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ベース⚾ガール!  作者: ドラらん
第九章 想いを繋いで
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113th BASE

お読みいただきありがとうございます。


仲の良い兄妹って良いですね。

憧れちゃいます。


「はあ、着いた着いた。駅から徒歩十二分って、もうちょっと交通の便良くならねえのかよ。亀高と一緒だな」


 球場の外に現れた一人の男。彼は文句を垂れながらサングラスを外し、服の胸元に引っ掛ける。早起きしてこちらへ来たので若干の眠気が残っているが、一度大きく欠伸と背伸びをして紛らわす。


「さてと、可愛い妹の応援に向かいますか」


 沸き立つ歓声に導かれるように、男は球場内へと入っていく。グラウンドの中では、亀ヶ崎の内野手たちがマウンドで集まっていた。


「すみません。初回からこんなんで」

「顔を上げて真裕ちゃん。一点取られただけでしょ。それにまだ二点リードしてる。細かいことは気にせず、打者を打ち取ることを考えれば良いから」

「打たせてくれたら全部捕るぞ。ど真ん中突っ込んでやれ」

「は、はい」


 落ち込んだ表情の真裕を、内野のリーダーである風らが元気付ける。


「まずはアウトを一つ取ろう。そうすればきっとリズムも出てくると思う。皆も必死に守って、真裕ちゃんをサポートするよ」

「はい!」


 マウンドの輪が解け、内野陣がそれぞれのポジションに散っていく。風は真裕のことを心配そうに見つめ、背走でショートの定位置に戻る。 


(投球練習まではいつもと変わらない気がしたけど……。やっぱりプレッシャーなのかな。何とかここを乗り越えるんだ、真裕ちゃん)


 今の真裕は本来の彼女ではない。それはバックで守っている全ての人間が分かっていた。だが彼らにはそれをどうすることもできない。真裕が自分で持ち直すことを願い、声援を送るしかないのだ。


《四番ファースト、小野さん》


 とにかく一つ目のアウトが欲しい真裕。しかし四番の小野に対しての初球は、直球を指に引っ掛けて大きく外角に外す。


 続く二球目。優築はカーブを要求してみるが、これも上手くいかない。すっぽ抜けになり、ボールは小野の顔の高さを通過する。


(身体が言うことを聞いてくれない。どうして?)


 真裕の呼吸はまた一段と荒くなる。気力こそあるも、このままでは立ち直るどころか、更に崩れていってしまいそうだ。


 その時だった。


「真裕! しっかりしろ!」

「え?」


 唐突に球場に響く男性の声。バックネット裏の観客席から聞こえてきた。真裕は咄嗟にそちらを見る。


「お、お兄ちゃん」


 視線の先に立っていたのは、真裕の兄、飛翔だった。そう、先ほど球場に入ってきた一人の男性とは、彼のことである。


「何びびって守りに入ってんだよ。お前らしくもない。可愛い妹の快投見せてくれるんじゃなかったのか?」


 飛翔は柔和に笑ってみせる。その笑顔は、真裕の心に大きな安堵感を与えた。


「お兄ちゃん……」


 真裕は飛翔に向かって点頭すると、目を瞑って一回深呼吸をする。肩の強張りがほぐれ、胸のつかえも和らいでいく。


(お兄ちゃん、ちゃんと来てくれたんだ。ここまでお金も時間も結構掛かるはずなのに)


 兄が遠いところまで応援しにきてくれた。真裕はそれがとても嬉しかった。お願いに応えてもらった以上は、彼女も有言実行しなければならない。


(先制点してもらったことで、そのリードを守らなきゃって自分で自分を追い込んでた。そんなのは私のピッチングじゃない。打たれても抑えても、まずは目の前の打者と勝負する。私にできるのはそれだけ。長い回を投げようとか、先のことは考えるな)


 真裕は閉じていた瞼を開く。遠くに感じていたキャッチャーの優築との距離は、いつも通りに戻っている。


(よし、ここから仕切り直しだ)


