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ベース⚾ガール!  作者: ドラらん
第十章 リスタート
149/181

146th BASE

お読みいただきありがとうございます。


最近、冷やし中華+マヨネーズの組み合わせが普通ではないことを知りました。

美味しいのに!


ショックでその夜は8時間しか寝られませんでした。


 二回表の市岐阜の攻撃は五番の米田(よねだ)から。彼女は一年生で、昨日の合同練習では真裕とも話す機会があった。


(米田さんって五番打ってるんだ。ということは順調に行けば、次の代では四番か。こういう打者は尚更しっかり抑えておかないと)


 一球目、真裕は外角高めへストレートを投じる。米田は思い切りバットを振って応戦する。惜しくも空を切ったが、スイングに勢いがあり、その風圧はマウンドの真裕の方にも伝わった。


(迫力あるなあ。これだけ振れたらさぞ気持ち良いだろうに。けど裏を返せば三振も多いはず。上手に追い込んで、スライダーで仕留める)


 二球目、三球目とボールが続いたが、四球目にファールでカウントを稼ぐ。ツーボールツーストライクとなり、スライダーを使う準備が整う。


(さあ、今度こそ空振りさせるよ)


 優築とサインを交換し、真裕が五球目を投げる。真ん中やや外寄りに向かって放たれたボールは、滑らかに打者から遠い方へと逃げていく。出だしがストライクに見えたこともあり、米田は咄嗟にスイングしてしまう。ボールはバットに掠ることなく優築のミットに収まる。


「スイング。バッターアウト」

「おし」


 真裕の口から小さく声が漏れる。今日初めてスライダーで三振を奪うことができた。


「ナイスボール。今の完璧だった」

「はい!」


 優築の声掛けにも笑顔を溢す。これで気を良くした真裕は、続く六番の福本、七番の簑田(みのだ)を打ち取り、この回を三者凡退に抑える。


 更に二回裏、三回表でもランナーは出ず、二対〇のまま三回裏になる。亀ヶ崎の打順は二巡目に入り、再び紗愛蘭が先頭打者として打席に立つ。


「よろしくお願いします」


 紗愛蘭は入念に足場を均してからバットを構える。一打席目の二塁打で硬さが抜け、彼女本来の佇まいが戻ってきた。そうなれば必然的にヒットが出る確率も高まる。


「セカン」


 紗愛蘭は三球目を打ち返した。打球は一二塁間を割り、ライトに転がっていく。紗愛蘭は一塁を回りかけて止まる。


 またもやノーアウトでランナーが出塁し、京子の二打席目を迎える。一塁と二塁の違いはあれど、チャンスを大きくするという使命は前の打席と変わらない。ここでも隆浯は何か指示を出すことはせず、京子に任せる。


(ノーサインか。自分で考えてさっきの反省を活かせってことだよね)


 打席に入った京子は内野の守備位置を確認する。ショートは二塁ベースのすぐ横で守り、セカンドは一塁側に近づいている。サードはかなり前へと出てきていた。


(バント警戒を強めてるな。初回の打席でウチがそんなに打てないことが分かったから、大胆なシフトを敷けてるんだ。だったらウチは、それを利用してやる)


 マウンドの高島は一球牽制を入れた後、クイックモーションで初球を投じる。すると京子はバントの構えを見せた。

 投球はインコースへ。京子はボールが手前まで来たところでバットを下げる。判定はストライクだ。


(やっぱりバントか。今の球は難しいと判断したんでしょ。もう一回厳しいコースを突いて、失敗を誘う)


 キャッチャーを務める簑田は京子がバントをしてくると読み、高島に内角を続けさせる。しかし高島が要求通り投げることができず、二球目は高めへのボールとなる。京子はきっちり見送った。


(これでワンボールワンストライク。向こうはバントシフトを解いていない。やるならここかな)


 京子は相手の守備隊形を見直す。依然として変化無し。京子は表情を仄かに強張らせ、打席の中でバントの構えを取る。


 三球目。高島が投球動作を起こすと、ファーストとサードはバントに備えてチャージを掛ける。京子はそれに合わせてバットを引き、打つ体勢を作った。


「え!?」


 市岐阜の選手が驚く中、京子は高島の投じたストレートを弾き返す。少々詰まったゴロになるも、打球は広く空いた三遊間へ飛び、レフトに抜ける。球足が遅かったことが良い方向に作用し、紗愛蘭は一気に三塁まで向かおうとする。


