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ベース⚾ガール!  作者: ドラらん
第十二章 上手くなりたい!
181/181

178th BASE

お読みいただきありがとうございます。


今回で完結です。

ぜひ最後の最後までお読みください!

「ここら辺で良い?」

「俺は構わないけど、柳瀬の制服が汚れちゃわない?」

「ふふっ、これくらい平気だよ」


 海浜緑地に着いた私たちは、防波堤の真ん中辺りに腰を下ろす。正面に広がる海から吹く潮風が心地良い。日中の蒸し暑さも和らぎ、とても快適な気温になっている。いつもこれくらいの気候だったら良いのに。


「そういえば椎葉君さ、秋の大会は順調?」

「順調……かな。来週に県大会の準決と決勝やる」

「もうそんなところまで行ってるんだ。ということは甲子園まであと少し?」

「いや。その後に東海大会があって、そこで勝たないと代表にはまず選ばれない。だからまだまだ先は長いよ」


 椎葉君は座ったまま大きく背伸びをする。夏休みの間に相当な鍛錬を積んだのか、体つきは随分と(たくま)しくなり、背も何センチか伸びている。こうして隣に並ぶと、そのことがよく分かる。

 それだけじゃない。醸し出される威圧感や風格も、以前より精強になっている。秋季大会の歴戦が、椎葉君を更に成長させているのかもしれない。いつとはなしに随分と先を越されたものだ。


「甲子園行くのってほんとに大変なんだね。そこまでやってまだまだって言われたら、私なんて全然駄目だよ」

「どうしたんだよいきなり? 今日の試合でそんなにめためたにされたの?」

「うーん……。そんな感じかも」


 私は両足を抱え込む。靡くスカートの合間から覗く太腿が、ちょっぴり冷える。


「今日ね、東海地区の大会で社会人のチームと対戦したの。だけど五対二で負けちゃったんだ……」

「そうだったのか。でも結果だけ聞く限りじゃ、そんなに落ち込むほどでもない気がするんだけど」

「得点だけならね。要はそれ以上の実力差を見せつけられちゃったんだよ。向こうは走攻守全部レベルが高くて、私たちはほとんどミスしなかったのに押されっぱなしだった。最後なんてしっかり投げられた決め球をホームランにされたんだよ……」


 別に宥めてほしいわけじゃない。優しい言葉を掛けてほしいわけでもない。けれども悔しさが先行し、自然と椎葉君の前で嘆きが口走ってしまう。それはおそらく、彼が私のことを理解してくれるという根拠の無い信頼感からくるものだ。もちろん理由なんて分からない。一つこじつけるとするなら、私と椎葉君が投手として全国制覇を目指しているということだけである。


 そして椎葉君は、私が本当に求めている言葉を投げかけてくれる。


「実力勝負で負けたってことか。なら、もっと上手くなれ。上手くなって、いつかリベンジしろよ。それしかないでしょ」


 そう、これだ。同情なんていらない。ましてや仕方が無いなんて柔な慰めは口が裂けても言ってほしくはない。求めているのは、私を奮い立たせてくれる甘えの無い激励。これは椎葉君にしか言ってもらえない。申し訳ないが、多分杏玖さんや紗愛蘭ちゃんにはできない。


