表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ベース⚾ガール!  作者: ドラらん
第九章 想いを繋いで
124/181

122th BASE

お読みいただきありがとうございます。


明日から春の甲子園開幕ですね。

今年は一回戦から非常に面白いカードが多いので、要注目です!

「しゃあ!」


 原田から三振を奪い、真裕は小さく声を上げる。これぞ火事場の馬鹿力というべきか。真裕は自らの限界を超えて渾身の一球を絞り出し、逆境を打ち破った。


(おいおい。今の球、めちゃくちゃ手元で伸びてきたぞ。仲間から少し激励されただけで、こんな力が出せるのかよ)


 原田は驚きを隠せない。そしてこの瞬間、奥州への応援ムードは一転し、亀ヶ崎の方に傾く。


「おお、ナイスボール! あの子良い根性してるじゃん」

「あと一人だ。頑張れ! もう一回真っ直ぐで封じ込んでやれ」


 真裕のピッチングに感銘を受けた観客が、彼女に盛大な喝采を送る。更にもう一人、心を大きく揺さぶられた者がいる。真裕の兄、飛翔だ。


(すげえ。あいつ、ここで三振取れるのかよ。しかも球場の雰囲気まで変えやがった。……それに比べて、俺は何をやってるんだ。こんなところで呑気に突っ立ってて本当に良いのかよ)


 飛翔は左拳を強く握る。劣勢を跳ね除け、目の前で輝く妹。その姿を見た兄の心の中には、嬉しさと同時にとてつもない悔恨の情が芽生えていた。


《四番ファースト、小野さん》


 ただし真裕たちが安心するのはまだ早い。打席には四番の小野が入る。ここまで無安打といえど、仮にも奥州の主砲である。心して挑まなければならない。それは亀ヶ崎バッテリーも承知していた。


(さっきの一球は最高だった。けどそれに酔っては駄目。ここはクールダウンして、一から組み立て直さないと)


 初球、優築はカーブのサインを出す。真裕は丁寧に低めへ投げ込み、まずはストライクを一つ先行させる。


「良いねえ。その調子で行こう」

「どんな打球が来ても止めてやるぞ」


 内野陣も懸命に真裕を盛り立てる。この声は確かな力となり、真裕の背中に届く。


 しかしそんな彼女たちの様子に、三塁ランナーの舞泉は難色を示していた。


(この場面であの球が投げられるは流石だよ、真裕ちゃん。センターの人の言葉に奮起したんだね。けどさ、君はピンチになる度に、毎回毎回ああやって誰かに助けてもらい続けるの?)


 二球目、内角低めに直球が外れる。小野は少しだけ足を引いて見逃す。


(甘い。甘いよ。そんなんじゃ、私たちには勝てるわけないじゃん)


 三球目は外角へのストレート。僅かにボールとなったが、投じている球の勢いはまだまだありそうだ。


(一塁は空いている。だから最悪歩かせても良い。ここはボールが増えることを怖れず、厳しく攻めるわよ)

(はい)


 ツーボールワンストライクからの四球目。バッテリーは内角のツーシームで行くことを決める。サインに頷き、セットポジションに入る真裕の目に、ふと舞泉の顔が映る。


(ごめんね舞泉ちゃん。ホームは踏ませないよ。ここを抑えて、私が勝つんだ)


 舞泉と刹那にアイコンタクトを交わし、真裕が投球モーションを起こす。小野の膝元に構えられた優築のミットを目がけ、彼女は体全体の力を込めて右腕を振る。


 真ん中やや低めのコースから、投球は滑らかに斜め下へと沈んでいく。小野は反射的にスイングを開始する。


(真裕ちゃん、良い顔してたな。けどごめんね。それでも勝つのは、私たちなんだよ)


 舞泉が見守る中、小野がバットにボールを乗せる。青空に向かって掬い上げられた白球は高々と舞い、追い風に身を委ねながらレフトへと飛んでいく。


「え……?」


 真裕は呆気に取られたかのように口を半開きにし、打球の行方を見守る。レフトの玲雄が必死に後退するも、打球は落ちてくる気配が見られない。球場全体が静寂に包まれる。三塁ランナーの舞泉はゆっくりホームベースを踏み、うっすらと相好を崩した。


