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ベース⚾ガール!  作者: ドラらん
第十章 リスタート
151/181

148th BASE

お読みいただきありがとうございます。


最近昔のゲームで遊ぶことに嵌ってます。

特にGBAを使っているのですが、皆さんはこれが何の略か分かりますかね?

お分かりの人はきっと同世代です(笑)

 四回表、七対四と市岐阜が三点差に迫る。尚もワンナウトでランナーを一塁に置き、打席には八番の松永。その初球、亀ヶ崎バッテリーはアウトコースのカーブから入る。


「ストライク」


 少し高めに浮いたが、松永の打ち気を逸らすことに成功した。まずはストライクを一つ先行させる。


 二球目もカーブを続ける。真ん中から低めに沈んでいき、空振りを奪った。ボールが手前でショートバウンドするも、優築は巧みに捌いてミットに収める。


(これで追い込めた。元よりこのバッターのレベルは高くない。勝負を焦るわけじゃないけど、向こうが余裕を持てない内に速い球で片を付ける)


 優築は外角低めにミットを構え、真裕に腕を振ってこいと合図する。ここに真裕がきっちり投げ切れれば、抑えられるという確証を持っていた。

 優築からの無言の檄に、真裕は深々と頷く。もうこれ以上無様な投球はできない。彼女はランナーの動きを確認し、セットポジションに入る。


(私が勝手なことばっかりしてるのに、優築さんは怒らずにリードしてくれる。後で謝らなくちゃ。その前にここで相手の攻撃を食い止めるんだ)


 三球目。真裕が優築のミットを目掛け、ストレートを投げ込む。だが力んでしまい、ボールは狙いよりも内側に入ってきた。

 松永がコンパクトなスイングで打ち返す。打球は真裕の左をゴロで通過。センターに抜けるか微妙なコースだ。


「ショート!」


 真裕は振り返って咄嗟に声を上げる。その視線の先では、京子が懸命にグラブを伸ばしていた。


「こんにゃろお!」


 ボールがグラブの先に引っかかる。京子はつんのめった体を左足で受け止め、目の前にあったベースを右足で踏む。そしてすぐさまボールを右手に持ち替え、全身を投げ出すようにして一塁へ送球する。


「アウト」


 京子のファインプレーにより併殺が完成。一瞬でチェンジとなる。


「ふう……」


 怒涛の四回表が終わった。真裕は天を仰ぎ、ほっとした様子で一息つく。


「ナイス京子ちゃん。ありがとう」

「はいよ。ジュース一本で手を打とう」


 京子とハイタッチを交わし、真裕がベンチへ引き上げていく。彼女は四回裏の攻撃に向かう円陣に参加した後、急いで優築に謝罪した。


「優築さん、すみませんでした」

「へ? どうして謝るの? 何か後ろめたいことでもしたの?」

「さっきの回に打たれたのは、私が我儘を言ったのが原因です。優築さんには色々と気遣ってもらったのに、かなり迷惑を掛けてしまいました。本当にごめんなさい」


 真裕が頭を下げる。叱られるのではないかと思ったが、優築は態度を変えることなく、何も気にしていないかのように淡々と話す。


「そんなことで態々謝らなくても良いから。今日の貴方はスライダーを試すっていう課題を持ってた。それを突き通そうとしただけでしょ。結果は上手くいかなかったけど、それにけち付けたって何の意味も無い」

「ですが……」

「ですがも何も無いの。投手がやりたいと思ったことを尊重するのは大事なことだしね。でも真裕、何故そんなに焦ってるの?」

「え……?」


 優築は幼子を諭すように問う。これには真裕も思わず顔を上げた。


「別に焦ってなんて……」

「そうは思えないけど。今日の場合で言えば、序盤であれだけスライダーが使えて、それで十分だった。だけど真裕は全然手応えが無さそうにしてる。どうして?」

「そ、それは……」


 真裕は口を閉ざす。答えとして頭に思い浮かんだものはあったが、言い出すことは(はばか)られた。優築はここでは深く追求することはせず、次の回の投球にできるだけ支障が出ないようフォローする。


「もちろん上を目指すのは良いことだけど、私にはどうしても真裕が背伸びをしているように見えるの。もっとゆとりを持って、一つずつ段階を踏んでいきましょ。新しい挑戦っていうのは、少しの躓きが命取りになるものだから」

「はい……」


 覇気の無い返事をし、真裕は自分の右手を見つめる。人差指と中指の先が堅くなり、微かな痛みを伴っている。これはスライダーを投げてできたマメだ。


(私、やってること間違ってるのかな……)


 真裕は虚ろに目を細める。彼女はこの後もう一イニング投げ、ランナーを出しながらも無失点に抑えて降板。皮肉にもスライダーに固執した四回表だけ失点するという、真裕の理想とは正反対の結果となった。スライダーに関して再考すべき点があるのかもしれない。


 気を取り直して以後の試合展開を追っていこう。五回裏、亀ヶ崎は三本のタイムリーで四点を加える。ベンチのムードも急上昇する中、一人だけ硬い顔をしている者がいた。六回表から真裕と交代する予定の祥である。

 祥はこれが初登板となるどころか、初めての野球の試合への出場となる。緊張するなという方が無理な話だ。


「祥」

「は、はい。あ、優築さん」


 打ち合わせにきた優築に呼ばれ、祥は上ずった声で返事をする。


「ひとまずサインを確認しておきましょう。グーがストレートで、パーがカーブね。あとは一を出したら牽制球。これで良い?」

「は、はい。大丈夫です」

「色んなことが頭に浮かんじゃうと思うけど、とにかく私のミットに投げることだけ考えてくれれば良いから。サインとか飛んじゃったら遠慮せずタイム取って」

「りょ、了解です」


 汗で濡れた祥の髪に、ふと小さな虫が止まる。祥は何となく変な感触があるのは分かったが、今の彼女にそれを気にする余裕などあるはずがなかった。


「アウト、チェンジ」


 それから亀ヶ崎が更に二点を加算し、十三対四となって五回裏までが終了する。祥の出番がやってきた。


「さあ祥、元気にいきましょ!」

「は、はい」


 優築に背中を押され、祥は全速力でベンチを飛び出す。マウンドに登ると、プレート横に置かれていたボールを拾い、ホームの方を見る。


(いつも投げてる時よりも遠く感じる。ストライク入るかな……)


 頭の中で不安を駆け巡らせつつ、祥は投球練習を始める。ストレートのみで八球。優築のミットだけを見て腕を振る。ストライクとボールは半々くらいだった。


「セカン行くよ」


 セカンド送球を済ませた優築が、改めて祥に声を掛けようとマウンドへと駆け寄る。


「ボールに力はある。あとはストライクゾーンに投げるだけ。しっかり練習しきたんだから、その成果を見せてやりましょ」

「はい。が、頑張ります」


 顔を引き攣らせる祥に、優築は穏やかに微笑みかける。加えてショートの京子も、ボールを返すついでに一言会話を交わす。


「ほい、ボール」

「ありがと」

「打たれてなんぼ。気楽に行きなよ」

「う、うん」


 京子は祥の腰に軽く叩く。同級生からのエールということで、祥はより一層の力を貰えたはずだ。


 優築と京子がそれぞれの定位置に戻り、六回表が始まる。祥の最初の相手は、四番の大橋だ。



See you next base……

PLAYERFILE.53:米田よねだ哲恵(あきえ)

学年:高校一年生

誕生日:3/3

投/打:右/右

守備位置:三塁手

身長/体重:159/58


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