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ベース⚾ガール!  作者: ドラらん
第九章 想いを繋いで
117/181

115th BASE

お読みいただきありがとうございます。


“怪物”登場です。

心してご覧ください。


 亀ヶ崎が二点リードの二回表。ワンナウトランナー二、三塁となったところで、奥州はピッチャーを交代する。マウンド上に、あの“怪物”が姿を現す。


《奥州大学付属高校、ピッチャー西村さんに代わりまして、小山さん》


 球場に舞泉の名前がコールされる。三塁側スタンドを含め、観客席から大きな拍手が起こる。


「おお? 何だ何だ?」


 何も知らない飛翔はびっくりしながら周りを見回す。近くの席にいた観客の喜々とした表情から、何となく事情を察することができた。


(なるほど。スーパースターさんのお出ましってわけね。登板するだけでこれだけの歓声を貰えるってことは、相当な実力の持ち主なんだろうな)


 飛翔はマウンドに目を向け直す。その眼差しの中に、どこか羨望の念が籠っているようにも見える。


「じゃあ行きまーす」


 投球練習を始める舞泉。真裕たち亀ヶ崎ナインは、その様子を黙って観察する。目の前のスピードボールを打ち返すイメージを、各々頭の中で作ろうとしていた。


 規定の投球数を舞泉が投げ終え、試合が再開する。最初に対戦するのは、一番の光毅だ。


(こんなに早く出てくるとは思わなかったよ。けどその分打てる回数が増えるから良っか。それに今こっちはチャンス。点を取らせてもらうよ)


 奥州バッテリーが初球のサインを決める。舞泉の右腕から最初に放たれたのは、真ん中高めのストレートだった。光毅は果敢にスイングするも、バットは空を切る。


(おー、やっぱり速いな。もっと始動を早くしないと)


 二球目。舞泉は連続ストレートを投げる。内角を抉る厳しいコース。それでも光毅は打ちに出る。


(飛んでけ!)


 ボールがバットに当たる。しかし芯からは程遠く、光毅の腕に重たい衝撃が走った。


「ひっ……」


 力の無い飛球はショート山下の後方へ。外野まで行くにはもう一押し足りず、落下点に入った山下ががっちりと掴む。ランナーは釘付けにされたまま、アウトだけが増えた。光毅は渋い顔をしてベンチに引き揚げていく。


(ただ速いだけじゃなく、ボール自体の威力もあった。当てるには当てたけど、バットの根っこじゃ飛んでいきっこないな)


 続いて二番の風が打席に入る。ツーアウトとなったが、まだチャンスは潰えていない。ヒット一本で二点入る可能性がある。


 一球目、舞泉は外角低めのストライクゾーンにストレートを投じる。風は手を出さず、球筋の把握を試みる。


(打席だとより速く感じる。でも全く目で追えないわけじゃない。前に飛ばすことならできるはず)


 二球目、ストレートが高めに来る。これは明らかなボールとなった。


 三球目。舞泉はストレートを続ける。コースは内角高め。風は打っても窮屈なスイングになると判断し、打ちにはいかない。


「ストライク」


 これで風は追い込まれた。落ちる球にも警戒しなければならなくなる。


(前に見た時はフォークを決め球に使ってた。ここはどう織り交ぜてくるのかな)


 四球目、奥州バッテリーは外角へのボール球を挟む。カウントはワンボールツーストライク。変化球を投げるタイミングとしてはちょうど良い。


(遊び球を入れてきた。ということは次でフォークが来るかも。低めは見極めて、甘いところに来たらしっかり振り抜く。真っ直ぐはカットだ)


 風はストレートとフォークのどちらにも対応しようとする。難しいことだが、指折りのバットコントロール力を持つ彼女ならできないことではない。


 舞泉が捕手からのサインに頷く。顔つきをほとんど変えぬまま足を上げ、風への五球目を投じる。

 右手から離れた白球は、大きく浮かび上がるような軌道を描く。フォークが抜けたのか。風は一瞬そう感じる。


(え?)


 しかしそれは錯覚だった。ボールは緩やかな曲がりを見せ、風の背中の辺りから外へと逃げていく。


(これって……)


 ストレートでもフォークでもない球種。風は完璧に不意を突かれ、バットを振ることができない。そのままボールはキャッチャーミットへと吸い込まれた。


「ストライク、バッターアウト!」


 見逃し三振。球審の判定を聞き、舞泉は仄かに口元を緩ませてマウンドを降りていく。一方の風は、暫くその場を動けなかった。


(今のはカーブ? それもかなり球速が抑えられてる。こんなボールも持ってたのか)


 舞泉のようにスピードが出せる投手は、どうしてもストレートや速い変化球がピックアップされがちである。実際に小細工にはそんなに頼らず、力でねじ伏せにいくタイプは多い。

 しかし舞泉は違う。今みたいなスローカーブを駆使して緩急を効かせ、引く時は引くことができる。この打席の風はまんまとその策にしてやられたのだ。


「おいおい、何だ今の?」

「多分カーブだろ。こりゃたまげたなあ。あんな速い球に加えて、遅い球もしっかり投げられるなんて。ほんとに一年生かよ」


 スタンドの観客も驚きを隠せない模様。またもや舞泉は、彼らを魅了したのだった。


「あのピッチャーかっこいい! ファンになっちゃったわ」

「私も。でも今あの子のチーム負けてるんだよね。応援してあげないと」

「そうだね。頑張れ奥州大付属!」


 舞泉に魅せられた者たちが奥州の方に声援を送り始める。球場の雰囲気もにわかに変わり出した。


(たった二人に投げただけで、見ている人の心を掴みやがった。あれは正真正銘のスーパースターだな。さあ我が妹よ、どう立ち向かう?)


 バックネット裏で観戦していた飛翔も舌を巻く。そんな兄が見守る中、真裕は二回裏のマウンドに上がる。彼女もまた、舞泉の投球を見て感じるものがあった。


(舞泉ちゃんってば、もう凄すぎて言葉が見つからないよ。投げ合うことができるなんて本当に嬉しい。だけどやるからには、絶対に負けたくない)


 舞泉から大きな刺激を受けた真裕。ただし高鳴る胸の鼓動は一旦落ち着かせ、二回表の投球に臨む。



See you next base……



PLAYERFILE.43:柳瀬飛翔(やなせかける)

学年:大学二年生

誕生日:11/9

投/打:左/左

守備位置:投手

身長/体重:182/80

好きな食べ物:唐揚げ、パスタ

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