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ベース⚾ガール!  作者: ドラらん
第十一章 投球障害
160/181

157th BASE

お読みいただきありがとうございます。


今年は7月に入っても雨の日が続きますね。

休日に布団を干したいのですが、中々それができなくて辛いです……。


「頼もう!」


 真裕はそう言って両手を上げ、快活に楽師館の校門を潜る。今日の彼女は妙に張り切っていた。


「ふふっ、何それ。道場破りじゃん」


 隣にいた紗愛蘭が不意を突かれて笑い出す。


「あ、そっか」


 真裕は照れくさそうに舌を見せる。という茶番はさておき、彼女たちは足早にグラウンドへと向かう。


「お、いたいた」


 グラウンドに着くと、真裕はある人の元へと駆け寄る。楽師館の一年生、円川万里香だ。


「真裕、久しぶり。元気だった?」

「うーん、まあまあかな。万里香ちゃんの方は……って、あれ?」


 万里香が朗らかに真裕たちを出迎える。しかし何やら様子がおかしい。左足を(かば)うような歩き方をしているのだ。


「万里香ちゃん、足どうしたの?」

「ああこれ? 一塁駆け抜けた時に挫いちゃってね。全治二週間の捻挫だよ」


 真裕の質問に回答し、万里香は苦々しく前歯を噛む。実は彼女、つい先日の試合で怪我を負ってしまっていたのだ。


「え? ということは今日の試合は出られないの?」

「うん。来週に復帰できるかどうかだからね。大会もレギュラーでは出られないと思う」

「そうなんだ……。対戦するの楽しみにしてたのに……」


 真裕は残念そうに上瞼(うわまぶた)を沈ませる。万里香も似たような表情をし、真裕に謝罪する。


「私もだよ。ごめんね」

「ううん、こればっかりは仕方無いよ。しっかり治して、またの機会に万全の状態で勝負しよう」

「そう言ってもらえて嬉しいよ。ありがと」

 万里香と真裕は柔和な笑みを交わす。真裕のテンションが少しだけ下がった。


 それから亀ヶ崎のメンバーが集合し、両チームがアップを熟す。スターティングメンバーも発表され、試合開始の時刻となった。


「ただいまより、楽師館高校対亀ヶ崎高校の試合を始めます」

「よろしくお願いします!」


 先に守る楽師館ナインがそれぞれのポジションに散っていく。するとグラウンド内に、各選手を紹介するアナウンスが流れる。


《守ります楽師館高校のピッチャーは、藤沢(ふじさわ)さん》


 楽師館はこの前の夏大を三年生主体で戦っており、レギュラーだった選手はほとんど残っていない。そのためチーム編成ががらりと変わっている。


「一回、締まっていくぞ!」

「おー!」


 キャッチャーの本橋(もとはし)が守備陣を一喝し、一回表が始まる。亀ヶ崎の一番は、市岐阜戦に続いて紗愛蘭が務める。


「よろしくお願いします」


 市岐阜戦では計四安打を放ち、紗愛蘭は一番打者としての適性を示した。この試合でも結果を出し、良い形で東海大会に入っていきたい。


 一球目。スリークォーター気味のフォームから、藤沢が右腕を振る。横に少しだけ曲がるボールがインコースに決まった。


「ストライク」


 二球目は高めのストレート。紗愛蘭は打ちにいきかけたが、ボールがシュート回転して外に外れていったためバットを止める。


(このピッチャー、直球がナチュラルに動いてる。球速はあんまり出てないけど、そこに騙されて侮ってたら痛い目に合う)


 三球目、藤沢はカーブを投じてきた。斜めに巻き込むような軌道でストライクゾーンに入ってくる。紗愛蘭は手を出せず、追い込まれる。


 四球目。楽師館バッテリーは再び直球で内角を抉ってくる。紗愛蘭は対応しようとバットを出すも、ボールは手元で微妙に変化。芯で捉えられず、二遊間にゴロが飛ぶ。


「オーライ」


 ショートは二年生の(はら)。怪我の万里香に代わって入っている。軽やかな足取りで打球を捕り、一塁へと送球する。


「アウト」


 出塁ならず。ベースを駆け抜けた紗愛蘭は僅かに頬を歪め、ベンチに帰っていく。


(無理に合わせようとしちゃった。振り抜かなきゃいけないのに、どうしても気になっちゃう)


