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ベース⚾ガール!  作者: ドラらん
第二章 初試合!
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18th BASE

お読みいただきありがとうございます。


女子野球って、男子野球と比べるとかなり差があるんですよね。球速も然り、飛距離も然り。これは体のつくりから仕方のないことです。私個人としてはそうしたものが少しでも縮まっていってほしいと感じる反面、女子野球独自の発展の仕方があってもいいのではないかとも思っています。



 一回裏、ワンナウトでランナーは二塁。四番の北条が打席に入り、低い声で球審に挨拶する。


「お願いします」


 一年生の中では抜きんでて恵まれた体格を持つ北条。当たればどこまでも飛んでいきそうな雰囲気を醸し出している。優築はサインを出すと共に、ミットで地面を二度三度叩く。


(ヒットも打たせたくない場面だけど、長打はもっと嫌だ。こういう時の入り方としては、これが一番良い)


 初球。空は低めにカーブを投じた。ワンバウンドするようなボールだったが、北条のバットが空を切る。


(豪快に空振った。この球に手を出してくれるなら、いくらでもやりようはある。もう一球同じ球で様子を見ましょう)


 二球目。一球目と同じカーブだったが、今度は僅かに高くなる。北条は再びバットを出して打ち返す。


「ファール!」


 三塁方向に飛んだ打球はラインを割ってファールとなる。これでストライクが二つ先行し、亀ヶ崎バッテリーは二球で追い込むことができた。優築は球審から新しいボールを受け取り、北条を横目で見ながら空に渡す。


(今のも多少高くなったとはいえボール球。これだけ手を出してくれるのは非常に助かる。余裕を持って配球も組み立てられる)


 三球目は膝元へのストレート。思わず北条が腰を引く。


「おわっと!」


 際どいコースだったが判定はボール。これは空も優築も織り込み済みで、次の球への布石を打つためのものだ。


「むう……」


 北条が空の方をきつく睨む。しかし空は全く動じず、寧ろ思惑通りといった感じである。


(この程度で気分を害すの? そんなんじゃこの先やっていけないでしょ)


 完全にバッテリーの術中に(はま)っている北条。勝負の四球目。優築からのサインに、空は自信満々に頷いた。


(じゃ、これでいっちょ上がり!)


 空の投じたボールは、真ん中やや外よりに行く。バッターからしてみれば絶好球だ。


(来た!)


 北条は思いっきりバットを振る。だがボールはバッターの手元で減速。勢いを失い、バットを躱すように沈んでいく。風を起こしそうなほどの北条のフルスイングだったが、無情にもボールはキャッチャーミットに収められた。


「ストライク、バッターアウト!」

「よし!」


 空は軽くグラブを叩き、笑顔でマウンドを後にする。最後の球はチェンジアップ。空の得意とする球種の一つである。手から放たれた時はあたかも甘いストレートに見えるため、北条もまんまと引っかかってしまった。


「くそっ」


 北条は(ほぞ)を噛む。ピンチを背負った女子野球部だったが、案外あっさりと切り抜けることができた。


「ナイピッチです。完璧でした」

「えへへ。そう簡単に打たれるっかての」


 ベンチに帰る際、バッテリーの二人が言葉を交わす。優築は表情を変えないが、空の口元には仄かに笑みが浮かんでいた。こうして一回の攻防は終わる。


「ひとまず先手は取れた。この回も点取って、どんどん突き放していこう!」

「おー!」


 更に攻勢を掛けたい女子野球部。けれどもそうそう思い通りにはいかない。


「ストライク、バッターアウト。チェンジ」


 ツーアウトから八番、優築が空振り三振に倒れ、二回表はあっけなく三者凡退。ここから試合は膠着(こうちゃく)状態に入る。


 両チームともランナーは出すものの、得点に繋がっていかない。守備側も大きなミスをしない緊迫した試合展開となり、回を追うごとに喉元を締め上げるような息苦しさは強まっていく。


 しかし五回裏、その息苦しさからか、それまでノーエラーだった女子野球部の守備陣に綻びが生じる。


「オーライ」


 ワンナウトから男子野球部の二番、真田が放った打球はサード真正面へのゴロとなる。杏玖はバウンドを合わせてボールをキャッチし、流れるようなステップで一塁に送球する。


「あれっ?」


 ところがライト側に逸れてしまった。ファーストの紅峰珠音が懸命に腕を伸ばすも、ベースから足が離れる。その間にランナーが駆け抜け、一塁はセーフになった。


「やばっ……」


 杏玖の背筋が一気に凍り出す。彼女は思わず顔を歪め、帽子の(つば)を触る。


「す、すみません」

「気にしないで。次はお願い」

「はい……」


 謝る杏玖に対して、気丈な振舞で応える空。だがこうした場面でのミスは、必然的に嫌な流れを呼ぶものである。


「ボールフォア」


 次打者の四ノ宮は四球。ランナーがそれぞれ進塁して一、二塁となり、女子野球部はノーヒットながらもピンチを迎える。


 そしてここで回ってきたバッターは、四番の北条だ。優築は一度タイムを取り、マウンドにいる空の元へ駆け寄る。


「ごめん。最後引っかかっちゃった」

「いえ。出してしまったものは仕方ありません。それよりこのバッターを打ち取ることを考えましょう」

「そうだね。切り替えるよ」


 バッテリーはグローブで口を隠しながら配球を相談する。空の額では、汗が光る。 


「組み立ては基本、これまでと同じ感じで考えましょう。一、二打席目の様子を見ると、彼は打ちたい打ちたいというタイプなので少々のボール球でも振ってくると思います。そこを利用すれば打ち取れる可能性は高いです。低めに集めてゴロを打たせて、ゲッツーを狙いましょう」

「私もそれで良いと思う。了解」


 打ち合わせが終わり、優築がホームに戻っていく。北条は今日一番に猛々しい声を上げ、打席で構える。


「お願いします!」


 彼はここまで二打席連続で三振。いずれもボール球に手を出し、似たようなパターンでやられている。


(気合が入っているようだけど、ここで打たせるわけにはいかないからね。予定だと私はこの回までだし、しっかり抑えるよ)


 ロジンバックに手をやり、空は指先の感覚を整える。今日の調子は悪くない。打ち取るビジョンも明確に見えていた。


「よし、行こう」


 空は握った左手を口元に近づけ、強めに息を吹いた。



See you next base……


WORDFILE.4:三振

 

 ツーストライクの状態から、空振りするかストライクを見逃してアウトになること。バントであればファールでもアウトとなる。しかしキャッチャーがノーバウンドでボールを捕れなかった場合は振り逃げが発生し、タッチされるか送球される前にバッターが一塁を駆け抜ければ出塁が認められる。

 ボールが前に飛ばないことで守備側にとっての危険がほぼ皆無のため、三振を取れる投手は評価が高い。また三振はスコアブック上で「K」と表示されるが、この理由は諸説あり、明確にはなっていない。


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