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ベース⚾ガール!  作者: ドラらん
第十二章 上手くなりたい!
174/181

171th BASE

お読みいただきありがとうございます。


本日は大学時代に所属していたサークルのOBライブに参戦しております。

今頃は荒々しくギターを弾きかましていることでしょう(笑)

 六回表、一点ビハインドの亀ヶ崎の攻撃。ツーアウトランナー三塁から珠音の放った打球は、左中間方向へとぐんぐん伸びていく。


「おお! 抜けろー!」


 ベンチにいた亀ヶ崎の選手は総立ちで叫ぶ。打球はフェンスの手前に落ち、起死回生の同点タイムリーとなる。


「おっしゃあ!」


 珠音は二塁を回ったところで止まり、左手を突き上げてガッツポーズをする。力勝負に打ち勝って城の決め球を粉砕。これぞ四番という見事なバッティングであった。


「……悪い。ちょっと甘く入った」

「いや、良い球だったよ。あれを打たれたのなら仕方が無い。相手の方が上だったいうことだよ。切り替えてこの後を抑えよう」

「分かったよ……」


 打たれた城と道蘭は潔く負けを認める。それほど珠音が素晴らしかったということだ。といってもまだ亀ヶ崎は勝ち越せたわけではない。後の打者が珠音を還してもう一点取らなければならないのだ。


《五番レフト、琉垣さん》


 打席に逢依が入る。彼女は新チームになってから好調を維持し、今回の大会でのレギュラーを勝ち取った。ただこの先に続く真のレギュラーになるべく、こうした場面で勝利を手繰り寄せる一打を放ちたい。


(京子から三人連続で良い打球を飛ばしてる。私もこの流れに乗って打つんだ)


 初球、低めにカーブが来る。逢依は力一杯スイングしていったが、バットに当てられずに空振りとなる。顔が真っ先に外へと開いていっており、インパクトの瞬間を全く見られていない。


「ルーあい、無茶振りになってるよ。フルスイングするのは良いけど、基本はしっかりやろう」

「あ、うん。分かった」


 ネクストバッターズサークルにいた洋子から指摘を受け、逢依は自分を見つめ直すべく一旦打席を外す。分が悪い時に遠慮せずタイムを取って時間を作ることも、打つ確率を上げる一つの手段だ。


(いつの間に洋子まで“ルーあい”呼びにするようになったんだ? 愛の変な案がどんどん浸透しちゃってるよ。まあでもそのおかげで少し落ち着けた気もするし、今は良しとしよう)


 洋子はあまり他人をニックネームで呼んだりしない。そのため逢依はびっくりした。けれどもこの一瞬の“驚き”が、彼女に冷静さを取り戻すきっかけとなる。逢依は道蘭から背を向けると徐に目を閉じ、いつもの練習でやっているような瞑想を始める。


(……うわっ、バットがちんちこちんになってる。陽射しが強いし、ずっと太陽に照らされてたらそうなるか。もう秋になるはずなのに暑い日が続くなあ。こういう日は汗臭さが全てを押し退けて鼻に入ってくるから嫌いなんだよ)


 逢依は瞑想を終える。自分の汗の臭いに不快感を覚えつつも、心持ちは大分穏やかになった。頭の中も整理され、彼女は打席に戻って打つべき球を分析する。


(さっきのは恐らくカーブ。空振りはしたけど、狙っていれば打てないことはない。でもそればっかり投げてくるとも限らない。このバッテリーはきっとやられたらやり返そうとしてくる。だから私も真っ直ぐにヤマを張ってみよう)


 二球目。城が投げたのは、アウトハイへの直球。逢依の狙い球どんぴしゃりだ。


(おし、貰った!)


