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ベース⚾ガール!  作者: ドラらん
第一章 野球女子!
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14th BASE

お読みいただきありがとうございます。


……今日って、13日の金曜日なんですね(本文には一切関係ありません)。

 お昼休み。私たち三人は机を囲んで昼食を摂っていた。今日のお弁当のメインは豚肉の生姜焼きで、私の好物の一つだ。


「聞きたいんだけどさあ」

「何?」


 購買で買ったソーセージパンを頬張る祥ちゃんの質問に、京子ちゃんが反応する。私は生姜焼きを一枚ご飯の上に乗せ、包んでから口に入れる。豚肉から溢れ出る少々辛めのタレが、私の舌に絡みつく。ご飯との相性は抜群で、豚肉の旨さを何倍にも増幅させる。


「朝やったメンタルトレーニングみたいなの、私あんまよく分かんなかったんだよね。二人はどうだった?」

「ウチも上手に理解できない感覚はあったかも。緊張する場面は思い浮かぶんだけど、それが本物の緊張感に繋がっていかない感じ」


 手元のイチゴ牛乳に手を伸ばす京子ちゃん。続いて私は、ご飯の代わりにキャベツを包んで食べる。キャベツの歯切れ良い食感がまた違った豚肉とのハーモニーを生み出し、みるみる内に私のお腹は満たされていく。


「私は緊張する場面すら上手く思い浮かばなかったよ。野球の試合なんて出たことないし、どんな場面で緊張するのかって言うのが分かんないんだよね」


 祥ちゃんが難しい顔を作って嘆く。京子ちゃんは何度か点頭し、それに共感する。


「いきなり考えろって言われても難しいよね。気持ち作るにはちょっと時間が短い気がする。真裕はどう?」

「え? 美味しいよ」

「いや、そんなこと聞いてないから。話聞いてなかったの?」


 京子ちゃんは呆れたように目を細める。いけない、食べるのに夢中で話を右から左へ受け流してしまっていた。


「今日の朝のメンタルトレーニングの話。ウチらは上手くいかなかったんだけど、真裕はできた?」

「ああ、そのことね。おそらくこうだろうなっていうのはできたよ。手を握るだけなのにあんなに効果があるんだね」

「へえ。ちゃんと実感できたんだ」

「うん。ピンチの場面を思い浮かべてすごく緊張したんだけど、玲雄さんに手を握ってもらったらとっても和らいだんだ」


 私は朝練の出来事を思い起こしながら説明する。それに対し、祥ちゃんが興味深そうな目で食いついてくる。


「そんなに上手くいくもんなの? 私なんてどんな場面思い浮かべればいいかも分からないんだけど」

「祥ちゃんの場合は初心者だからね。無理に野球で考えるんじゃなくて、バレーに置き換えてみたらどう?」

「それ良いかも。でもそれだと本番に使えないんじゃないかな」

「どうだろう。「緊張感を作る」ことが大事なわけだから、問題無いと思う」

「そうかな。まあとりあえずやってみるよ。ありがとう」


 祥ちゃんはすっきりした表情を見せる。一方の京子ちゃんは、未だ悩まし気に眉を(ひそ)めている。


「ウチは場面設定をし直すべきなのかなあ。真裕はどんな場面を想像したの?」

「えーっと……、僅差の展開でワンナウトランナー二、三塁、バッターは相手チームの四番打者っていう想定だったかな」

「え? そこまで考えたの?」

「できるだけ具体的にって言われたからね」

「そっかあ。ウチは単にピンチでショート守ってるぐらいしか考えてなかったわ。真裕みたいにもっと細かな設定しないと」

「京子ちゃんならそういうの得意そうじゃん。いつも似たようなことやってるんだし」

「はあ? それとこれとは別だから。それに妄想する時は向こうが勝手に喋ってくれるから、ウチはそんなに考えなくていいの」

「ほ、ほう……」


 京子ちゃんから鋭い視線を向けられてしまった。自分から言っておいてなんだが、時々京子ちゃんを遠い世界の人なのではないかと感じることがある。ここはあまり話を広げないようにしておこう。


「それにしてもメンタルトレーニング取り入れてるなんて珍しいよね。中学の頃は一回もやらなかったよ」


 祥ちゃんが新しいパンの封を開けながら言う。


「それね。私も無かった」

「ウチも無かったなあ。プロの人だけがやってるイメージ」

「あー、それ分かる。バレーでも同じだわ。けど木場先生は大事な練習メニューの一つって言ってたし、先輩たちもしっかり取り組んでたからなあ。先輩から手を握られた時はびっくりして、一瞬どうすれば良いか分かんなくなったよ」

「ははは。ウチも」


 祥ちゃんと京子ちゃんが笑い合う。確かに先輩と手を握るなんて中々無い光景だ。


 ……あれ?


 私はふと右の掌を見る。そういえば珠音さんの手を握り返すの、忘れていた気がする。


「真裕、どうかした?」

「え? ううん、何でもない」


 私は首を振り、顔を隠すように弁当箱を持ち上げる。次やる時は、ちゃんと隣の人の手を握り返そう。そう自らを戒めながら、私は再び箸を動かすのだった。



See you next base……


PLAYERFILE.12:紅峰(あかみね)珠音(ことね)

学年:高校二年生

誕生日:7/24

投/打:右/右

守備位置:一塁手

身長/体重:158/53

好きな食べ物:フライドチキン


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