(ほらね。勝つのは私たちなんだって)


 打球がようやくグラウンドに弾む。その地点はフェンスの代わりとして用意されていた黒い柵を、越えていた。


「おお!」

「ああ……」


 悲鳴と歓声が混じり合う。打った小野は、大きなガッツポーズをしながらダイヤモンドを一周する。逆転のスリーランホームランが飛び出した。


「そんな、嘘でしょ……」


 呆然とする優築。真裕が投げたボールはしっかりと指に掛かり、制球もされていた。小野がバットを動かした瞬間、優築は内心してやったりと思った。それがよもや、ホームランにされようとは……。


「よっしゃ! 逆転だ!」


 小野がホームインし、仲間たちと大袈裟にハイタッチを交わす。地獄の底にいたチームを、一振りで救ったのだ。これだけ喜ぶのも無理はない。


 反対に、亀ヶ崎は一瞬にして地獄の淵へと突き落とされる。痛恨の一打を献上した真裕。受けたショックの大きさは、打たれた本人以外に図り知れるものではないだろう。彼女はがっくりと肩を落とし、膝に手を付く。そのまま崩れ落ちてしまいそうだ。


「優築! 真裕をフォローしろ!」

「あ、はい」


 隆浯に我に返らされ、優築は慌てて真裕を助けにいく。だが、その必要は無かった。


「ああ!」


 なんと真裕は自分で顔を上げたのだ。マウンドに向かおうとしていた優築も、これには思わず後ずさる。


「ま、真裕……」

「私は大丈夫です。早く次に行きましょう」


 真裕は鬼気きき森然しんぜんとした面構えで優築を追い返す。逆転を許した。けれども、彼女の心はまだ折れてはいなかった。


(まだだ。まだ終わってない。私はまだ、投げなくちゃいけないんだ)


 己の力のみで真裕は再び立ち上がった。そんな彼女を見ていた舞泉は少しだけ驚くと共に、心臓が加速を始めるのを感じる。


(へえ、やるじゃん。ちょっと遅すぎたけどね)


 ランナーがいなくなり、打席には五番の島谷が入る。亀ヶ崎はこれ以上傷口を広めないよう、この島谷で切らなければならない。


 初球、アウトコースにストレートを投じる。島谷は打ちにいくも、空振りを喫する。


(あれ? 打てると思って振ったのに当たらなかった。まさかここにきて、スピードが上がったっていうの?)


 二球目。高めにストレートを続ける。ボール気味のコースだったが、島谷は思わずバットを出してしまい、ハーフスイングを取られる。


(島谷を力で押してる。あんな手痛い一発を食らった後に、これだけの球が投げられるのは本当に感心するわ。だったら私は、それが活かされるようなリードをしないとね)


 三球目、バッテリーは外に逃げていくカーブでタイミングを狂わせる。直球に押し込まれるイメージが残っていた島谷は、咄嗟に反応してしまい、バットの先端に引っ掛ける。


「オーライ」


 高く跳ねた当たりがショートに飛ぶ。合わせ辛い打球だが、前進してきた風はショートバウンドでさばき、素早く一塁へ転送する。


「アウト。チェンジ」


 これでスリーアウト。真裕は寂し気にマウンドを降りていく。ホームランを引きずり、気持ちが切れてしまってもおかしくなかった。しかし彼女は踏ん張った。その熱投を称え、スタンドから労いの拍手が起こる。中でも飛翔は我先にと手を叩いていた。


 だが打たれた投手にとって、そんなのは何の気休めにもならなかった。



See you next year……



PLAYERFILE.48:小野(おの)琥珀(こはく)

学年:高校二年生

誕生日:1/28

投/打:右/右

守備位置:一塁手

身長/体重:158/57

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=825156320&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