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ベース⚾ガール!  作者: ドラらん
第九章 想いを繋いで
132/181

130th BASE

お読みいただきありがとうございます。


ケボーンダンス覚えました(笑)

《七回裏、奥州大学付属高校の攻撃は、六番源さんに代わりまして、平松(ひらまつ)さん》


 七回裏が始まる。この回の先頭バッター、源には代打が送られ、平松が右打席に入る。


 初球、空はアウトコースのストレートでストライクを取る。今日は先発ではないのでペース配分を考える必要は無く、一球目から全力で投げ込んでいく。


(調子が良いとか悪いとかを気にしている余裕は無い。とにかく三つアウトを取る。それだけだよ)


 二球目。空は低めにカーブを投じる。これもストライクだ。


(うえ、追い込まれちゃった)


 打席の平松の目が虚ろになる。彼女はここまで、一回もスイングできていない。自分がアウトになれば負けが近づく。その恐怖が、バットを振る勇気を押し潰していた。そんな平松の心情を、優築はこの二球の間に見抜く。


(この様子だと、何か考えがあって見逃してるわけじゃないみたい。それなら地に足が着いていない内に、これで終わらせましょう)

(了解)


 空が平松への三球目を投じる。コースは真ん中からやや内寄りのストライクゾーン。平松は手を出さざるを得ない。


「え?」


 だがボールはホームベースの手前で失速。空の宝刀であるチェンジアップに、平松のバットが空を切る。


「バッターアウト」

「おし」


 優築のミットにボールが収まるのを見届け、空は軽くグラブを叩く。いとも簡単に平松を退けた。


「ワンナウト! 空さんナイスピッチです」


 一つ目のアウトを取り、俄然亀ヶ崎ナインの活気が増す。真裕もベンチから大声で声援を送っていた。


《七番、山下さんに代わりまして、バッター川端(かわばた)さん》


 奥州は二者連続で代打攻勢を仕掛ける。打席に立つのは川端。こちらも平松と同じ右打者だ。


(山下さんもそんなに打撃は悪くないイメージだけど、このバッターの方が見込みありと踏んだのか。一応用心しておこう)


 警戒した優築は初球、空にカーブを投げさせる。川端は果敢に手を出し、バットに当てる。打球は一塁側スタンドへと消えてファールとなった。


(一球目から打ちにきたか。度胸はありそうだし、平松みたいに安直にはいかないかも。けれど空さんの球なら、きちんと攻めていけば高い確率で打ち取れる)


 二球目もカーブを続ける。反応しかけた川端だが、ボールゾーンへと落ちていくのを見て咄嗟にバットを引く。優築がハーフスイングを主張するも認定されない。


 三球目。バッテリーはインコースのストレートを使う。川端はそれを、三塁方面へファールにする。


(とりあえずこれでツーストライク。勝負を急ぐわけでもないけれど、ボール球を投げる意味も無い。空さん、チェンジアップで仕留めにいきましょう)


 四球目、空の投じたチェンジアップはアウトコースへ。しかし平松の時よりも少し高かった分、川端は前屈みになりながらもバットの上っ面でボールを拾う。


「セカン!」


 セカンド後方にフライが上がる。光毅が打球を追うが、ノーバウンドで捕るのは厳しそうだ。


「落ちろ!」


 奥州の選手たちはベンチから身を乗り出して打球の行方を見守る。とにかくヒットになることを願う。


「光毅、どいて!」


 センターの晴香が光毅を制して前に出てくる。落下点にグラブを合わせ、彼女は足からのスライディングキャッチを試みる。ボールは上手い具合にグラブの先に引っかかった。


「アウト」


 僅かにジャックルしたが、晴香はボールを溢さない。球際の強さが発揮され、紙一重でヒットを阻止。ツーアウトとなる。


「まだだ。まだ終わってない。白間出ろ」


 絶体絶命の奥州。ただ選手たちは決して声を枯らさない。打順は八番の白間に回る。舞泉は自分の出番が来ることを信じ、ネクストバッターズサークルで備える。


(お願いします。白間先輩、私に繋いでください。このままじゃ終われません)


 白間の初球、低めにストレートが外れる。白間は打たずに球筋を見定める。


(球速だけなら先発していた一年生の方がある。でもサウスポーっていうのと良い変化球を持っていることを考えれば、このピッチャーがエースを務めていることは納得できる。ただし打てない球じゃない。私で終わらせるなんて、できない)


 白間は三年生。この打席でアウトになることは即ち、彼女の高校野球が終わることを意味する。奥州も亀ヶ崎と同様、チーム初の優勝を目指して今大会に臨んでいる。その目標を志半ばで閉ざされ引退することは、白間は絶対にしたくなかった。


(舞泉が入ったことで、チーム全体に優勝できるという希望が芽生えた。そして一回戦で埼玉花栄を倒して、その希望は確信に変わった。追い詰められてはいるけれど、まだ私は優勝できるって思ってる。それをここで形として見せてやる)


 二球目。インコースに来た直球を、白間は思いっ切り引っ張り込む。三塁線際に速いゴロが転がる。


「サード!」

「オーライ」


 予めライン寄りにポジションを敷いていた杏玖が回り込み、打球が来るのを待つ。これをアウトにすれば亀ヶ崎の勝利が決まる。


(よし、もらった……え?)


 ところがここで、野球の神様が些細な悪戯を施す。なんとボールは三塁ベースの角に当たって方向転換。ホーム側に転々とする。


「ちょっと待ってよ。それは無いって」


 杏玖は慌ててボールを拾うも、既に白間は一塁を駆け抜けていた。奥州にしてみれば幸運、亀ヶ崎にしてみれば不運な内野安打となる。白間が打った瞬間揃って肝を冷やした奥州ナインだったが、九死に一生を得た。


「やったやった。ナイスバッティング」

「あれのどこがナイスバッティングなの。ただラッキーなだけだよ」


 内心ほっとしながらバッティングレガースを外し、白間は一塁コーチャーに預ける。


「良いの良いの。ヒットになれば全部ナイスバッティングなんだから。それに、ちゃんとあの子に打順回したじゃん」

「うん、そうだね。きっと何とかしてくれる。頼んだよ」


 白間は焦がれるような目で打席の方を見る。その先にいるのはもちろん、あの“怪物”だ。


《九番ピッチャー、小山さん》


 名前をコールされ、舞泉は何か思うところがあるような足取りで左打席に向かう。彼女に寄せられる期待感は、奥州ベンチ、観客席問わず最大限まで膨れ上がる。


(これは神様が私に与えてくれた、汚名返上のチャンス。必ずものにする)


 バットを構える舞泉。その目つきはこれまで見せたこともないくらいに尖り、体全体から殺気が漂っている。初めて対峙する空は、その圧を(ひし)と感じ取っていた。


(おお、一年生なのに風格出てるねえ。若干凄んじゃったよ。こうやって大事な局面で回ってくるってことは、そういう星の下に生まれてるって証なんだろうね。羨ましいなあ。でもこっちだって決勝が懸かってるんだ。打たせるもんか)


 空は一つ息を吐き、自らの頭と心の動きを微調整する。エースと“怪物”、狩られるのはどちらか。



See you next base……



PLAYERFILE.50:平松(ひらまつ)香澄(かすみ)

学年:高校二年生

誕生日:8/26

投/打:右/右

守備位置:三塁手

身長/体重:158/56

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