「……そうだよ」

「え?」

「……そうなんだよ。そうなんだよそうなんだよ……」


 私は一旦顔を伏せ、ぼそぼそと呟く。そうして煮え立つ想いが沸点に達したところで唐突に立ち上がると、海に向かって感情を爆発させた。


「もっと! 上手くなりたーい!」

「お、おお? どうした?」


 椎葉君が驚いて肩をびくつかせる。だが私はそれを他所に、何度も何度も絶叫する。


「上手くなりたい! 上手くなりたい! 上手くなりたい! 上手くなりたーい!」


 息が切れそうになる。それでも私は止まらない。


 レッドオルカは強かった。私たちは足元にも及ばなかった。悔しい。とにかく悔しい。


 だから、力が欲しい。あの人たちと互角に戦える力が。抑え込める力が。


「上手くなりたい! 上手くなりたい! 上手くなりたーい!」


 本能の赴くままに、心が熱くなるままに、大声を放ち続ける。こちらに迫ってくる荒波を跳ね返してしまいそうなほどの勢いで。


「ふふっ、面白いことするじゃん。じゃあ俺も。よっこらせっと……」


 私に感化されたのか、椎葉君もやにわに腰を上げ、声を張り上げる。


「俺だって、もっと上手くなりたーい! 必ず甲子園に行って、すげー上手くなって帰ってきてやる!」


 大きな目標を口にする椎葉君。私も負けていられない。


「じゃあ私は、春の選抜で優勝して、めちゃくちゃ上手くなって帰ってくる!」


 これなら少しは私の方が上だろう。ただそうなれば当然、彼も負けまいと目標を吊り上げてくる。


「なら俺は、春の甲子園で優勝して、最高に上手くなって帰ってくる!」

「えー!? なら私は世界大会に出て、究極に上手くなって帰ってくる!」

「いや待て待て。それっていつの話になるんだよ」

「え、いつだろう? ……三年後くらい?」

「いきなり時間飛んだな、おい」

「あはは……、確かに」


 私は思わず苦笑いする。そういえば初めて椎葉君と出会った時も、こんな風に競い合うように叫んでいたっけ。あれから半年の間に色々あったけれど、事あるごとに椎葉君には勇気付けられてきた。私が一方的に思っているだけなのかもしれないが、やっぱりライバルの頑張る姿は刺激になる。


「ねえ椎葉君、男子野球部との練習試合の日のこと覚えてる?」

「え? ああ、覚えてるよ。何か似たようなことやってた気がする」


 椎葉君は懐かしそうに穏やかな笑みを浮かべる。私は背中に快いむず痒さを感じつつ、話を続ける。


「ならさ、あの時誓ったそれぞれの目標も覚えてるよね?」

「もちろん。ていうかさっきほぼ同じこと言ってたしな」

「まあね。けどせっかくだし、今後の景気付けに改めてここで誓っておかない?」

「良いよ。じゃあせーので行こうか」

「うん、分かった」


 波打ち際で高々と水しぶきが上がる中、私と椎葉君が正対する。私は忽ち胸が締め付けられるような感覚に襲われたが、その正体が何なのかは分からない。ただし不思議と嫌な感じはしなかった。


「せーの……」


 私たちは揃って深く息を吸う。それから互いの心を通わせ、一斉に今日一番の大声を腹の底から轟かせる。


「私は!」

「俺は!」

「日本一になる!」


 二人の宣誓が共鳴し、晩夏の空に昇っていく。私たちの目標は、入学した頃から萎むことなどない。全国制覇ただ一つ。どんな強大な相手にも打ち勝ち、頂点に立ってみせる。




 後日、椎葉君は県大会で準優勝し、見事に東海大会へと駒を進めた。ところが現実は甘くなく、甲子園の手前の準々決勝で敗退。奇しくも負けたのは、私が休日を利用して観にいった試合だった。


 こうして私たちの一年目の挑戦は終わった。日本一に手が届きそうになりながらも、未だ越えるべき壁はいくつもある。だからこそ、私たちはこれからも努力を重ねていく。


 いつの日か訪れる栄光の瞬間に向かって。まだまだ歩みを止めるわけにはいかない――。



……home in the first point.


お読みいただきありがとうございます。

今回のお話を持ちまして、『ベース⚾ガール!』は最終回となります。

連載開始から一年半、辛いと思うことはほとんどなく、楽しく書き上げることができました。

それもこれもここまで応援してくださった読者の皆様のおかげです。

本当にありがとうございました。

この作品をきっかけに、少しでも野球に興味を持っていただけたら幸いです。




……あ、次週より第二部に突入します。


『ベース⚾ガール!!~HIGHER~』

厳しい冬を越え、新年度を迎えた亀ヶ崎高校女子野球部。

新たな仲間も加わり、再び日本一への挑戦が始まる……。


野球×少女。

私たちと一緒に、胸を熱く焦がしませんか?




ここまでお読みくださった読者の皆様、本当にありがとうございました。

そしてこれからも引き続き、お付き合い並びに応援のほどよろしくお願いいたします。



2019年9月16日


『ベース⚾ガール!』作者 ドラらん



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