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ベース⚾ガール!  作者: ドラらん
第九章 想いを繋いで
123/181

121th BASE

お読みいただきありがとうございます。


先日今年初めて野球観戦に行ってまいりました。

いよいよシーズンが始まるということを実感し、一層気合が入ってきています。


 ヒット二本と送りバントでワンナウトランナー二、三塁。怒涛の如くピンチが押し寄せ、亀ヶ崎はこの試合二回目の守備のタイムを取る。


「球威もコースも悪くないから。怖がらずに投げてきなさい」

「はい」

「真裕、サードに打たせて。走ってきたらホームをアウトにしてやるから」

「はい」


 それぞれの陣形を確認した後、優築や杏玖が真裕を励まそうと声を掛ける。その光景を、三塁ベース上の舞泉は目を細めて眺めていた。


(随分仲が良いチームなんだね。けどそんなんで、ほんとに大丈夫?)


 マウンドの輪が解け、試合が再開する。打席に入るのは三番の原田。亀ヶ崎は風と光毅が定位置に守り、珠音と杏玖がやや前に出る守備隊形を組む。サードかファーストに打球が飛んだ場合、可能であれば本塁をアウトにしようという構えだ。


 一球目。真裕は低めへの直球を投じる。


「ボール」


 際どいコースに行くも球審の手は上がらない。原田はあっさりと見送ったが、優築はそれに関して不審に思う。


(さっきから真裕がずっと良い球を投げてるのに、ことごとく対応されてる。待球作戦を止めたとはいえ、こんなに急に反応が良くなるものなの?)


 二球目はボールゾーンへと逃げていくツーシーム。原田はバットを動かしかけるも思い留まる。


(いや違うか。奥州は予めこの回に標準を合わせていたのかも。あの作戦の本当の目的は、球数を投げさせることにあったんじゃない。真裕の球筋や癖を見極めて、後々の攻撃に備えてたってことか)


 優築の読みは正解だった。奥州打線は五回までを布石にし、終盤で勝負を仕掛ける腹積もりだったのだ。

 一つ前の打席、原田はキャッチャーフライに倒れた。けれどもその際に投げられた六球と、他の打者が粘っている間に真裕の投球の特徴をしっかりと把握していた。


(百球を超えてもボールの質が変わってないのは素晴らしいよ。だけどそれは織り込み済み。私たちは、そっちが一番良い球を投げてきても打てるようにここまで準備してきたんだよ)


 続く三球目。アウトローに来たストレートを、原田は芯で捉える。


「あ!」

「ファースト!」


 ライナー性の打球が珠音の脇を通り過ぎ、ライト線際に弾む。二人のランナーが一斉にホームを目指して走り出す。


「ファール」


 同点タイムリーかと思われたが、打球は緩やかにフェアゾーンから外へと切れていった。亀ヶ崎側と奥州側、両チームから大きな溜息が零れる。しかしこの一打は、亀ヶ崎バッテリーの恐怖心を煽るには十分効果的だった。


(スイングを見る限り、咄嗟にバットを出した感じだった。狙い球でなくても合わせられてる。まずいな)


 ひとまず仕切り直し。ところが優築は、次のサイン選びに悩む。


(もうストライクゾーンで勝負するのは怖い。幸いツーストライクは取れた。ここからは何とかボール球を振らせていこう)

(……分かりました)


 四球目。バッテリーはカーブで原田のスイングを誘う。だが原田はきっちりと見極める。


(駄目か。ならこれならどうだ)


 五球目、今度は低めから沈んでいくツーシームで攻める。原田は打ちにいく姿勢を見せるも、バットは動かない。


(くっ、これも振らないのか)


 苦心の配球も功を奏さず。あれよあれよという間にフルカウントになってしまった。ここまで懸命に耐えてきたバッテリーだが、次第に後ろ向きな気持ちが大きくなっていく。


(優築さんの指示通りには投げられてる。けど全然抑えられる気がしない。これが今の私の、限界ってことなの……?)

(真っ直ぐ、ツーシーム、カーブ。どの球種でも打ち取れるビジョンが湧かない。歩かせるわけにもいかない。一体どうしたら……) 


 万策尽き、しかも四面楚歌。八方塞がりのこの状況を乗り切る方法など、果たして存在するのだろうか。真裕と優築は途方にくれそうになる。


 しかし、そんな二人に、一人の選手が一筋の光を灯す。


「真裕! 優築! しっかりしなさい!」


 他の声援を一発で打ち消すほどに、迫力のある声が飛ぶ。その主は、センターを守る主将の晴香だった。


「は、晴香さん……」


 真裕がびっくりしたように後ろを振り返る。優築もマスクを外し、晴香の方を見る。


「打たれることを怖がるな。良い答えが見つからないのなら、今自分たちが一番自信のある球を投げなさい。貴方たちがした精一杯の選択が、正解に一番近いはずよ」


 晴香の激が、気弱になっていたバッテリーの胸を深く突き刺す。真裕と優築の二人は口元を力強く引き締めて頷くと、改めて原田との対戦に臨む。


(晴香さんの言う通りだ。正解が分からないなら、作り出すしかない。自分たちができる最大限の答えを出して、それを正解にするんだ。今の真裕が、一番自信を持って投げられるであろうボール。それは……)

(私が一番自信のあるボール。それは……)


 優築がサインを出す。その選択は真裕の考えとぴったり一致しており、サインを受け取った彼女は威勢良く首を縦に振る。


(よし。優築さんも思っていることは同じだ。その期待に応えなくちゃ)


 真裕は右手首を振る仕草をしながらセットポジションに入り、自らの心臓の鼓動の速度を冷静に感じ取る。そうして自分にとって最も都合の良い間合いで足を上げ、原田への六球目を投じる。


(……打てるものなら、打ってみろ!)


 真裕の右腕が放たれた白球が、一直線にホームへ向かっていく。バッテリーの導き出した答えは、なんと高めのストレートだった。


(力勝負か。受けて立つ!)


 フルスイングで応戦する原田。だが魂の籠められたボールが、そう簡単に打たれるはずがない。


「ストライク、バッターアウト!」


 原田のバットが虚しく空を切る。空振り三振。自分たちの出した答えを、見事に正解にしてみせた。



See you next base……



PLAYERFILE.47:原田はらだ達美(たつみ)

学年:高校三年生

誕生日:8/15

投/打:右/右

守備位置:中堅手

身長/体重:160/58

好きな食べ物:シュークリーム、エクレア

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