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ベース⚾ガール!  作者: ドラらん
第十二章 上手くなりたい!
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173th BASE

お読みいただきありがとうございます。


5月辺りから毎日のようにコーヒーを飲んでいるのですが、カフェイン摂取は体力の前借りらしいですね。

少し気を付けます……。

《五番キャッチャー、道蘭さん》


 打者は五番の道蘭。初球、真裕は外角のストレートでしっかりストライクを取る。ボールの威力もまだまだ健在だ。


 二球目も直球を続ける。道蘭は内角低めに食い込んできたところにバットを出し、引っ張った打球を飛ばす。


「オーライ」


 ショートへの平凡なゴロになった。京子は危なげなく処理して一塁をアウトにする。ホームランの後の大事な打者を、真裕はきっちりと打ち取る。


「セカン!」

「オーライ」


 続く六番の米本は三球目を打ち上げる。打球に力は無く、セカンドの愛は数歩動いた場所で落ちてくるボールを掴む。これでスリーアウト。チェンジとなった。


 亀ヶ崎ナインは全員が全力疾走で守備位置から引き揚げ、ベンチの前で輪を作る。その真ん中に立った主将の杏玖は、一度深く息を吸い、今日一番の大声を出してチームを盛り立てる。


「おっしゃあ! 三点差なら十分返せる。一人一人が勝つためにやるべきことをやって、逆転してやろう!」

「おー!」


 打順は六番の洋子からとなる。最終回の攻撃が始まった。


《七回表、亀ヶ崎高校の攻撃は、六番センター、増川さん》


 洋子が右打席に立つ。今日の彼女はここまで無安打。ただしここぞの場面で輝きを放つ勝負強さは夏の大会でも実証している。何とか活路を示してもらいたい。


(良い球が来たら打っていくべきだけど、ストライクは何でも振っていけば良いというものでもない。攻撃的だけど冷静に、打つべき球を見極めろ)


 初球はアウトコース一杯へのストレート。これは打っても凡打になりそうだ。洋子は球筋を見定めることに専念する。


「ストライク」


 二球目。城はスライダーを使ってくる。低めから滑っていく軌道に洋子は惑わされず、バットを出すのを我慢する。こちらはボールとなった。


(もう変化球は普通に織り交ぜてくると考えて良い。甘く入ってきたら迷わず叩く)


 三球目。カーブが高めに浮いた。沈んだ先はほぼど真ん中。洋子は意を決してバットを振り抜く。


「サード!」


 芯で捉えた打球が宮原の頭の上を通過。ボールはレフトの左に弾み、フェンスに跳ね返る。その間に洋子は二塁を陥れる。大逆転への狼煙となるか。まずは一人ランナーが出た。


「おしおし。洋子さん、ナイスバッティングです!」


 次の次の打者である真裕は、ヘルメットを被ってネクストバッターズサークルで待機しようとする。だが彼女がベンチを出ようとしたところで、後ろから紗愛蘭が声を掛けた。


「待って真裕」

「ん? どうした?」


 真裕は振り返って紗愛蘭の顔を見る。その表情はこれまで見せたことがないほどに険しく、果てしない悔恨の念を帯びている。紗愛蘭は口を噤んで一度唾を飲み込むと、真裕にあることを懇願する。


「……私に回して」


 紗愛蘭が言ったのはたったそれだけ。しかしその短さこそ、彼女の何としてもやり返したいという熱情を物語っていた。


「紗愛蘭ちゃん……。分かった。必ず回してみせる。……その代わり、絶対に打ってね」


 真裕は握った左手を差し出す。紗愛蘭はそれに呼応し、同じく左拳を作って突き合わせる。すると真裕は何も言わずににっこりと笑い、ネクストバッターズサークルに入った。


「ファースト」

「オーライ」


 七番の優築がファーストフライに倒れたのを見て腰を上げ、真裕はバットを持って打席に向かう。彼女が出塁すれば、次の愛がダブルプレーにならない限り紗愛蘭に回る。


(……紗愛蘭ちゃん、よっぽど悔しい思いをしてるんだろうな。ここまでのこと考えたらそりゃそうか。私だってこのまま引き下がるわけにはいかない。紗愛蘭ちゃんのお願いとか関係無く、チームが勝つために私は塁に出るんだ)


 八番を打っている真裕だが、それはあくまで投球に重きを置けるようにするため。本来ならばもう少し上位の打順に並べられる実力を持っている。城が相手とはいえ、三打席目ともなれば対抗できないことはない。


 初球、城が外角にストレートを投じてくる。真裕は果敢にバットを振り、真後ろにファールを打つ。タイミングは取れているようだ。


 二球目はインローへの直球がボールとなり、続いて三球目。バッテリーは外から曲げるカーブを使ってきた。


「ストライクツー」


 外れていると思って見送った真裕だが、球審はストライクの判定を下す。これで追い込まれた。


(うーん……、そこに投げられると厳しいなあ。決め球は真っ直ぐか変化球か。絞り辛いけど、とにかく食らいついていくしかない)


 四球目。城の投球は低めへ。真裕は打ちにいこうとするも、ボールは彼女の体に向かって斜めに曲がり出す。


「おっと……」


 真裕は咄嗟にバットを止める。道蘭は一塁塁審にハーフスイングを問うたが認められなかった。


(危ない危ない。これがスライダーか。来ると思っておいて良かった。じゃなきゃ絶対に振ってたよ。とりあえずこれで並行カウント。変化球を二球続けたし、ピッチャーはストレートが投げたくなると思うんだけどな)


 自分と照らし合わせ、真裕は城の心理を読み解く。そうして直球への意識に重きを置くことにする。


 城がセットポジションに就き、五球目の投球を開始する。投じてきたのは、外角のストレートだ。


(よし来た。座標はセカンドの頭の上!)


 真裕はボールの軌道に沿ってバットを出し、芯で弾き返す。打球は彼女の意図した通り染池の頭上を越え、その後方に弾んだ。


「やった。真裕、ナイスバッチン!」


 紗愛蘭が喜ぶ中、真裕は一塁ベースに到達。そこで紗愛蘭に向かってサムズアップする。紗愛蘭はほんの僅かに口角を持ち上げた。


(バットに当たった瞬間は球が重く感じたけど、意外に飛んでくれた。やんわりとだけど球威が落ちてるんだ。これなら紗愛蘭ちゃんは打ってくれるはず)


 これでワンナウトランナー一、三塁。真裕は約束を果たし、紗愛蘭に打順が来る状況を作った。



See you next base……



★投手と捕手の打順について★


 投手と捕手は特に負担の掛かるポジションのため、打順は優先して下位に置かれることが多い。突出した打撃能力があれば上位を打つこともあるが、近年はアマチュア野球でも減少傾向にある。

 現在のプロ野球界では一人だけ投手を務めながらクリーンナップを打つ選手がいるが、あれは例外中の例外。ただの化け物である。


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