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ベース⚾ガール!  作者: ドラらん
第十章 リスタート
140/181

137th BASE

お読みいただきありがとうございます。


三年生が引退し、今回から亀ヶ崎高校女子野球部の新しい歩みがスタートします。

色々と大変なことはありますが、温かく見守っていただけると幸いです。

 今日も太陽は朝から元気だ。夏の大会から帰ってきて一夜明け、私たち亀ヶ崎高校女子野球部は、新たなスタートを切る。


「おはようございます!」

「はい、おはよう」


 練習開始時刻には全員がグラウンドに集合し、円陣を組んで監督の話を聞く。できた輪の大きさは昨日までよりも目に見えて縮小しており、三年生が引退したという事実を痛感させる。


「何だか殺風景だな。七人いなくなっただけでこんなに違うもんなのか」


 監督は苦々しく笑う。夏大に臨む前、私たちは全部で二三人だった。そこから七人減って一六人。まともな紅白戦すらできない。ベスト四まで残ったといっても、亀高のような地方の公立校ではどうしてもこうなってしまう。因みに万里香ちゃんの楽師館や、舞泉ちゃんのいる奥州大付属は、三年生がいなくなっても部員数は三〇人を超えている。


「ま、無い物強請(ねだ)りをしていても前には進めない。どの道俺たちは制限がある中でやっていくしかないんだ。それに、人数が多いところが必ずしも強いわけじゃないからな」


 一昨日の負けを忘れたかのように、監督は非常にさばさばとした口調で喋っている。それは私たちへの配慮なのか、既に次への切り替えができているからなのかは分からないが、そのおかげでチーム全体にもショックを引きずるような雰囲気は流れていない。


「ということで今日から新しいチームとして活動していくことになる。言わなくても分かると思うが、俺たちの目標は全国制覇だ。それはこれまでと変わらない」


 全国制覇。その一言が放たれた瞬間、私の胸の奥も場の空気も一気に引き締まる。


「しかし新チームになった以上、一から色んなことに取り組まなければならない。誰が試合に出るのか、どんな風に戦っていくのかだって練り直さなきゃいけない。でも逆に言えば、皆にとっては大きなチャンスなんだ。試合に出ていた者はより高みに登れるように、試合に出られていなかった者は少しでもその機会を増やせるように努力してほしい。皆で力を合わせて頑張っていこう!」

「はい!」


 これにて一、二年生だけの新チームが始動。まずは杏玖新主将を先頭に、軽くランニングを行う。


「一、二、一、二」

「ソーレ!」


 三年生がいなくなったことを感じさせないほど、一人一人が声を張り上げる。気持ちを改めた各人の気合の表れだ。これぞ新チームの醍醐味と言える。ランニングを終えると準備体操をし、本格的な練習に入っていく。


「キャッチボール!」

「はい!」


 監督も言っていたように、新チームは様々なことを一からやっていかなければならない。キャッチボールにしても、全員で基礎的な部分を確認しながら進めることになる。


「ボールを手だけで投げようとするな。コントロールは指先じゃなくて、胸を中心に使って体全体で付けるんだ。この“体で投げる”という感覚を染み込ませろ」


 はっきり言って、こうしたやり方の練習は面白くない。普段意識していないことも意識しなければならなくなるし、束縛されているようで心地が悪い。精神的な疲労感も溜まる。


 ただスタートで全員が基礎を固めておかないと、今後の練習やチームがレベルアップする段階で置き去りにされる人が出てくる。私たちみたいな人数の少ないチームは、そのような人を一人たりとも出してはいけない。監督は人数が少なくても勝てると言ったが、それはあくまでも全ての選手が一定の水準に達していることが前提の話。私たちは、全員で成長していく必要がある。当然、私だって皆に置いていかれてはならないし、置いていかれたくもない。退屈だと思っても、きっちりやっておかなくては。


 キャッチボールの後はノックに移る。これも実戦形式ではなく、いくつかのグループに分かれ、捕球姿勢を安定させることに重きを置く。投手陣は監督に呼ばれ、別メニューを課される。


「お前たちにはこの夏休みの期間を通して、徹底的に下半身を鍛えてもらう。長距離、短距離の走り込み、そこにウエイトトレーニングなどを組み合わせていく。もちろん投球練習も忘れてはいけない。暫くはきつく感じると思うが、投手としてやっていくには避けては通れない道だ。心して臨んでくれ」

