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ベース⚾ガール!  作者: ドラらん
第十二章 上手くなりたい!
170/181

167th BASE

お読みいただきありがとうございます。


先日はグランパスの試合を観にいってまいりました。

サッカー観戦は15年ぶりでしたが、様々な面白い演出があってとても楽しかったです。

しかも結果は3-0の快勝。

最高の試合となりました!

《三番サード、外羽さん》


 初ヒットの京子を一塁に置き、亀ヶ崎のクリーンナップを迎える。せっかくなので何とか得点に繋げたい。


(ヒットが出たといっても、ちゃんと捉えられたわけじゃない。変化球を使ってこられようがこられまいが、ストレートをしっかり叩けないとどの道打ち崩すことはできない。私がここで打てれば、皆の道標となれるはず)


 杏玖は直球に的を絞る。初球、城はその直球を内角に投げてきた。


(インコース。思い切り引っ張ってやる)


 三塁線に打ち返すイメージで杏玖はバットを振り抜く。ところがどん詰まりになり、緩いゴロがサードに転がる。


「オーライ」


 前に出てきた宮原が打球を掴む。ただし球足が遅かったということもあり、二塁は間に合いそうにない。彼女はそちらに目をやることなく一塁に送球し、アウトを一つ取った。


「うう……、痛て……」


 杏玖は手の痺れに顔を顰めつつ、ベンチに帰っていく。狙い通りストレートを打ち返したが凡打となってしまった。しかしランナーは得点圏まで進み、一打出ると同点という場面で四番の珠音に回る。


《四番ファースト、紅峰さん》


 珠音の一打席目は城の直球に力負けし、平凡なレフトフライに終わっている。それを踏まえての初球、城は内角低めのストレートを投じる。


「ストライク」


 ゾーン一杯に決まった。珠音はスイングする気で踏み込んでいったものの、打つべきボールではないと判断して見送る。


(ボール自体のキレも良いけど、それに加えて打者が見辛いところにきちんと投げ分けてる。だから皆追い切れないんだ)


 珠音は城の球道をある程度まで見極められるようにはなっていた。あとは芯で捉えられるかどうかだが、際どいコースに制球されているため、闇雲に打ちにいっても術中に嵌るだけ。消極的になる必要は無いが、細心も忘れてはならない。


 二球目は外角低めへのストレート。これも精密にコントロールされている。珠音はバットを出していくも空振りを喫する。だが彼女の今のスイングを目の前で見た道蘭は、仄かに嫌な予感を抱いていた。


(タイミングは合ってる。このコースは打ってもそんなに飛ばせないし、もしかして次に向けて打つポイントを確かめたのか? それなら真っ直ぐは危ないな……。でも私たちにもプライドがある。まだ打たれてないのに、変化球を使うわけにはいかない)


 三球目。バッテリーは引き続き直球で攻める。やや外側に外れ、珠音は出しかけたバットを引っ込める。


(今の一球も態とボールにしたようには見えない。打たれるまでは意地でもストレートってことか。だったら迷うことなく勝負できる。掛かってこい!)


 珠音は一度手首を弛ませ、よりスムーズにバットを振り出せるように準備する。ワンボールツーストライクからの四球目。城の投げたストレートは低めに行くが、コースはそれほど厳しくない。珠音はしなりを効かせてスイングし、ボールをバットに吸い付けるようにして弾き返す。


(捉えた。抜けろ!)


 打球は綺麗なピッチャー返しとなる。マウンドのところでワンバウンドし、勢いそのままに二遊間を割っていく。クリーンヒットが飛び出した。


「回れ京子!」


 二塁ランナーの京子は三塁を蹴る。それを見たセンターの和泉は直接道蘭に返球する。伸びのある低い弾道の送球が返ってきた。


(正面から行ったらアウトだ。背後を取って躱す)


 京子は回り込むように滑り込み、ベースの下角を左手で触ろうとする。道蘭はそれを阻止すべく京子の左肩にタッチ。どちらが早いか。球審は一拍間を空けてから判定を下す。


「アウト! チェンジ」


 僅かに道蘭のタッチが早かった。京子は本塁憤死となり、亀ヶ崎は惜しくも同点のチャンスを逸する。


「あらら……、残念」


 二塁に向かって走っている途中でホームのクロスプレーを見ていた珠音は、速度を緩めて無念そうな顔をする。ただ得点には至らなかったが、確かに彼女は城のストレートを鮮やかに弾き返した。これには道蘭も肝を冷やしていた。


(まさか二打席目で捉えられるとはね。当たりが強かったことと、和泉が落ち着いて処理したことに救われた。次の試合に向けて気を引き締めるためにも、この後は少しギアを上げていかないといけないかも)


 クロスプレー前に地面に投げ捨てていたマスクを拾い、道蘭はベンチに戻る。その目つきは心なしか緊張感を増している。


《四回裏、挙母レッドオルカの攻撃は、三番センター、和泉さん》


 四回裏のレッドオルカの攻撃。打順は先ほど見事なバックホームで失点を防いだ和泉から始まる。好プレーがあった後はそのチームに流れが傾きやすいが、亀ヶ崎としては最小点差を保つためにも無失点で切り抜けなければならない。


(一瞬点入るかと期待したけど、そんなに甘くないか……。先制されたのは私の責任なんだし、ここは我慢だよ)


 少しだけ肩が重くなったのを感じつつ、真裕は和泉への投球に向かう。一球目、彼女は外角にストレートを投じる。


「ボ―ル」


 やや低くなった。二球目。今度はカーブでストライクを取りにいく。


「ボ―ル」


 これも外れた。投手にとっては苦しいカウントができてしまう。優築も次に投げさせる球の選定が非常に悩ましくなる。


(この流れで先頭を四球で歩かせるのは絶対に駄目。こういう時は、やっぱりこの球がベターかな)


 優築はツーシームのサインを出す。真裕も何となくそうなることが予想できており、すんなり首を縦に動かす。


(あわよくばという考えは禁物。まずはストライクゾーン目掛けて腕をしっかり振ろう)


 真裕が三球目を投じる。真ん中やや内寄りの甘めのコースだが、そこから嫌らしく微かに動くのがツーシーム。和泉はバットを出すも芯を外され、フライを打ち上げる。


(おし、儲けた)


 密かにしてやったと思う真裕。しかしこれも野球の神様の悪戯か、打球が飛んだのはサードの後方、誰もが微妙に追い付けそうにない場所だった。


「え……」


 当惑する真裕の視線の先で、打球が地面に弾む。京子がカバーに回ってワンバウンドで捕球するも、和泉は快足を飛ばして二塁に走っていた。


「京子無理! 投げないで」


 素早く反転して送球姿勢に入った京子だったが、愛に制止されたので偽投に止める。何の変哲も無い飛球が結果的にツーベースとなってしまった。


「真裕、しゃーないよ。打ち取ってはいたし切り替えていこ」

「うん、そうだね」


 真裕が京子からの返球を受け取る。割り切って次の投球に集中したいところだが、状況は厳しい。ノーアウトランナー二塁となり、打席に入るのは四番の城だ。



See you next base……

WORDFILE.64:コーナーワーク


 投手が内角・外角すれすれに投げ分けること。一試合通して続けるには非常に高い技術と集中力が要求されるため、プロの選手でもできる者は少ない。

 また単純に投げ分けていれば良いというわけでもなく、打者の反応や配球などを参考にしながら、どのゾーンに投げるか判断していかなくてはならない。投手がコーナーワークを駆使できればそれだけで打者にとっては脅威であり、それなりに力の差があれば今回の城のようにストレートだけで抑えることも不可能ではない。


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