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ベース⚾ガール!  作者: ドラらん
第九章 想いを繋いで
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135th BASE

お読みいただきありがとうございます。


令和になっての初更新!

せっかくなのではっちゃけた内容でいきたいと思います!(ちょっとほんと)

 私は約束した時間に成石駅の前に到着する。周りには、私たちと同じく祭りに参加するであろう人がたくさんいる。高校生らしき子も多いが、知り合いは見当たらない。そんなことより、椎葉君を探さなければ。


「よっ。お疲れ」


 と思っていたら、彼の方が先に私を見つけて声を掛けてきた。


「お疲れさま。待たせちゃったかな?」

「い、いやいや全然。俺もさっき来たとこ」


 椎葉君は細やかな白黒のボーダーシャツの上に、薄水色の七分袖を重ねている。蒸し暑さも吹き飛んでいきそうな、爽快なコーディネートだ。


「何か学校と会う時と雰囲気違うね。爽やかでかっこいい」

「え? ま、まじで言ってる?」

「うん。当たり前じゃん」


 私は素直に感じたことを述べる。椎葉君の顔が、瞬時に赤くなった。


「あ、ありがと。柳瀬も……、良い感じだと思うよ」

「何それ? ふふっ、別に無理して褒めなくたって良いから」

「違う! そういうわけじゃ……」

「はいはい。遅くなる前に行くよ」


 私は適当に相槌を打ち、夏祭り会場に向かって歩き出す。慌てて椎葉君も後ろを付いてくる。


 駅前から会場までの所要時間は約十分。その間、私と椎葉君は並んで歩いていたが、夏大に関しては一切触れなかった。というよりそもそもそんなに会話が弾まなかったので、その話題まで辿り着かなかったというのが適切かもしれない。


「わあ、やっぱり人が一杯だねえ」


 会場に着いてすぐ、私はそう第一声を放つ。非常にありふれた感想。けれど実際に思ったことだ。


「さてさて、まずは何しようかな」

「なあ、ほんとに良かったのか?」

「へ? 何が?」


 人混みに突撃しようとする私だったが、椎葉君の一言に足を止める。


「無理やり連れ出してるんじゃないかと思ってさ。遠いところから帰ってきてるわけだし、柳瀬だって疲れてるだろ」

「大丈夫だって。私は自分で来たくてここに来てるの」


 私は声を明るくし、にっこりと笑ってみせる。付け焼刃染みてはいたが、ひとまず椎葉君は納得してくれたみたいだ。


「それなら良いけど……」

「そうそう。だから今日は、しっかり楽しもうよ」


 椎葉君は、私のことを気に掛けてくれている。彼だって色々と大変なはずなのに。そう思うと、心の中がとても温かくなる。


「私お腹空いちゃった。りんご飴でも食べようかな」


 私は目の前にりんご飴の屋台を見つける。早速購入し、適当にぶらつきながら食べることにする。


 煌びやかな山吹色を放ち、均等に並べられた無数の提灯。今の私には少しばかり眩しい。成石の夏祭りはこの地区で最も規模が大きく、屋台や人の量も群を抜いている。私もこれまで何回か足を運んでいるが、今年はまた一段と賑わっている。


「こういうお祭りって良いよね。やってる人も来てる人も皆元気になれるし」


 りんご飴の甘酸っぱさを堪能しつつ、私は何の気無しに呟く。


「それはどうかな」

「え?」

「こういう伝統ある祭りには、決まって面倒な(しがらみ)があるもんだよ。自分で望んでなくても参加させられるし、重役を頼まれれば断りたくても断れない。その町に生まれ育った人間である以上、ずっと祭りに縛られ続ける奴だっているんだ」 

 

 椎葉君は哀調を帯びた物言いをする。まるで自分のことかのように。


「椎葉君も“そういう奴”の一人なの?」

「え? それは……」


 椎葉君は口を噤む。そういえば彼の住む町にも、五月に大きな祭りがあると聞く。国の文化財にも指定されているらしいが、椎葉君も何かしら関わっているのかもしれない。


「ごめん。困らせちゃったよね。はい、お詫びにりんご飴一口どうぞ」

「へ⁉」

「ほれほれ。遠慮しないで」

「で、ではお言葉に甘えて……」


 私は右手に持っていたりんご飴を差し出す。椎葉君は一瞬狼狽えた後、ゆっくりと赤い部分に齧り付く。だぶついたシャツの隙間から、彼の太くて逞しい鎖骨が見え隠れする。


「うん、美味い」


 気に入ってもらえたみたいだ。仄かに緩まった椎葉君の口元が目に入り、私の胸はちょっとだけ高鳴る。


「でもこれ食べ続けたら喉渇くだろ。飲み物欲しくなんない?」

「あー、確かにそんな気がしてきたかも。あそこの自販機で買おっか」


 私たちは互いに一本ずつ飲み物を買う。椎葉君はミルクティーで、私はお茶。初めは自分のお金で買うつもりだったが、椎葉君が来てくれたお礼にと奢ってくれた。律儀にそんなことしてくれなくても良いのに。


「はいどうぞ」

「ありがと。ごちになります」


 買ってもらったお茶を受け取った私は、ペットボトルの蓋を開け、口を付ける。喉を過ぎる冷たさがとても快感で、私は一気に七割くらい飲んでしまった。


「はー、生き返るう」

「ははっ、めっちゃ飲むじゃん」

「えへへ。思ったよりも喉が渇いてたみたい。止められなかった」


 私と椎葉君が笑い合う。この笑顔は自然に出たものだ。段々と心が解れてきている証拠だろう。


 それから私たちは色んな屋台を回ってお祭りを満喫。椎葉君は射的が得意で、その腕前を披露してくれた。私も挑戦してみたが全く上手くいかず、椎葉君に指導してもらってようやくキャラメル一個をゲットできた。


 そうこうしている内に花火の時間になった。私たちは人の群れから離れ、ゆったりできる場所を探す。会場から少し外れたところに小ぢんまりとした公園があり、そこで花火を見ることにした。



See you next base……


WORDFILE.53:成石の夏祭り


 真裕の住む緑山町に隣接する成石町で行われる、県内有数の夏祭り。成石駅前の商店街全体が会場となっており、毎年多くの来場客と屋台で賑わう。

 元々は成石町周辺の戦後復興を目的として開かれていたもので、その歴史は60年以上前に遡る。回数を重ねる内に徐々に規模が大きくなり、現在では花火大会やステージを使ったイベントなど、伝統を残しつつも時代のニーズに合った内容を取り入れている。


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