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ベース⚾ガール!  作者: ドラらん
第九章 想いを繋いで
116/181

114th BASE

お読みいただきありがとうございます。


寒さも少しずつ和らぎ、段々と温かくなってきました。

そろそろ新シーズンに向けて肩を作っていかなければなりません。

「ナイスピッチング。よくしのいだよ」

「最後の球は完璧だった。ナイスボール」


 帰ってきた真裕を仲間が讃える。真裕は照れたように顔を赤らめ、一言詫びを入れる。


「すみません。ばたばたしちゃって」

「良いって良いって。何だかんだで一点に抑えたんだから」

「そうよ。よく立ち直ったわ。この後も頼むわね」

「はい!」


 晴香たちの言葉に真裕が大きく頷く。ひとまずどうしようもない真っ暗闇は脱し、この後の投球には期待が持てそうだ。舞泉はその様子を、自軍のベンチから無言で凝視する。


(あれが本来の真裕ちゃんだよね。元に戻って良かった。あのまま降板されたら楽しみが無くなっちゃうもん。ということで……)


 舞泉は後ろを振り返り、目の前に置いてあった黒いグラブを手にする。そうして、ベンチの奥で給水をしていた控え捕手の卓丸たくまるに声を掛けた。


「たっく先輩」

「お、行く?」

「はい、お願いします」


 試合は二回表の表に入る。この回は七番の紗愛蘭から始まる。


「よろしくお願いします」


 左打席に立ち、紗愛蘭は入念に足場を均す。同級生の真裕が先発ということで、彼女の中には期する想いがあった。


(この大事な試合に、真裕が頑張って投げてる。私もバッティングで力にならなくちゃ)


 初球、アウトコースにスライダーが外れる。紗愛蘭は悠然と見極める。


(一点返してもらったとはいえ、三点取られたショックはそれなりに引きずってるはず。まだ付け入る隙はある。心理的にはきっとこっちが有利だ)


 投手が投げ終わって次の球に移る間、紗愛蘭は焦って構えに入ることはしない。自分のペースを保ちつつ、自然な動きの中から打つ体勢を整えていく。そのような落ち着き払った打席での態度は、相手の西村に投げにくさを生じさせる。


(この子一年だよな。何でこんなに雰囲気あるの? 舞泉と一緒じゃん)

(惑わされるな。一球インコースで仰け反らせるよ。そうすれば少しは怯むでしょ)

(わ、分かった)


 二球目、奥州のキャッチャー白間しらまは西村に活を入れるべく、紗愛蘭の膝元付近に直球を要求する。しかし西村はコントロールしきれない。投球は狙いよりも内側に入ってきた。


(あ、真ん中)


 紗愛蘭は躊躇なくバットを振り抜く。快音を残し、痛烈なゴロが一塁線を襲う。


「ファースト!」

「ぬう……」


 小野が飛びついて捕ろうとする。しかし打球は彼女のグラブの下をくぐり、外野を転がっていく。その間に紗愛蘭は一塁を蹴って二塁まで到達。ツーベースとなった。


「やったー! 紗愛蘭ちゃんナイス!」


 ネクストバッターズサークルに向かいながら、真裕は紗愛蘭に向かって嬉しそうに手を振る。詰められた点差を再び突き離すべく、亀ヶ崎は初回に続いてチャンスを作る。


《八番キャッチャー、優築さん》


 打席には八番の優築が入る。この後の打順が九番の真裕であることを踏まえ、隆浯はここも送りバントの指示を出さない。


 一球目、アウトコースのストレートがボールになる。未だ調子の上がらない西村。腕の振りも心もとない。


(出鼻を挫かれ、ここから建て直していきたいというところでの紗愛蘭の二塁打。これはかなり効いたでしょう。ここで私が打って繋げられれば、早々にノックアウトできるかもしれない)


 二球目は外角へのカーブ。優築は見送ったが、ここはストライクと判定される。


(相手はアウトコース中心に組み立ててきている。というよりも、今の投手の状態ではインコースを突くのは厳しいか。なら外のボールに狙いを絞って、それを打ち返す。最悪進塁打になればオッケーね)


