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ベース⚾ガール!  作者: ドラらん
第九章 想いを繋いで
122/181

120th BASE

お読みいただきありがとうございます。


新年度に向けて、色々と片付けなければならないこと、準備しなければならないことが増えてきました。焦らず順々と熟していきたいと思います。

 試合の分水嶺とも成り得る場面で迎えた、真裕と舞泉の二回目の対決。その初球、真裕の投じたインローのストレートを、舞泉が打ち返す。


「ファール」


 打球は一塁線の外側を転がっていく。良い当たりだったがファールとなる。


(ちょっとタイミングが早かったかな。まあゴロになっちゃったし、ファールで良かったかも)

(一球目から手を出してきた。ということは、これまでの作戦は打ち切ったと考えるべきか。まあ残りのイニングも少ないし、当然といえば当然か)


 二球目。真裕は低めにカーブを投じる。しかし僅かに外れる。


 続く三球目、バッテリーは緩急を効かせ、外角のストレートで攻める。だがこれも枠内には決まらず、舞泉にきっちりと見送られる。


(次でストライクが欲しい。仕方ない、勝負球にしたかったけど、ツーシームを使うか。小山にはまだ見せていないし、真っ直ぐだと思って引っ掛ける可能性もある。真裕、この一球で決めるつもりで投げてきなさい)

(分かりました)


 優築の出すサインに頷き、真裕が舞泉への五球目を投げる。コースは真ん中よりもやや外側。舞泉は打ちにいこうとする。


(甘い球。いや……)


 ところが半分ほどスイングしたところで、舞泉は出したバットを引き戻す。ボールはそのまま優築のミットに収まった。球審がストライクをコールする。


(ツーシームじゃん。危ない危ない。ちょっと引っ掛かりそうになったよ)

(見送られた。バットが出かかったようにも見えたけど、途中で打つのを止めたか)

(良い感じに投げられたんだけどなあ。見抜かれたかな)


 これでツーボールツーストライク。打ち取ることはできなかったが、真裕たちは舞泉を追い込む。けれども追い込まれた側の舞泉は、さほど気にしていない模様だった。


(追い込まれた……か。でもそれはカウント上の話。真裕ちゃんの球なら、ツーストライクになってもそんなに恐くない。そこが真裕ちゃんの致命的な弱点なんだよ)


 五球目。バッテリーはストレートで決めに掛かる。外角低め一杯のコースだが、舞泉はファールで逃げる。


(よくカットしたわね。けど良い球は来てる。次こそ仕留める)


 六球目、今度はインコースへのカーブ。しかしこれも舞泉はファールにする。七球目も真裕たちはカーブを続けるが、一塁側のスタンドへと打ち込まれる。


(粘る作戦は止めたんじゃないの? それともただ単に打ち辛いボールをファールにしているだけ?)


 観客席に消えていく打球を見ながら、優築はマスク越しに眉をひそめる。投手が良い球を投げているのに打ち取れない。捕手としては非常に歯がゆい。


(このバッターをアウトにできれば、またこっちに流れを持ってこられる。その勢いで真裕は最後まで行けるかもしれない。焦っては駄目。ここは球数を使っても構わない)


 八球目。真裕はもう一度外角低めにストレートを投げる。


「ファール」


 ただ舞泉もしっかりとバットに当てる。打球は三塁ベンチの方向に飛んだ。


「ふう……」


 打球の行方を確認し、頬を膨らませる真裕。彼女の心の中では、簡単にはアウトにならない舞泉への称賛と、もどかしさが混交していた。


(真っ直ぐにも変化球にも合わせてくる。流石舞泉ちゃんって言いたいところだけど、いい加減前に飛ばしてくれないかな)

(お、真裕ちゃん嫌がってるね。じゃあそろそろ良いかな)


 真裕の様子を見て、舞泉は少しだけ口角を持ち上げる。準備は整った。そんな風に言いたげな表情をしている。


 次が十球目。真裕が振りかぶり、投球モーションに入る。その右腕から離れたボールはシュート回転しながら外へと沈んでいく。ツーシームだ。舞泉は変化の軌道に沿って、鋭くバットを振り抜く。


(ごめんね真裕ちゃん。勝つのは、私たちなんだ)


 打球はショートの頭上を越える。そのままレフトの玲雄の前に落ちた。舞泉は澄まし顔で一塁をオーバーランして止まる。


「ああ……」


 真裕はマウンドで頬を歪める。どうしても打たせたくないところでの、粘られた上でのヒット。ショックは大きい。


(悪いコースじゃなかった。変化もちゃんとしていたと思う。それなのに打たれた。くそっ……)


 奥州にとっては待望のノーアウトのランナーが出る。それだけではない。舞泉が打ったことで球場の声援は更に奥州側へと傾き、その勢いを加速させる。


「良いぞ小山!」

「続け続け! 逆転劇見せてくれよ!」


 当然これは奥州ナインに大きな活力を与える。その一方で真裕には、見えない敵となって襲いかかる。


(凄い応援。まるで地響きが起きてるみたい。これも舞泉ちゃんの力だっていうの?)


 真裕は心臓が圧迫されるのを感じる。少しでも隙を作れば、応援の波に呑み込まれてしまいそうだった。


(これまで奥州と戦ってきた人たちも、同じ思いをしてたのかな。きっと皆、これを乗り越えられないから負けたんだ。だったら私が最初に打ち破ってやる)


 真裕は気を確かに持ち、次打者の棚橋を迎え撃つ。一球目、ストレートが外角高めに決まる。


 二球目は棚橋の胸元を抉る。ボールにはなったものの、優築は真裕の投球に手応えを抱いていた。


(まだボールの力は衰えていない。この雰囲気の中で投げるのはきついだろうけど、今のところ臆せず投げ込めてる。悲観する必要は無いはず)


 三球目、優築は外角低めにツーシームを要求する。真裕は一塁ランナーを瞥見し、クイックモーションで投げる。これがこの試合の百球目だ。


(ツーシームか。良いコースには来てる。けど……)


 棚橋は打ちにいく。ボールはバットの下っ面に当たり、ゴロになる。


「ピッチャー!」


 決して球足は速くなかったが、飛んだコースが良い。打球は真裕の股下を潜って二遊間へと転がる。光毅と風が共にグラブを出すも、それを嘲笑うかのようにボールは二人の間をすり抜けていった。


「サード来てない。内野に返して」


 舞泉は二塁でストップ。二者連続安打となり、同点の走者まで出塁する。


 続く二番の織田が送りバントを決め、ワンナウトランナー二、三塁となる。舞泉のヒットを皮切りに目覚めの兆しを見せる奥州打線。その鋭利な牙で、真裕に襲いかかろうとしていた。



See you next base……




PLAYERFILE.46:織田おだ香織(かおり)

学年:高校二年生

誕生日:3/19

投/打:右/右

守備位置:二塁手

身長/体重:158/55

好きな食べ物:豚骨ラーメン

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