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ベース⚾ガール!  作者: ドラらん
第十章 リスタート
145/181

142th BASE

お読みいただきありがとうございます。


今回は話の都合上短めです。

ご了承ください。

話は変わりますが、「ご了承ください」と打とうとするといつも候補に「五稜郭」が出てきます。

何故なんだろう……。

 午後六時に練習は終了した。私たちは宿に帰り、食事や入浴を済ませる。今回の合宿では夏大とは違い、部員全員で一つの部屋に泊まる。皆疲れているためすぐに就寝……というわけにはいかず、女子高生らしくと言うべきか、会話に花を咲かせている。中には言葉にするのがちょっと憚られる内容もあり、そのノリに付いていけなかった私は、落ち着くまで席を外すことにする。


 部屋の外には杏玖さんがいた。壁に背中を預けて立ち、スマホで何やらメッセージを打っている。


「ん? あ、真裕。どうした?」


 杏玖さんが私に気付く。私は傍へ寄り、杏玖さんがやっているように壁にもたれかかる。木質の繊細なひんやり感が伝わってきて気持ちが良い。


「あんまり騒ぎたい気分になれなくて。抜け出してきちゃいました」

「ああ、ごめん。これ終わったら止めるね」

「いえ、そういう意味で言ったわけじゃないんです。皆の気持ちも分かりますし。それに杏玖さんだって大変でしょうから」

「あはは……。気を遣ってくれてありがと」


 苦々しく右の犬歯(けんし)を見せる杏玖さん。すると杏玖さんのスマホが振動する。返信が来たみたいだ。


「お父さんですか?」

「そう。あの人を一人にしておくのは心許ないからね」


 杏玖さんは父子家庭で、お父さんと二人暮らし。お父さんは家事があまり得意ではないらしく、普段は杏玖さんが料理や洗濯を担当しているそうだ。そのため今回のように家を空ける時は、お父さんがきちんと食事などを採っているかどうか毎晩チェックしている。


「よし。これで大丈夫かな」

「どうでした? お父さんの方は」

「とりあえずきちんと飯食ってるみたい。一安心だよ」


 杏玖さんは朗らかに左手で丸を作る。


「それは良かったです。杏玖さんって凄いですよね。家のことも、キャプテンも、それに珠音さんのお世話みたいなことも、全部しっかり熟していて。大変なことばっかりなはずなのに」

「あー。まあ大変じゃないって言ったら嘘になるね。特に最後のなんかは」


 部屋の方を一瞥しながら、杏玖さんが悪戯っぽく言う。釣られて私も笑みを溢す。


「でも凄くなんかないよ。私は自分の目的を果たすためにこういうことしてるんだから」

「目的?」

「うん。放れてしまった手を、もう一度繋ぎ直したい。そんな感じかな」

「は、はあ……」


 言っている意味がよく分からない。そもそも杏玖さん自身が、私に理解してもらおうと思っていないような口ぶりだった。


「要するに全て自分でやりたくてやってるってこと。だから凄くなんかないの。他の皆だって何かしら苦しい思いを抱えてるだろうし、私としちゃ、そういうのと戦ってる人の方が凄いよ。真裕もその一人かな」

「私ですか? 私なんて全然苦しい思いしてないですよ」

「そうかな? 夏大で負けた後はとっても辛そうだったよ。それに新チーム始まってからは、前より物憂げな雰囲気になることが多くなってるでしょ」

「あ……、分かります?」

「まあね。他人の変化を読み取るのは得意だから。けど真裕はちゃんと苦しさと向き合って頑張ってる。十分凄いよ」


 杏玖さんは私の頭を優しく(さす)る。自分では上手に明るく振る舞えていたつもりでいたが、杏玖さんにはしっかり見抜かれていた。隠し事がばれたような焦燥感と、気負いが少し和らいだ解放感が、胸の奥で交錯する。


「ありがとうございます。……すみません、余計な気を回させてしまって」

「何言ってるの。余計な気なんて回してないよ。これがキャプテンとしての私の務めなの。ま、どうしても抱えきれなくなったら遠慮せずに相談しなよ。真裕は頑張り過ぎちゃうところがあるからね」

「はい。やっぱり杏玖さんは凄いです」


 私がそう言葉を漏らすと、杏玖さんは「ありがと」と言って少々照れ臭そうにしていた。杏玖さんが新チームの主将で本当に良かった。改めてそう思う。


「さてと、いい加減あそこにいる狂犬たちを黙らせますか。明日に備えて寝たいし」


 杏玖さんが部屋へと戻っていく。その背中に私は、晴香さんとはまた違った頼もしさを感じるのだった。



See you next base……


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