 三球目、優築の読み通り、奥州バッテリーは外角攻めを続けようとする。球種はストレート。西村はランナーを確認してから、投球動作に移る。ただまたもやコントロールが定まらず、逆球となる。


「あ……」

「え?」


 その上ボールは優築の体に向かって直進。優築が慌てて避けようとするも間に合わず、背中に当たった。


「ヒットバイピッチ」

「あたた……」

「す、すみません」

「気にしないでください。大丈夫です」


 デッドボール。幸い大きな怪我にはならず、優築はすぐに動き出す。


(ヒットで出たかったけど、まあ良いか。真裕の後は上位に回るし、その人たちに期待しよう。……ん?)


 一塁に向かう途中、優築は奥州側のブルペンに目が行く。そこには、本格的に肩作りを進める舞泉の姿があった。


(二回なのに結構力を入れて投げてる。まさかこの回のどこかで出てくるんじゃないでしょうね)


 これまでの舞泉の出番は早くても四回からだった。ただこの試合は準決勝。勝つためになりふり構わない起用も十分に考えられる。序盤から投入されても何ら不思議ではない。


《九番ピッチャー、柳瀬さん》


 バッターは真裕。流石にここは隆浯のサインも送りバントだ。


(そりゃあそうだよね。打ちたかったなあ。でもしょうがない。しっかり決めるぞ)


 奥州内野陣はバントシフトを敷く。ファーストの小野は、一塁と本塁のちょうど中間辺りまで出てくる。


(おいおい、ファーストの人近くない? すっごく怖いんだけど)


 初球、西村が投げるのと同時に、小野は猛チャージを掛ける。真裕はその勢いに気圧され、及び腰でバントする。


「うお……」


 ボールは捕手の後ろを転々とする。ファールとなり、走り出していたランナーは各々自分の塁に戻る。


「真裕、腰が引けてるぞ。もっと下半身をしっかり使え!」

「は、はい」


 隆浯がジェスチャーを交えて真裕に悪い点を指摘する。ノーアウトランナー一、二塁というのはフォースプレーになる上、相手が極端なシフトを取りやすい。そのため送りバントをするのが一番難しいと言われる。しかしチームとしては確実にランナーを進めておきたい。成功させられれば、真裕も気分良く次の回の投球に移れるはずだ。


(ビビっちゃ駄目。練習ではできてるんだから、それと同じようにやるだけ)


 二球目、西村は内角にストレートを投げてきた。小野は一球目と同様、投球に合わせてダッシュする。コースはストライク。真裕はバントしにいく。


(できる。本番は練習のように)


 バットの芯から僅かに外した打球が、三塁方向のフェアゾーンに転がる。捕球した西村は振り返って三塁を覗うが、間に合わないと判断し一塁へ送球。二人のランナーはそれぞれ進塁する。


「ナイスバント。よく決めたよ」

「ありがとうございます」


 真裕は見事に送りバントを決めた。ほっとした様子で、彼女はベンチの仲間とハイタッチを交わす。これでワンナウトランナー二、三塁。スクイズや犠牲フライでも点が取れる状況となる。


「タイム」


 するとここで奥州ベンチが動いた。監督の涼野すずの宗助そうすけはブルペンを指さし、交代の合図を送る。出てきたのはもちろん、あの“怪物”だった。



See you next base……



WORDFILE.44:フォースプレー


 打者がゴロを打った際、予め一塁にランナーがいる(しばしば「塁が詰まっている」とも表現される)と、前のランナーは後ろのランナーにベースの占有権を渡さなければならず、次の塁に進まざるを得なくなる。この状態を「フォース」と言う。

 フォースプレーにはランナー一塁、一、二塁、満塁(一、三塁)のケースが当てはまるが、この状況下では守備側はランナーにタッチせずとも、ボールを持って該当するベースに触れればアウトにできる。これをフォースアウトまたは封殺と言う。

 フォースの状態に無い時(例えばランナー二、三塁)は、打者走者以外をアウトにするにはランナーへの直接タッチが必須となる。当然ランナーも無理に進塁する必要は無く、各自の判断でベース上に留まっていることもできる。

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