 逢依は体が開かないよう意識してスイングする。ボールがバットの芯に当たるところもしっかりと見ていた。


 痛烈なセンター返しが飛ぶ。二塁ランナーの珠音はホームを目指して駆け出す。


「させるか!」


 だがそこに一人の人間が立ちはだかる。マウンドにいたエースの城だ。彼女は顔の前に向かってきた打球を捥ぎ取るようにして乱暴に掴むと、グラブの中に収まった白球を無言で見せつける。


「ア、アウト。チェンジ」

「ああ、そんなあ……」


 走り始めの一歩を踏んでいた逢依は厳めしい表情を作る。打撃内容は申し分なかったが、ピッチャーライナーというハードラック。二対二の同点止まりで六回表が終わる。


「オッケーオッケー! 珠音も逢依もナイスバッティング。点取った後が大事だし、全員で守っていこう」

「おー!」


 それでもチームの雰囲気はがらりと変わり、一気に明るくなった。杏玖の檄に皆快活に応え、守備へと向かう。


 一方のレッドオルカベンチ。まさかの同点劇に、ナインは揃って危機感を抱いていた。どの選手も非常に鬼気迫る顔つきになっており、攻撃前に組まれた円陣の中は殺気立っている。


「……こうなるとは、正直思ってもいなかったな」


 そう呟いたのは主将の丸山(まるやま)だ。この試合はベンチで見守っていたが、内心ではもっと楽に勝てると踏んでいた。彼女だけではない。そのように感じていたのはチームのほぼ全員が同じだった。


「済まない。打たれたのは私たちの責任だ。向こうの力量を見誤ったせいで……」

「いや道蘭、バッテリーだけのせいじゃない。打撃陣にも問題がある。高校生を相手に二点しか取れていないんだから」


 俯き加減の道蘭の肩を叩いて宥め、丸山は野手の方に目を向ける。そうして彼らを鼓舞すべく、語気を強める。


「もう遊びは終わりだよ。この回であの子たちを潰しにいく。勝ちにいくんじゃない、潰しにいくんだ。これがどういう意味かは分かるよね?」


 丸山の辛辣な物言いに、レッドオルカナインは静かに頷く。この辺りで高校生と社会人の差を見せつけ、亀ヶ崎の選手たちに現実を思い知らせなければならない。


「よし。じゃあ点を取りまくって、この回でコールドにするよ! レッドオルカの恐ろしさを体感させてやるんだ!」

「おー!」


 見た目は可愛いらしいシャチだが、実は海のギャングと呼ばれるほどの凶暴性も秘めている。それを体現するかのように、六回裏の先頭、一番の長谷川は初球を痛打する。


「レフト!」


 打球は逢依の前に落ちる。長谷川は一塁を大きくオーバーランして止まる。


《二番サード、宮原さん》


 更に二番の宮原も続く。ワンボールからの二球目、内角低めに来たストレートを引っ張って三遊間を破る。


《三番センター、和泉さん》


 電光石火の連打でランナーが得点圏に進み、クリーンナップに打順が回る。まずは三番の和泉。彼女は一球目を弾き返してショートの真上に鋭いライナーを放つ。


「京子ちゃん!」

「はい!」


 ヒットになるかと思われたが、京子がジャンプ一番で捕球する。ランナーはそれぞれ帰塁。アウトカウントだけが一つ増える。ネクストバッターズサークルにいた城は、京子が打球を掴んだのを見て思わず眉を顰める。


(またあの子か。まあ良い。これで自分で試合を決めるチャンスができた)


 ワンナウトランナー一、二塁と変わり、闘争心を溢れさせた四番の城が打席へと向かう。攻守を逆転させ、またもや重要な局面でエースと主砲の対決がやってきた。



See you next base……


★シャチについて


 シャチはとっても好奇心旺盛な生物なんだ。興味を持ったものには近寄って確かめる習性もあるんだよ。人間に対して友好的なのもその一環だね。

 でも本当は物凄い咬合(こうごう)力(噛む力)を持っている肉食の哺乳類で、クジラやサメすら捕食してしまうんだ。自然界には天敵が存在しないとも言われているよ。

 可愛くて人懐っこいけど、実は強力。それがシャチなんだ。覚えておいてね。


 以上、挙母レッドオルカ主将の丸山でした。次回もお見逃しなく!


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