「はい!」

「は、はい」


 覚悟はできていたものの、夏大前よりも一層過酷なメニューを(こな)すことになりそうだ。私は中学でも経験しているのでそこまで(いと)わないが、未経験者の祥ちゃんには重たくのしかかることだろう。一人だけ遅れて返事をしているところを考えても、彼女がどう感じているのか想像できる。


 新チームの投手陣は、私と祥ちゃん、三年生がいる時も少し投げていた杏玖さん、そこに二年生の波多(はた)美輝(みき)さんを加えた四人で回していく予定となっている。ただし杏玖さんは主将を務めているので、投球練習以外は基本的に野手の練習メニューに参加する。


 最初はピッチングから。ブルペンは二つしか無いため、先に私と美輝さんが投げる。


「さてと、始めますか」


 長く下ろしている髪を後ろで結い、動きやすい格好を整える美輝さん。元々は内野手で、夏大でもベンチ入りを果たしていた。けれども同じく野球をやっているお姉さんの影響で、以前から投手をやってみたかったらしく、大会の少し前から自ら志願して挑戦している。この時期での転向はかなり勇気のいる決断だったとは思うが、チームにとっても私たちにとってもありがたいことなので応援したい。


「ナイスボール」


 美輝さんは私の隣で気迫の籠ったボールを投げ込む。少し右腕の下がった投球フォームで、お姉さんを参考にしているそうだ。直球、変化球ともに制球できており、これが実戦で発揮できれば十分活躍できると思う。


「次、ツーシーム行きます」


 私はというと、夏大でも投げていたこともあり、より結果の求められる立場となる。第一にやるべきなのは、舞泉ちゃんに指摘された「弱点」を克服すること。その正体は一体何なのか。早く気付いて修正していかなければならない。


「ラスト、ストレートをアウトローに」


 私は最後の一球を投げ終える。奥州戦での疲れを考慮し、今日は三〇球程度で切り上げる。肩に痛みや違和感があるわけではないので、明日からはまたギアを上げていけそうだ。


「祥ちゃん、終わったよ」

「はーい。ありがと」


 私は祥ちゃんを呼び、ブルペンを譲る。そのまま入れ替わりでノックに混ざった。


 全員の投球練習が終わると、続いては短距離走だ。学校から少し出たところにある坂を使ってダッシュを行う。


「よーい、はい」


 手の鳴る音に合わせ、私たちは約四〇メートル先の頂上に向けて全力疾走する。下半身にしっかり力を入れないと中々前に進まないため、一本やるだけでも結構(こた)える。今日は初日ということで十五本に設定されているが、明日からは二〇本に増える。インターバルと水分補給を適切に取り、熱中症にならぬよう注意しながら、一本ずつ丁寧に熟した。


「うええ、気持ち悪い……」


 十五本目を走り切るや否や、祥ちゃんはその場に膝をついて倒れ込む。私も太腿が張り、上手に歩けない。


「はいはい祥ちゃん、頑張って。ここで止まってたら死んじゃうよ」

「うう……」


 グロッキー状態の祥ちゃんを起こし、私たちはグラウンドへと戻る。既に守備練習は終わり、バッティングに移ろうとしていた。こちらには私たちも入るので、一旦日陰で休憩し、体力を回復させてから参加する。


 このバッティング練習では、バットを振る力をつけることが目的となる。守備には一切就かず、バッティングピッチャーを務めるかその球を打っている時以外は、ティーやトスバッティングをしてとにかくスイング量を増やす。一体どれだけの人が手の豆を潰すことになるのだろうか。


 そして締めは長距離走。これは野手陣も含めた全員参加で行う。インターバル形式で、八〇メートル間でのダッシュとジョギングを繰り返す。これも今日は十二本だったが、明日からは十五本になる。


「ほらゆり、もうばてたのか⁉ まだ半分だぞ! 頑張れ頑張れ」

「は、はい!」


 監督はこのインターバル走の間、終始愉快そうに私たちを煽ってくる。こちらからすると「この野郎」と文句を言いたくなるところだが、これがあるおかげで苦しさが若干和らいでいる気もするので、一概に否定できない。


「ひえー、終わったあ……」


 最後の一本を駆け抜け、これで今日の全メニューを消化。新チーム初日からハードな内容となった。明日以降更に厳しくなると考えると本当に恐ろしいが、これくらいやらないと全国制覇は目指せないということだろう。


 気持ち新たに、私たちの日本一への挑戦が、再び始まった。



See you next base……




PLAYERFILE.51:波多美輝(はたみき)

学年:高校二年生

誕生日:8/20

投/打:右/左

守備位置:投手、三塁手

身長/体重:158/53

好きな食べ物:海老グラタン

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