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ベース⚾ガール!  作者: ドラらん
第十章 リスタート
150/181

147th BASE

お読みいただきありがとうございます。


お読みいただきありがとうございます。


最近スマートウォッチを買い換えました。

今のところ以前のよりも正常に稼働してくれているので、LINEをその場で読めるなど便利に活用できています。

 試合再開。真裕は一つ息を吐いて気持ちを立て直し、打席の米田と相対する。

 一球目。優築は真ん中低めにミットを構え、真裕もそこへと投げ込む。果敢に打ちにいく米田だったが、ボールが突如横へと滑り出し、空振りを喫する。


(初球からスライダー? 組み立てを変えてきたってことかな)


 スイングをし終えた米田がややびっくりしたような表情をする。バッテリーはボール球を一つ挟み、三球目にツーシームで内角を抉る。米田がフルスイングで応戦するも芯で捉えることはできず、打球は米田の左の土踏まずに直撃した。


「いてて……」


 片足で飛び跳ね、痛みを和らげようとする米田。大事には至らず、二度三度素振りしてから打席に入り直す。優築はそれを確認し、真裕とサインのやりとりを始める。


(米田はインコースをかなり窮屈そうにしてる。外の変化球への意識もあるだろうし、内のツーシームを続けてみよう。さっきよりもう少し低い位置から変化させられれば、空振りも奪える)

(ツーシームか……。でも米田さんからは前の打席、スライダーで三振を取ってる。配球を変えようって話はしたけど、ここはスライダーだって良いはず)


 真裕は首を横に振る。サインを嫌ったのだ。


(駄目か。じゃあこれならどう?)


 次のサインは外角のストレート。真裕はこれに対しても首を振る。


(インコースに投げるのが嫌なわけじゃないのか。これはおそらくスライダーを投げたがってることね)


 試しに優築はカーブを要求してみる。当然、真裕が頷くことはない。


(やっぱりか。いくら覚えたてとはいえ、どうしてそこまでスライダーに拘るの? まあ練習試合だし、真裕のやりたいようにやらせてみるか)


 優築はスライダーのサインを出す。ようやく真裕の首が縦に動いた。


(ここでもう一度三振を取って、困った時にはスライダーが使えることを証明するんだ)


 真裕は米田への四球目を投じる。手首の捻りを利用して横軸回転が掛けられたボールが、真ん中近辺から外に向かって曲がっていく。


(またスライダーか。二度も同じ手は食わないよ)


 米田は反射的にスイングしかけたが、すぐに手首が返らないよう懸命に我慢し、ボールを懐まで呼び込む。そうして少し体勢を崩されながらもバットの芯に近い部分で拾い、右手を押し出すようにして打ち返す。打球は綺麗なセンター返しとなった。


「あ!」


 咄嗟に差し出された真裕のグラブを潜り抜け、ボールが外野まで転がっていく。三塁ランナーに続き、二塁ランナーの大橋も本塁を駆け抜ける。これで市岐阜は二点を追加。点差は四点に縮まる。


「良いねえ。米ちゃんナイバッチ!」

「あざす! イエイ!」


 米田と市岐阜ナインが喜び合う中、真裕はホームベースの後ろで顔を歪める。スライダーが攻略された。これだけ執拗に投げていれば当然といえるが、誰にも打たれない球にしようとしている真裕にとっては、この結果が与えるショックは大きい。真裕の胸に、やり場の無い腹立たしさが込み上げる。


(ちゃんとお兄ちゃんの言う通りに投げてるのに。何でこんなに上手くいかないの?)


 亀ヶ崎の楽勝ムードかと思われていたが、試合の流れは明らかに変わってきた。一度落ち着きを取り戻すべく、亀ヶ崎は守りのタイムを取り、内野手がマウンドに輪を作る。といってもここで落ち着かなければならない人間は一人しかいないのだが。


「まあこうやって打たれることもあるさ。練習試合だから気にしなくて良いし、攻める気力は無くしちゃ駄目だよ」


 杏玖が真裕を励ます。風がいなくなった後、内野の統括は主将になった彼女が担う。風に倣って各選手のすべきことを明確にさせつつ、持ち前の気丈な性格を活かして盛り立て役にもなる。


「他の皆はいつも以上に集中して、真裕を救えるようにするよ。さあ行こう!」

「おー!」


 内野陣がそれぞれのポジションに戻る。優築だけはマウンドに残り、再度配球に関して相談する。


「真裕、貴方がスライダーを試したがる気持ちも分かるけど、やり過ぎは良くない。ここは冷静になって考えよう。相手はスライダーをかなり意識してるだろうし、他の球種を上手に使えば抑えられるから」

「……分かりました」

「よし。じゃあ頑張っていきましょう」


 バッテリーの打ち合わせが終わり、タイムが解かれる。まだアウトは取れていないが、ここから市岐阜は下位打線に入っていく。それにランナーも一塁にしかいない。きちんと対処すれば傷は広がらないはずだ。

 しかし今の真裕にその“きちんと”ができるかと問われれば、回答に困らざるを得ない。彼女は思い通りにできないことに失望し、明らかに自分を見失っていた。これでは本来の投球ができるはずがない。


(スライダーが通用しない。私じゃ、お兄ちゃんのスライダーは使いこなせないってことなのかな……?)


 打席に六番の福本が入る。その初球、真裕の気の抜けたストレートを、福本は逃さず打ち返す。


「ラ、ライト」


 打球は右中間に弾む。回り込んだ紗愛蘭がワンバウンドで掴むも、その間に一塁ランナーの米田は三塁まで到達。市岐阜はまたもや好機を演出する。


(いけない。まだ私は投げてるんだ。しっかりしなくちゃ)


 やっと真裕は我に返った。ただ投手が一度試合の中で調子を狂わすと、改善するのは非常に難しいものである。


「ボール」


 指先や肘の上げ方などの微妙なズレが投球に影響し、それを修正しようとして他の箇所にズレが生じるという悪循環に陥る。真裕はそれなりの調整をする術こそ持っているが、あくまでも良くなったように見せかけるだけのもの。打者の体感としては確実に打ちやすくなっている。


「セ、センター!」


 今度は七番の簑田が大きな飛球を放つ。幸い僅かに芯から外れていたためもう一伸び足りず、洋子がフェンスの前でキャッチする。犠牲フライとなって一点が入ったが、ようやくワンナウトを取れた。


 続いてこの回七人目のバッター、八番の松永(まつなが)を迎える。亀ヶ崎からこの八番と九番でアウトを稼ぎ、一番まで返るのを避けたいところだ。


(ここにきて真裕の球威が落ちてきてる。体力的にはバテてはいないはずだし、精神的なダメージから来るものでしょう。こんなに崩れることは予想してなかったけど、ストライクゾーンには決められてる。何とか変化球で躱して切り抜けたい。さあ、駆け引きを始めましょうか)


 ここは捕手の腕の見せ所。優築は思考を巡らし、対策を講じる。試合のターニングポイントとも成り得る場面を守り切れるのか。



See you next base……


WORDFILE.58:自打球


 打球がまだバッターボックスを出ていない打者の身体に触れること。もしくはそうした打球そのもの。自打球になった場合は基本的にファールと判定される。ただし滅多に無いことだが、打者が故意に守備を妨害する意思があったと判断されるとアウトが宣告される。

 自打球は時として骨折などの大きな怪我を引き起こす。それを防ぐため、自打球を受けやすい足にレガースを着けて打席に立つ選手も多い。


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