 藤沢のようなストレートは、打者からすると非常に厄介なものである。打つ寸前まで変化したのかどうかさえも分からないため、芯で打ったと思っても実際は外されてしまう。対策も施し辛く、色々と工夫しても上手くいかずに打ちあぐねることが多い。


「アウト。チェンジ」


 二番の京子、三番の杏玖も凡退し、三人で攻撃が終了。攻守が入れ替わる。


《亀ヶ崎高校のピッチャーは、柳瀬さん》


 一回裏のマウンドに真裕が上がる。市岐阜戦でも先発したが、新球のスライダーを思うように機能させられなかった。飛翔からのアドバイスを仰ぎ、その点がどのくらい改善されているのか。この試合で真価が問われる。


(万里香ちゃんがいなくても、楽師館打線が強力なことは変わらない。気を引き締めて挑まないとだし、逆に抑えて自信にするんだ)


 真裕が投球練習を行う。その表情には少し硬さがあったが、気力も漲っていた。


《一回裏、楽師館高校の攻撃は、一番セカンド、平野(ひらの)さん》


 名前をコールされ、楽師館のトップバッターである平野が右打席に入る。真裕は指先にロジンバックを付けてから優築とサインを交換し、普段通り振りかぶって一球目を投じる。


「ストライク」


 アウトハイにストレートが決まった。平野は反応することなく見逃す。


 二球目は外角へのツーシーム。平野はバットを出したが引っ掛け、三塁方向にファールを打つ。

 これでツーストライクとなり、真裕としてはスライダーが使いたいところだ。優築はそれに応えるようにスライダーを要求する。


(握り方を変えてから、真裕のスライダーの精度は大きく向上してる。まずはどれだけ通じるのか、私も確かめておきたい)

(お、いきなりスライダーが来た。もちろん投げますよ)


 サインに頷いた真裕はボールをさりげなく持ち替える。改変した握り方にも慣れ、態々確認する必要も無くなった。


 平野への三球目、真裕の投じたスライダーは、ストレートとほぼ変わらないスピードで低めのストライクゾーンに向かい、ホームベース手前で鋭く横に滑り出す。スイングしようとしていた平野はバットを止められず、空振りを喫する。


「バッターアウト」


 理想的な形で平野を三振に打ち取った。これには真裕も優築も好感触を覚える。


(やったね。これは通用すると思って良いのかな)

(今のは良いボールだった。真裕は確実にスライダーを自分のものにしつつある。決め球でも十分使えそう) 


 打席には二番の日生(ひなせ)が立つ。真裕は三球で追い込み、四球目にスライダーで仕留めに掛かる。


「スイング、バッターアウト」


 日生のバットが空を切り、二者連続の三振。日生は悔しさを滲ませながら打席を後にする。


まだ二人としか対戦していないが、スライダーは見事に威力を発揮している。この後の投球にも期待が持てそうだ。



See you next base……


STARTING LINEUP


亀ヶ崎高校

1.踽々莉 紗愛蘭  右/左 ライト

2.陽田 京子    右/左 ショート

3.外羽 杏玖    右/右 サード

4.紅峰 珠音    右/右 ファースト

5.琉垣 逢依    右/右 レフト

6.増川 洋子    右/右 センター

7.桐生 優築    右/右 キャッチャー

8.柳瀬 真裕    右/右 ピッチャー  

9.江岬 愛     右/左 セカンド



楽師館

1.平野(ひらの)  右/右  セカンド

2.日生(ひなせ)  右/右  ライト

3.錦野  右/左  レフト

4.宇野(うの)  右/右  ファースト

5.小和泉 右/右  サード

6.本橋(もとはし)  右/右  キャッチャー

7.渡部(わたべ)  右/左  センター

8.(はら)   右/右  ショート

9.藤沢(ふじさわ)  右/右   ピッチャー


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