちゃうね」


 葛葉は勇ましく笑い、ピッチングを続ける。活きの良いボールがキャッチャーの元へ届く。


「うん、良い感じ。真裕、そろそろ私は上がるから、そのままここ使いなよ」

「はい。ありがとうございます」


 真裕は適当にアップを済ませると、引き上げていく葛葉と入れ替わるようにしてブルペンに入る。


「菜々花ちゃん、お願いします」

「了解。いつでもどうぞ」


 葛葉のボールを受けていた北本菜々花に続けてキャッチャーに入ってもらい、真裕が投球練習を開始する。(はや)る気持ちをコントロールしつつ、彼女は自分の出番に備えて着々と準備を進めた。


「アウト。チェンジ」


 七回の裏まで終わった。両者一歩も譲らず、一対一からスコアは動いていない。そして試合は、真裕が登板する八回へと突入する。


「ラスト行きます!」


 真裕はブルペンでの最後の一球を投じ、スタンバイ完了。菜々花と共に駆け足でベンチに戻る。


「お、帰ってきたな。準備万端か?」

「はい! いつでも大丈夫です!」


 隆浯が尋ねると、真裕は快活に返事をする。彼女の(まばゆ)い目の輝きに、隆浯はたじろいだような笑みを浮かべる。


「ははは、それは頼もしいな。展開も展開だが、思いっきり勝負してこい」

「はい!」


 八回表の女子野球部の攻撃は無得点。いよいよ、真裕の出番がやってくる。


「よし、行ってこい!」

「はい」


 隆浯の声に背中を押され、ベンチから飛び出す真裕。全速力でマウンドへと向かい、プレートの横に置かれたボールを手にする。彼女はそれを眉頭(まゆがしら)に当て、目を瞑りながら深く呼吸をした。これが、マウンドに上がった時の真裕のルーティーンだ。


(さあ、行こう)


 目を開けて後ろを振り返ると、ホームでは既に優築がミットを構えて待っている。真裕はそこまでの距離を噛みしめるかのように投球練習を行う。緊張もあったが、真裕の身体はそれを上書きするほどの欣幸(きんこう)で満たされていた。



See you next base……


WORDFILE.5:ストライクとボール

 

 投球に対し、主に打者が自然体で打てる範囲(ストライクゾーン)を通過したものおよび空振りをしたものをストライク、それ以外はボールと宣告される。ボールが四回宣告されるとフォアボールとなり、打者は一塁に進むことができる。

 1845年にルールが作られた野球だが、最初投手は下手から投げることしか認められず、打者は投手にコースの指定ができた。またストライク、ボールというコールがなく、定義さてからも8ボールで一塁、4ストライクでアウトなど様々なルール変更がなされてきた。



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