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ベース⚾ガール!  作者: ドラらん
第九章 想いを繋いで
120/181

118th BASE

お読みいただきありがとうございます。


3月9日です。

瞼を閉じれば……。


【追記】瞼ではなく瞳でした。


 五回の攻防でも動きは見られず。奥州側は引き続き球数を投げさせにきたが、真裕はペースを狂わされることなく対応し、二〇球程度で切り抜けた。


 試合は膠着状態に入っていた。亀ヶ崎の方としても、もうそろそろダメ押しの点を挙げたいところだ。六回表、この回は五番の珠音からの攻撃となる。


 奥州側は源が続投。ヒットこそ数本許しているが、まだ失点はしていない。


 珠音への一球目、源は外に逃げるスライダーを投じる。珠音は誘いに引っかからず、悠然と見逃す。


(この人、あんまりパッとしないピッチャーなんだよねえ。ストレートが速いわけでも変化球がめっちゃ曲がるわけでもない。面白味が全く無い。まあ良いや。とりあえず今日はまだヒット打ってないし、ここで出しとこ)


 何とも緊張感の見られない珠音。ただ彼女はしっかりと、源の球筋を見切っていた。


 二球目、外角への直球が来る。低めの良いコースではあるが、珠音は打ちに出る。


「あらよっと」


 向かってくるボールの勢いをバットに乗せ、限界まで手首を返さずに力を押し込む。澄んだ金属の音色を発した打球は、計ったかのように右中間のど真ん中を割っていく。


「ボールセカン!」


 フェンスまで転がったボールを急いで島谷と原田が処理する。珠音は余裕で二塁まで進んだ。


「ナイバッチ!」

「ふう……」


 仲間の声には大した応答はせず、珠音は気の抜けた息を吐く。周りの雰囲気に流されることなく、彼女はどんな時でもマイペースにプレーしている。


《六番サード、外羽さん》


 ランナー二塁と亀ヶ崎に久々のチャンスが訪れる。バッターの杏玖は打席に入り、ベンチのサインを確認。隆浯は送りバントの指示を出す。杏玖はヘルメットのつばに触れ、了解の仕草をする。


(私はこの大会、そんなに打てていない。せめて送りバントくらいは決めないと)


 初球、源の投球は高めに外れ、杏玖はバットを引いて見送る。投げると同時に前に詰めてきていた源は、若干しんどそうな表情を浮かべる。

 この準決勝まで、奥州の投手陣は彼女を中心に回してきた。それ故、試合前から疲労の蓄積は相当なもの。当然ピッチングに影響しないわけがない。打席の杏玖もそれを何となく感じ取る。


(少し疲れてきてるのかな。ダッシュの動きもそんなに良くない)


 二球目、杏玖は内角低めのストレートを三塁線際に転がす。源はボールを素手で拾い、一塁へ投げる。


「あっ!」


 だが送球は大きく逸れた。ボールはファーストの小野の左横を通り過ぎ、ファールゾーンを転々とする。まさかの暴投。二塁ランナーの珠音は三塁を回る。予期せぬ形で亀ヶ崎に追加点……と思われた。


「ファール、ファールボール」


 球審が両手を広げてプレーを止める。実は源が捕る寸前、ボールは微妙に白線を割っていたのだ。


「何だよ、ラッキーだと思ったのに」


 口惜しそうに嘆く杏玖。既に二塁に向かおうとしていたが、打席へと引き返す。珠音も元いた塁に戻される。


(まあでも今のプレーを見ると、ここは投手に捕らせるバントで十分かも。あとは珠音に走ってもらおう)


 三球目、源はカーブでかわそうとしてきた。しかし杏玖は難なく対応し、ピッチャー前にバントを決める。


「ファースト」


 源は三塁の方を振り向くことなく、白間の指示に従って一塁へ投じる。今度は良い送球が行き、杏玖はアウトになった。


 これでワンナウトランナー三塁。チャンスを拡大させ迎えるバッターは、七番の紗愛蘭だ。


「タイム」


 ここで奥州ベンチはタイムを取り、内野陣がマウンドに集まる。どうやら投手を代えるみたいだ。源が降板し、再び彼女の出番が告げられる。


《ピッチャー、源さんに代わりまして、小山さん》


 大きな歓声が沸く中、レフトにいた舞泉が内野に走ってくる。ベンチメンバーが持ってきた投手用のグラブと取り換え、マウンドに登った。


「出てきたわね」

「はい。イニングもイニングですし、これまでの傾向を考えると予想はできてました。あっちからすれば切り札みたいなものでしょうから」


 紗愛蘭はネクストバッターズサークル付近で、優築と共に舞泉の投球練習を見つめる。ここまで自分から話題に出すことはしなかったが、彼女もまた、真裕と同じように舞泉には強い刺激を受けていた。


(実力ももちろんだけど、それ以上にこんなにも周囲の期待を背負って、それにしっかり応え続けてるところが凄い。同じ一年生とは思えないよ)


 舞泉の投球練習が終わる。紗愛蘭は自分の名前がコールされるのを聞き、一度深呼吸してから打席に向かう。


(でも私だって、洋子さんたちの想いを託されてレギュラーになったんだ。負けるわけにはいかない)


 普段は和やかに下がっている目尻を、紗愛蘭は鋭く引き締める。一方の舞泉の顔つきにはさほど変化は見られない。


(踽々莉紗愛蘭。この子も一年生なんだよね。ちゃんと覚えてるよ。ここまで全試合スタメンで出てて、今日も西村先輩からヒット打ってた。正直、現状では真裕ちゃんよりも良い選手なんじゃないかな。だけどここは、抑えさせてもらうよ)


 グラウンドの緊張感が一層高まる。両チームにとっての重要なターニングポイント。ここでの一点の行方が、勝敗を左右するかもしれない。


 紗愛蘭対舞泉。もう一つの一年生対決が始まる。



See you next base……


WORDFILE.45:投手交代


 投手は一度登板すると、最低一人の打者との対戦を完遂、もしくは攻守交替しなければ交代することができない。ただし負傷により投球を継続できないなどやむを得ない場合を除く。

 もしもこの要件を満たさず他の投手に交代した時には、審判員が正規の投手に試合に戻ることを命じなければならない。しかし万が一誤って出場した投手が指摘されないまま打者へ一球投じる、または牽制など塁上の走者にプレーを企てた場合、その投手の交代は正当化され、以後のプレーも全て有効となる。


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