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ベース⚾ガール!  作者: ドラらん
第十一章 投球障害
162/181

159th BASE

お読みいただきありがとうございます。


先日の京都アニメーションでの火災事件、本当にショックでした……。

亡くなられた方のご冥福を心からお祈りすると共に、自分にもしできることがあれば何かしようと思います。

「アウト。チェンジ」


 更なる追加点を狙った亀ヶ崎だったが、後続が倒れて二者残塁となる。スリーアウト目を取られた真裕は、おっとり刀でバットからグラブに持ち替え、四回裏のマウンドに登る。


(点を取ってもらえた。テンポ良く抑えて流れを一気に持ってきたいところだけど、投げ急ぐのは厳禁。私は私のペースでピッチングを続けよう)


 この回の楽師館は三番の錦野から。クリーンナップに入っていくので、一層の注意が必要となる。


「サード!」


 錦野は初球攻撃を仕掛けてきた。内角低めのストレートを捉え、鋭いライナーを飛ばす。


「はい!」


 しかしサードの杏玖が右に跳んでダイビングキャッチ。ヒットかと思われた打球をアウトにしてみせる。


「ありがとうございます、杏玖さん!」

「おう。そう簡単には抜かせないよ」


 ワンナウトとなって続くは四番の宇野。彼女も初球を打ち返す。


「セカン!」


 打球は一二塁間へのゴロになった。ライトへ抜けそうなコースに転がったが、セカンドを守るもう一人の“あい”、江岬愛が回り込んで捕球し、素早く一塁へ投げる。宇野の全力疾走も及ばず、塁審からアウトが宣告される。


「ナイスセカンです」

「イエーイ。もっと褒めて」


 真裕の声掛けに、愛はピースサインをしながら応答する。人一倍元気が良く、その辺りは光毅と似ている。彼女も逢依と同様、他の選手とレギュラーを争う身。ポジションがセカンドということで、今のようなプレーを率なく熟していくことが重要になってくる。


 ナイスプレー二つで三、四番からアウトを取った。さっきの亀ヶ崎の攻撃が相手のミスに付け込んだものだったことを考えると、どちらに流れが傾いているかは一目瞭然だ。


「ストライク、バッターアウト」


 真裕は五番の小和泉を三振に切って取り、結果的にクリーンナップを三人とも抑える。市岐阜戦では四回に捕まってしまったが、今回は乗り切ることができた。


 五回表の亀ヶ崎はランナーを出すも、惜しくも無得点に終わる。攻守が入れ替わり、真裕がマウンドに駆けていく。予定ではこの五回で交代。難なく抑えて大会に気持ち良く向かえるかどうかというところだが、心配は無用だった。


「スイング、バッターアウト」


 スライダーが冴え、真裕は楽師館の下位打線を翻弄する。六番の本橋、七番の渡部から三振を奪ってあっさりツーアウト。八番の原は二球目のツーシームを引っ掛けさせ、ピッチャーゴロに仕留める。


「オーライ」


 ボールを掴んだ真裕は小走りで珠音へ近づき、適度な距離を合わせてから一塁にトスする。きっちりとアウトにした。


「オッケー。ナイピッチ」


 真裕はナインとタッチを交わしながらベンチに戻っていく。今日の内容を見る限り、課題であったスライダーに関しては問題無く使えるようになったと言って良いだろう。東海大会でレッドオルカ相手にどのような投球を披露するのか、今から楽しみになってくる。


 亀ヶ崎は六回表も追加点を奪えず、二対〇のまま裏の楽師館の攻撃に移る。


《亀ヶ崎高校、ピッチャーの柳瀬さんに代わりまして、笠ヶ原さん》


 二番手として投げるのは祥。市岐阜戦と全く同じ継投となる。実を言うと隆浯の中には、真裕と祥の同学年で刺激をし合ってほしいという想いがあった。前回は共倒れで両者消化不良となってしまったが、今回は真裕が好投した。果たして祥の方はどうか。


