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ベース⚾ガール!  作者: ドラらん
第九章 想いを繋いで
135/181

133th BASE

お読みいただきありがとうございます。


明日から10連休です。

せっかくなので有意義に使っていきたいと思います。


 翌日。舞泉ちゃんの公言通り、奥州大付属は優勝した。万里香ちゃんのいる楽師館に対して六対一の快勝。舞泉ちゃんは胴上げ投手になったそうだ。


 私たちは帰らなければならなかったため決勝戦は見られず、ネットの速報を使って試合展開を追った。奥州の勝利を知った瞬間、バスの中は一時騒然としたものの、皆すぐに静まり、それ以上話題が広げられることはなかった。私はというと、奥州が勝つことをどこか当然のように思っていて、特に何の感情も湧いてこなかった。やっぱりかとちょっとだけ安堵したくらいだ。


 午後三時過ぎに私たちは亀高に到着した。歓声で溢れていたスポーツビアいちじまとは一転、校内は非常に閑散としていて、田舎に帰ってきたという事実をありありと思い知らせてくる。私たちはチームの荷物を整理してから、三年生と共にする最後のミーティングを行う。


「今日で私たちは引退となります。これまでありがとうございました」


 主将の晴香さんが別れの挨拶を述べる。その後ろには他の三年生の人たちが並び、私たち下級生は向かい合って話を聞いている。病院に運ばれた風さんは、昨日の夜の時点でチームには合流していた。ただし右足首の骨に(ひび)が入っていたようで、現在は両脇に松葉杖を抱えて私たちの前に立っている。


 宿舎に帰ってきた後、風さんはチームメイト一人一人に謝って回っていた。その姿はただただ凄惨で、とてもじゃないが見ていられなかった。もちろん、風さんは悪いことは一つもしていない。だが本人は大きな責任を感じてしまっているのだろう。何しろあの打球を捕っていれば、私たちは今頃……。


 いや、そんなことを考えるのは止そう。風さんを苦しめるだけだし、そもそもあれが直接の敗因ではないのだから。


「優勝を目指してここまでやってきましたが、残念ながら準決勝で負けてしまいました。当然、後悔が無いと言えば嘘になります。私にもっと力があれば、これよりも良い結果が出せたんだと思います。その点は悔しくて仕方ありません」


 晴香さんは堂々と、下を向くことなく喋り続けている。昨日の試合後もたくさんの人が泣いていた中、晴香さんは一滴の涙も流していなかった。

 もしかしたら、私たちのいないところで悔しさを表に出していたのかもしれない。けれども晴香さんは、決して私たちには弱みを見せず、最後の最後まで頼もしい主将の姿を貫いている。


「それでも、皆さんとここまで来られたことは私の誇りです。力を貸してくれてありがとうございました」


 晴香さんが深々と頭を下げる。それに後ろの三年生が続く。私は、全力で拍手を送った。


「そして次のキャプテンですが、三年生で話し合った結果、杏玖にお願いしたいという結論に至りました」

「え? 私ですか?」

「今の二年生で、このチームを一番俯瞰(ふかん)して見られているのは貴方よ。他の三年生に聞いても、圧倒的に貴方を推す声が多かったわ」


 私も杏玖さんがやるのは賛成だ。話していてもチームのことをよく考えているのが伝わってくる。しかし当の本人は、あまり乗り気ではないみたいだった。


「とても光栄なことですけど、私は……」

「分かってる。貴方には家庭の事情があるものね。それでも私たちは、貴方にこのチームを託したいと思った。貴方ならきっと、頂点に導ける」


 伏し目がちになる杏玖さんを、晴香さんが優しく諭す。その想いが通じたのか、杏玖さんは若干悩まし気な顔を見せながらも、最後は雄雄しく決断を下す。


「分かりました。やります」

「良かった。亀ヶ崎を頼んだわ」

「はい!」


 杏玖さんは大きな声で返事をし、前に出て所信表明をする。


「新チームのキャプテンになりました、外羽杏玖です。晴香さんたちの想いを受け継ぎ、日本一になれるチームを築いていきたいと思います。よろしくお願いします」


 再び拍手が起こる。新主将の杏玖さんが、ここに誕生した。


「あの晴香さん、副キャプテンは私が決めて良いんですか?」

「ええ、どうぞ」

「じゃあ三人を選びたいと思います。まず一人目は優築。バッテリーを統括してほしい」

「分かった」

「二人目は洋子にお願いしたい。同じクラスだし、色んなことを相談できるからね」

「うん。任せといて」


 ここまでは順当。誰しも予想していたことだと思う。残るは一人だが、杏玖さんは少し考え込むような間を置いてから、名前を出す。


「三人目は、珠音に努めてもらおうと思う」

「ほえ? 私がやるの?」


 珠音さんは間の抜けた声を出す。他にも目をぱちくりさせる人がいる中、杏玖さんはやや怒気を孕んだような語調で珠音さんに語りかける。


「あんたも私たちと一緒に、このチームを引っ張っていくの。良いね?」

「う、うん。分かった」


 困惑しながらも首を縦に振る珠音さん。この人選には少々驚きだが、杏玖さんの珠音さんに対する激励の意味が込められているとも受け取れる。


「ということで、この四人で新チームを支えていきたいと思います。最初も言いましたが目標は全国制覇です。明日から皆で力を合わせて、頑張っていきましょう!」

「はい!」


 こうして、杏玖さんを筆頭とする新体制が決まった。この後は木場監督の話があり、解散となる。私は同じ投手である空さんたちと、短い間だが最後の一時を過ごす。


「空さん、葛葉さん、ごめんなさい。私のせいで夏を終わらせてしまって」

「何言ってんの。真裕はナイスピッチングだったよ。ちゃんと勝ってる状態で私に回したんだから」

「空の言う通りだ。それに真裕がいてくれたことで、私たちの負担が減ったんだ。それもここまで来られた一つの要因だよ」

「……ありがとうございます」


 空さんたちは笑って私を励ましてくれる。二人も悲しいはずなのに、きっと私に気を遣ってくれているのだ。それならば、私もいつまでも申し訳なさを感じるばかりではいけない。二人が心置きなく引退できるように振る舞わなければ。


「新チームで絶対に日本一になります。だから応援しててください」

「了解。亀ヶ崎のエースの座は、お前に任せたよ」


 空さんが左の拳で私の胸を突く。空さんの背負っていた日本一への想いが、私の中に流れ込んでくる。私の心臓が一拍、大きく脈を打つ。


「はい。(しか)と託されました」


 これにて三年生は引退。私たちは明日から、新しいチームとして改めて全国制覇を目指すこととなる。不安はたくさんある。けれども受け継がれた想いを胸に秘め、私たちは前に進むのだ。


 空は濃い橙に染まる。それをきっと、明日への希望を示す色になのだろう。私はそう信じ、空さんたちとの別れを惜しむのだった。



See you next base……



亀ヶ崎高校女子野球部の新体制


主将:外羽杏玖(前任:糸地晴香)

副主将:桐生優築、増川洋子、紅峰珠音(前任:天寺空、城下風)

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