17th BASE
お読みいただきありがとうございます。
皆さんは「ナンジャモンジャ」ってカードゲーム知ってますか?
山札からカードを引いて初めて出たキャラに名前をつけ、二回目以降はその名前を一番早く言った人がカードをもらえるというゲームです(かなり省略して説明してます)。
最近友人とやることが多く、とても面白いです。
だた大抵私が名づけるとおかしなものになるので、そのカードはほぼ自分で手に入れていますが(笑)。
「アウト、チェンジ」
後続が倒れ、一点止まりで初回の女子野球部の攻撃は終了。攻守交替となる。
「くそっ、なんで女子相手に点取られなきゃいけえんだよ」
ベンチに帰った高木は苛立ちを露わにする。女子と野球ができるという浮かれた気持ちと侮慢から油断が生じ、その隙を悉く突かれた。彼はグラブを外すと、地面に叩きつけるような素振りを見せる。ベンチにも嫌なムードが流れる。
「おい、落ち着けって。たかが一点取られただけじゃん。舐めてかかったらやられるって、大怪我する前に分かって良かっただろ」
そう言って高木を宥めるのは、セカンドを守っていた宮藤碧来だ。彼は椎葉丈と同じく、男子野球部の監督を務める大道拓通の勧誘により入部した一人である。野球の実力はもちろんのこと、リーダーシップにも優れており、一年生の中でのまとめ役を任されている。
「すぐ点取ってやるから気にすんな。皆もさ、この試合に負けたら先輩たちに笑われるし、気を引き締めて行こうぜ!」
碧来は手を叩いて仲間を鼓舞する。そこに、あの椎葉丈が話しかけてきた。
「碧来」
「何だよ椎葉」
「お前、一番だろ。行かないと」
「あ、やべ」
慌ててバッティンググラブを付け、碧来は駆け足で打席に向かう。チーム内に笑いが起き、重い空気が仄かに和らいだ。
一方、女子野球部のマウンドに上がったのは、エースの天寺空。受けるキャッチャーは二年生の桐生優築だ。
「一回、三人で抑えるぞ!」
「おー!」
ナインから返ってくる声を聞いた優築が、マスクを被ってしゃがむ。それを確認し、碧来は左打席へと入る。
「お願いします!」
大きな声で挨拶をする碧来。男子高校生にしては幼気だが、その分活力を感じさせる声をしている。
審判からプレイがかかる。ランナーはいないが、空はセットポジションから一球目を投じる。
「ボール」
ストレートが低めに外れる。碧来は反応こそしかけたが、悠然と見送った。
ピッチャーに対して水平にバットを合わせてから、碧来は構えに入る。優築はその一挙一動を入念に観察し、マウンド上の空にサインを出す。
(じゃあ次はこれで)
(分かった)
空が二球目を投げる。球種はカーブ。碧来にとっては遠くへと逃げていくボールだ。しかし、碧来はバットを出す。
(これなら打てる!)
ボールの軌道に逆らわずに打ち返した打球は、レフトの宮河玲雄の前でワンバウンド。男子野球部も先頭バッターが塁に出る。
「おー、ナイバッチ碧来!」
「へへっ」
碧来は顔の横で軽く左拳を作る。このヒットで、男子野球部のムードが盛り返す。簡単に女子野球部へと流れを渡さない。
続いて二番の真田が右打席に入る。すかさず一塁ランナーの碧来はリードを取った。
(かなり大きいリードね。光毅さんよりも出ている気がする。一球様子を見ましょう)
優築からの指示で、空は一つ牽制球を挟む。碧来は余裕を持ってベースへ返り、タッチプレーにすらさせない。
(何かしてきそうな気配はあるし、早く追い込んじゃうのが先決かも)
空の肩にのしかかる、見えないプレッシャー。彼女は碧来の足に注意を払い、クイックで真田への初球を投じる。
「ストライク」
ストレートがストライクになる。真田はほとんど反応を示さなかった。これを見て、優築は思考を巡らす。
(手を出してこなかったってことは、待てのサインが出てたのかな?)
二球目。ベンチからのサインを受け取った真田は、バントの仕草を見せる。
(バント? まずは同点ってことか? それなら強めに転がさせて、二塁で刺す)
優築は内角高めにストレートを要求する。サインに頷いた空は、バッターの胸元目掛けて腕を振った。同時にサードを守る杏玖がダッシュしてくる。
(うおっ、そのコースはきついって)
ほぼ狙い通りの位置に投球が行く。真田はバントを試みるが球威に押され、小フライにしてしまった。
「オーライ」
前進してきた杏玖がボールをキャッチ。碧来は急いで一塁に戻る。送りバントは失敗となり、男子野球部はランナーを進めることができない。
「やっちまった……」
この世の終わりかのように唇を噛みしめ、真田は俯きながらベンチへと引き揚げていく。二番バッターにとって、バントを失敗することほど気まずくなることはない。
そんな真田と入れ替わり、右打席に入るのは三番の四ノ宮。今度は最初からバントの構えをしている。
(またか。よっぽどランナーを進ませておきたいみたいね。とはいってもバスターの可能性もあるし、気を付けないと)
優築は警戒心を強める。もう一度空に牽制を入れさせた。
「セーフ」
(ん?)
先ほどとはうって変わって、一塁が際どいタイミングとなる。優築はそれを見逃さなかった。
(これはもしかして……)
四ノ宮への初球、空が足を上げる。それに合わせて一塁ランナーの碧来は地面を蹴り、猛然とスタートを切った。
(やっぱり来た)
優築は読んでいた。投球モーションの途中で立ち上がり、バッターから大きく離れたところに構える。空もそこにボールを放った。
(よし、優築の読み通りだ)
完全に裏を掻いたバッテリー。しかし……。
「させるか!」
四ノ宮は飛びつくようなスイングで食らいつく。ボールはバットに当たり、弱々しくもショート方面に転がる。
「おっと」
二塁のベースカバーに向かいかけていたショートの風は慌てて方向転換して前に出る。打球が死んでいるため、一塁は微妙なタイミングだ。
(グローブで取ってたらセーフになる)
風は転がってきた打球を素手で掴み、前傾姿勢になりながら一塁に送球。四ノ宮も全速力で一塁を駆け抜ける。
「アウト!」
間一髪で送球が早かった。一塁塁審が右手を突き上げる。
「ナイスショート!」
「ふう……。ま、間に合った」
「風、ありがとう」
「うん。ツーアウトね」
風は胸を撫で下ろし、空とタッチを交わして定位置に戻っていく。ただ好プレーではあったものの、結果的にランナーを二塁へ進められてしまった。そして打席には四番の北条を迎える。女子野球部にも、初回からピンチが訪れた。
See you next base……
WORDFILE.3:ストレート
投球において基本となる球種。真っ直ぐ、直球などとも呼ばれる。変化球と区別されることが多いが、某最強捕手を主人公としたマンガ作品では「ストレートも変化しない変化球だ!」という非常に興味深いセリフがある。
投げられてから変化することなく直進的に進むのが特徴であるが、中には「ブレ球」と表現されるように、打者の手元で微妙に動くものも存在する。因みにドラらんは、綺麗なストレートを投げることができない。