 再び打席の小野と対峙する真裕。ツーボールからの三球目、躍動感を取り戻した彼女は、優築のミット目掛けて思い切り右腕を振る。


「ストライク」


 アウトコースにストレートが決まる。打つつもりで構えていた小野だったが、ボールの勢いに気圧されて手が出なかった。受けた優築も、その変わりようにマスクの奥で驚く。


(球威が戻った。お兄さんの言葉が効いたのかな。何にせよ、これで勝負になる)


 四球目、真裕は低めにストレートを投じる。今度はスイングした小野。しかし振り遅れて空振りを喫する。


 続く五球目、真裕の投げたボールは真ん中やや内寄りのコースへ。小野は打ちに出る。ところがインパクトの瞬間、ボールの軌道が微妙に変化する。ツーシームだ。


「ショート!」

「オーライ」


 打球は三遊間へのゴロになる。風が逆シングルで捕球し、半回転して二塁へ投げる。ベースカバーに入った光毅はボールを受け取り、一塁にも送球。どちらもアウトになる。


「よし。ナイショート、ナイセカン」


 ダブルプレーで一気にツーアウト。得意のツーシームを投げ切り、真裕は最高の形を導いた。


《五番ライト、島谷しまたにさん》


 だがまだピンチは終わっていない。織田が三塁まで進み、五番の島谷を迎える。


 初球は高めのストレート。島谷は打ち返すも、球威が勝り一塁側へのファールとなる。


 二球目。バッテリーはカーブを選択。タイミングを外し、しっかりとストライクを取る。これで追い込んだ。


(この二球を見る限り、バッターは真裕のボールに付いてこれていない。それなら真裕が本当に立ち直れているかどうか、ここで試しておこう。さあ来て)


 優築は島谷の体に近いところにミットを構える。コントロールミスが怖いが、今の真裕にその心配は要らなかった。


 真裕が足を上げ、島谷への三球目を投じる。右手から放たれたストレートが、糸を引くようにして優築のミットに収まる。絶妙のコースに島谷は全く反応できず、ただただ見逃すしかなかった。


「ストライク、バッターアウト」

「おっしゃ!」


 真裕は力強くグラブを叩く。一時はどうなるかと思わせる立ち上がりだったが、何とか一点で食い止めた。飛翔の登場が、崩壊寸前の真裕を救ったのだった。


「ふふっ、これだよこれ。けど俺が来てようやく目覚めるようじゃ、まだまだ先が思いやられるなあ」


 駆け足でマウンドを降りる彼女を見ながら、飛翔は微かに口角を持ち上げる。だがすぐに真剣な顔つきに戻すと、彼は小さく左の拳を握った。


 色々あった初回の攻防が終了。点の取り合いとなったが、ひとまず亀ヶ崎は主導権を奪った。


See you next base……


おまけ『今日の飛翔くん Return』(全一回)


 俺は柳瀬飛翔。地元の大学に通って二年目の男子学生だ。

 大学生といえばやはりクラシック音楽(※個人の見解です)。寝る支度を整え、俺は布団で横になりながら、今日も往年の名曲を拝聴する。


「ん? メッセか」


 妹の真裕からメッセージが送られてくる。今彼女は女子野球部の大会に出場中で、兵庫に遠征している。今日の試合に勝ち、準決勝への進出を決めたそうだ。


「はあ? 次の試合に来ないか?」


 メッセージの内容は、次の試合に応援に来ないかという誘いだった。


「いやいや、何で俺が行かなきゃいけねえんだよ」


 俺は適当に返信を送り、スマホを閉じる。県内ならいざ知らず、どうして大して可愛げも無い妹のためだけに兵庫まで観戦に行かなければならないのか。時間もかなり掛かるし、交通費だって馬鹿にならない。大学生は時間もお金もやりくりが大変なのだ。


……。


……。


……一応、調べるだけ調べてみるか。




――こうして飛翔は真裕の応援に行くことになりました。


『今日の飛翔くん Return』終。(……皆の声が無くても復活するよ)


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