(真裕はこの前の反省を活かしてた。私も苦手克服に取り組んできたわけだし、その成果を見せたい)


 初登板となった市岐阜戦では左打者に対してストライクが入らず、そこから腕が振れなくなって崩れた。その時の恐怖は祥の心に刻みつけられ、今尚消えていない。けれどもそうした後ろ向きな気持ちに打ち勝てるよう、真裕たちにも協力してもらいながら努力を重ねてきた。そのおかげでひとまず練習では良い形になりつつある。


(ブルペンの時みたいに思い切り腕を振る。それだけは徹底しよう)


 祥は足場を均し、投げる準備を整える。雪辱を期す登板が始まった。


《バッター、菊池(きくち)さん》


 右打席に代打の菊池が入る。祥は足を上げ、初球を投じる。


「ストライク」


 外角にストレートが決まる。ストライクから入ることができた。


 二球目。これもストライク近辺に直球が行く。ヤマを張っていた菊池は打ちに出る。


「ショ、ショート」 


 三遊間にゴロが転がる。京子は逆シングルで打球を捕り、ワンステップ踏んでから一塁へボールを送る。


「アウト」

「ふう……。よし」


 まずは一つ目のアウトを取った。一塁塁審のコールを聞き、祥はほっと一息吐く。


《一番セカンド、平野さん》


 楽師館の打順は三巡目に入る。平野への初球はボールになるも、祥は次の二球目でストライクを取る。


 ワンボールワンストライクからの三球目。祥が投げた高めのストレートを、平野が打ち返す。

 しかし球威に押された。右中間に力無いフライが上がる。紗愛蘭が洋子を制して落下点に入り、左手でボールを掴む。


「ナイピッチ。ツーアウト」

「ツ、ツーアウト」


 紗愛蘭は内野に返球すると、祥に向かって声援を送る。祥ははにかみながら声を返す。


《二番ライト、日生さん》


 次のバッターは日生。初球、祥はインコースでストライクを取る。


 二球目はファールとなり、あっさりと日生を追い込む。ここまで全球ストレートだが、キャッチャーの優築は変化球を要求してみることにする。


(前の試合の影響が心配だったけれど、とりあえずブルペンの時みたいに腕は振れてる。どこかで変化球を投げてみないといけないし、余裕のある内に使っておきたい)

(カーブか。試合で投げるのは初めてだよね。怖いけど、いつかは投げなきゃいけないんだ。ツーストライクだし、今がちょうど良いってことなんだろう)


 祥はサインに頷き、握りを確認してセットポジションに就く。変化球を投げるのは初の試みだが、特に何かを変える必要は無い。そんなことを自分に言い聞かせつつ、ゆっくりと右足を上げる。


(投げ方は真っ直ぐと同じ。しっかり腕を振るんだ)


 日生への三球目。祥が投げたカーブは少し高めに浮いた。だがこれが幸いする。上手い具合にボールゾーンからストライクゾーンへと孤を描き、日生は虚を衝かれてバットを出せない。ボールは優築のミットに収まる。


「ストライク、バッターアウト。チェンジ」


 見逃し三振。決して良いボールとは言えなかったが、腕を振り切ったのが功を奏した。


「ナイスピッチ! 良いねえ祥ちゃん」

「うん。ありがとう」


 ベンチに戻ってきた祥を、真裕が先頭に立って出迎える。今日は自らの投球が良かったこともあり、その顔には笑みが灯っている。


「ピッチャーが頑張ってるし、追加点を取ってあげよう。二点で終わりは寂しいよ!」

「おー!」


 七回表に向かう円陣が解ける。祥はベンチの前列に用意していたタオルを手に取って汗を拭い、水分補給も手早く済ませる。隆浯から何か聞かれなくとも、二イニング目も投げるという気持ちはできていた。


(問題はここからだ。次の回を抑えて、この前のリベンジを果たしてやる)



See you next base……


PLAYERFILE.56:江岬えみさき(あい)

学年:高校二年生

誕生日:7/15

投/打:右/左

守備位置:二塁手

身長/体重:152/50


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