「ボールサード!」


 レフトの山田が三塁に送球する。だが焦って投げたためボールが高めに抜け、サードの米田はジャンプして取らなければならなくなった。当然三塁は悠々セーフ。更に京子もこの間に二塁へと達する。


「おお! ナイス京子!」


 ベンチにいた仲間の声を聞き、京子は照れ臭そうにヘルメットの鍔を触る。守備側の動きを見極め、その穴を突いて見事にチャンスを拡大させた。これには隆浯も拍手を送る。


(うん。今のは凄く良かった。後で褒めてやらないとな。京子がこういうのを続けられれば、うちの得点力は必ず上がる)


 この後は隆浯の思い描いていた通りに事が進む。京子の一打が打線に火を点け、後続もヒットを連ねていく。


「おっしゃー。ナイバッチ!」


 気が付けばこの回五点目が入っていた。七対〇と大きく点差が開き、亀ヶ崎にとって理想的な展開となる。

 一方の高島は(つる)べ打ちを食らい大炎上。何とかスリーアウトまでは漕ぎ着けたものの、散々な内容となってしまった。エースとして期待されているにも関わらずこの投球では、彼女の今後にも響きかねない。


(高島さん、大丈夫かな。新チームが始まったばかりだし、立ち直れると良いけど……)


 痛々しい足取りで高島がベンチへと姿を消す。真裕はそれを心配そうに見つめながら、四イニング目のマウンドに上がる。だがこの四回表に、真裕にも試練が待ち受けていた。


 先頭の山田に五球目を弾き返され、センターへのヒットを許す。打たれた球種はスライダー。曲がり端をベースの手前で捉えられた。


「ボール。フォア」


 次の門田は七球粘られた末に四球を与える。ランナー一、二塁と真裕は今日初めてのピンチを背負い、四番の大橋を迎える。

 ツーボールツーストライクからの五球目。真裕は外角にスライダーを投じる。悪いコースではなかったが、意図もあっさりと合わせられる。


「サード!」


 打球は杏玖の頭上を越え、レフト線のやや内側に弾む。タイムリーツーベースとなった。

 三連打で市岐阜が一点を返し、尚もノーアウトでランナー二、三塁。亀ヶ崎バッテリーはマウンドに集まり、一旦間を空ける。


「向こうはスライダーを捉えてきてる。まあここまで追い込んでからは全部スライダーだったし、狙われるのは当然ね。ここからちょっとずつ攻め方を変えていきましょ」


 優築は悠長に話を進める。自分たちから投げる球を明かしているような状態で打たれているだけなので、悲観する理由は全く無い。しかし、真裕の方は少し違った。優築の考えに若干の不快感を示す。


「やっぱり、そうなっちゃいますかね……」

「え? 嫌だった?」

「……いえ、それで大丈夫です」

「良いボールは投げられてる。自信持っていけば抑えられるから」

「はい……」


 優築が真裕の左肩を軽く叩いて鼓舞する。それでも真裕の顔は曇ったまま。優築はそのことが気になりながらも、ひとまずマウンドを後にする。


(スライダーを打たれたからなのか、真裕はかなりナーバスになってしまってる。まだ試運転の段階だし、そんなに不安がることないのに)


 真裕と優築の間には、スライダーに対する見解の齟齬が生じている。それがこのピンチで、何かしらの影響を及ぼすことはあるのだろうか。



See you next base……



WORDFILE.57:炎上


 一人の投手が大量失点を喫すること。手に負えないほど火が燃えさかるという元々の意味を利用した比喩表現として使われる。

 実際に何点取られたらという定義は特に無いが、先発投手だと5失点以上、救援投手だと1イニングに3失点以上すると炎上と言われることが多い。炎上した投手はその試合でチームが負ければ、当然その責任を背負うことになる。しかし打線に救われて勝利投手になることもあるので、その辺りは野球の不思議なところである。

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