表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ベース⚾ガール!  作者: ドラらん
第九章 想いを繋いで
125/181

123th BASE

お読みいただきありがとうございます。


もう少しで新年度ですね。

環境が変わる方も多いと思いますが、そこを楽しんでいきましょう!


「くそっ!」


 真裕はベンチに帰るや否や、持っていたグラブを地面に叩きつけようとする。寸でのところで思い留まったものの、そこには申し訳なさと自らへの怒りで一杯になっている彼女の胸の内がまざまざと表れていた。


(せっかく先輩たちに助けてもらってここまで来たのに。ほんと、最悪だ)


 味方の奪ってくれたリードも、懸命のサポートも、一本のホームランで全部ふいにしてしまった。悪夢のような現実に打ちのめされ、真裕は憔悴しょうすいしきっていた。


「真裕……。よく投げてくれた。ゆっくり休んでくれ」


 見兼ねた監督の隆浯が真裕に歩み寄り、彼女の肩を優しく叩いてなだめる。普段は試合中にこうしたことをしない隆浯だが、この時ばかりは無意識に体が動いた。


「はい。すみませんでした」


 真裕は力なく謝罪の言葉を述べる。元気が取り柄の彼女の無残な姿を見て、他のメンバーも意気消沈。ベンチに暗い空気が漂う。しかしまたしても、主将の晴香がそれを打破する。


「皆、何諦めた顔をしているの! まだ負けは決まってないわ。私たちにはあと一イニング攻撃がある。真裕がここまで試合を作ってくれた。その奮闘に応えましょう!」


 覇気を全面に押し出して仲間を鼓舞する晴香。彼女は決して諦めていない。どんなに苦しい状況でも、このチームの最後の希望であり続ける。その姿勢が、仲間にも希望を与えると信じているから。


「晴香さん……」


 真裕が顔を上げ、晴香と目を合わせる。晴香はふと柔和な眼差しを浮かべると、真裕に逆転することを誓う。


「真裕、私たちは絶対に逆転してみせる。だから貴方は声で力をちょうだい。やってもらえるかしら?」

「は、はい」

「よし。じゃあ皆で円陣を組みましょう。決勝に行くのは、私たちよ!」

「おー!」


 晴香の言葉に沈んでいたナインたちも奮起する。僅かに残っている希望の灯を、紡げることはできるのか。


《七回表、亀ヶ崎高校の攻撃は、九番柳瀬さんに代わりまして、バッター、増川さん》


 最終回で一点のビハインド。何としても得点を挙げるべく、亀ヶ崎は先頭の真裕に代えて洋子を代打に送る。奥州は舞泉を続投させ、より確実に勝利を掴みにいく。


(真裕ちゃんは交代か。逆の立場で対戦してみたかったけど、まあ仕方ないよね。さてと、三人で抑えて、気持ち良く決勝行きを決めますか)


 洋子が打席でバットを構え、七回表が始まる。初球、舞泉はインコースに直球を投げ込む。洋子は代打の極意に従って果敢に打ちにいくが、バットは空を切る。


(速い。ベンチで観察してイメージはしていたけど、それだけで対応できるほど甘くはないか)


 二球目、舞泉はストレートを続ける。洋子はこれもバットに当てることはできない。


「ふう……」


 レギュラー陣ですら誰も打てていないのに、代打で出てきた選手がこの舞泉を攻略することがどれだけ難しいかは言うまでもない。苦闘する洋子の姿を、同級生の杏玖と珠音は物憂げに見守る。


「ねえ珠音」

「何?」

「どうしてさっきの突っ込まなかったの?」

「さっき? 紗愛蘭が打者の時のこと?」

「うん」


 唐突に質問する杏玖。珠音は率直に思ったことを述べる。


「別に普通のことでしょ。あの打球で突っ込んだらアウトになるよ」

「普通? どうして普通なの?」

「どうしてって、そんなこと言われても答えようがないよ。私の足と相手の守備を考えたら、普通に止まるでしょ」

「そういうことじゃない! 何であの場面で普通のプレーになるのってこと!」


 杏玖が語気を強める。ベンチ内にいた人間がこぞって彼女たちを見る。


「あ、すみません。つい……」


 杏玖は口を噤み、帽子を深く被って顔を伏せる。隣にいた珠音は珍しく困惑した表情を浮かべる。


「杏玖?」

「ごめん。けどさ珠音、この試合はいつも通りやってたら駄目なんだよ。あんたの思ってる“普通”じゃ、勝てないんだよ」

「は、はあ……」


 杏玖は囁くように珠音に言う。珠音は、杏玖の言葉の真意を理解できなかった。


「ストライク、バッターアウト」


 二人がやりとりしている間に、洋子が空振り三振に倒れる。最後はフォークに釣られた。奥州の勝利に向け、まずは一つ目のアウトのランプが灯る。


「すみません」

「ドンマイ、仇討ちは任せろ」


 洋子を明るく励まし、一番の光毅が打席に向かう。足を使える彼女が塁に出られれば、それだけで亀ヶ崎にとってチャンスとなる。


(さっきの打席で、とりあえず前に飛ばせることは分かってる。芯で捉えられさえすれば、ヒットにできる)


 一球目、光毅は真ん中付近に来た投球を打ちにいく。ただボールは途中で鋭く落ち、光毅のバットを潜り抜ける。


(これがフォーク? 途中まで真っ直ぐと見分けがつかないじゃん)


 二球目、舞泉はアウトコースへのストレートでストライクを取る。光毅はバットを出せず、簡単に追い込まれる。


(次はフォークか、それとももう一球ストレートを続けてくるか。そういえばカーブもあったな。ああもう、考えるのは止めだ。ストライクに来たら打つしかない)


 迷走する光毅。真っ直ぐ突っ走れている時の彼女は強いが、こうなるとあまり良い結果は期待できない。


 三球目、初球と同じようなコースにフォークが来る。見極めたい光毅だったが、追い込まれている焦燥感からついバットを振ってしまう。


(あ、当たれ……)


 光毅は懸命にボールを追いかける。だが無情にも、快音は響かなかった。


「バッターアウト」

「ああ、くっそお」


 光毅は悔しさを滲ませる。二者連続三振でツーアウトとなり、亀ヶ崎はあっという間に窮地に立たされる。“敗北”の二文字は、すぐそこまで迫ってきた。



See you next base……


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=825156320&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