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ベース⚾ガール!  作者: ドラらん
第九章 想いを繋いで
114/181

112th BASE

お読みいただきありがとうございます。


野球において歓声があるのと無いのではプレーする時の心持ちが本当に違いますね。

亀ヶ崎の選手たちも、この試合ではそうしたことを感じながらプレーしていると思います。

《三番センター、糸地さん》


「晴香、頑張れー!」


 一塁側スタンドから大歓声を浴び、晴香が打席に入る。いつもと変わらない精悍な目つきをして打撃姿勢を取る彼女に、応援席にいたクラスメイトの女子たちは無意識に見惚れてしまう。


「やっぱりかっこいいな、糸地さん」

「ほんとだよね。制服も良いけど、ユニフォームだと一層魅力的になってる」


 晴香はクラス委員長を務めるなど校内でもリーダーシップを発揮しており、野球部以外の生徒からも人気がある。今年のバレンタインの際には、何人もの同性からチョコレートを貰っていた。


(今日は私の友達も来てる。こういう雰囲気の中で野球ができるのはとてもありがたいことね。態々足を運んでくれた人のためにも、まずはこのチャンスをものにする)


 初球、奥州バッテリーは内角のスライダーから入ってくる。晴香はバットを微妙に動かすが、狙っていた球ではないのでスイングはしない。判定はストライク。ただ晴香の醸し出す威圧感に、西村は見るからに委縮していた。


(よーいドンでピンチ背負った上にバッターが糸地(この人)。最悪だよ……)


 早くも精神的に大きな負担が掛かっている西村。こんな状態で、晴香に立ち向かうのは非常に酷である。


 迎えた二球目。内角低めへのストレート。コースは悪くないが、如何せんボールに勢いが無い。晴香はフルスイングで捉えた。


「おお!」


 引っ張った打球は、あっという間にサードの棚橋たなはしの左を通過。レフト線際に弾み、フェンスまで到達する。


「うおっし! 一点目」


 二塁ランナーの光毅は楽々ホームイン。風も三塁ベースを回る。


「二人目来た! 急いで返して!」


 レフトの中村なかむらから中継を介し、ボールがバックホームされる。しかしそれよりも前に、風は本塁へと駆け込む。


「やったー! ナイバッチ晴香!」


 二点タイムリーツーベース。応援席では得点時の演奏が愉快に響く。亀ヶ崎は首尾良く先制パンチを食らわせることに成功した。


 この後の玲雄にもタイムリーが飛び出し、その差を三点として初回の攻撃を終える。


 そして一回裏、真裕が先発のマウンドへと上がる。


(凄い。三点も取ってくれるなんて。私も頑張らなきゃ)


 プレートの横に置かれたボールを眉頭に当て、目を瞑りながら深く呼吸する。登板時のルーティーンを終えた真裕は、早速投球練習を始める。


「ナイスボール」


 真裕の右腕から放たれた白球が、優築のミットから快い音を引き出す。快投を予感させる投げっぷりである。


《一回裏、奥州大付属高校の攻撃は、一番サード、棚橋さん》


 最初の相手は棚橋。俊足好打の左バッターだ。今大会もここまで高い打率を残している。


(よし、行こう。この三点を守るんだ)


 真裕は気合を入れ、棚橋と対峙する。だがその時突然、彼女に異変が起こる。


(あれ……?)


 優築の座っている位置が、物凄く遠くにあるように感じるのだ。しかも優築や棚橋の姿がどこか歪んでいるようにも見える。どれだけ力を込めて投げても、良い球が行くイメージが湧かない。


(だ、大丈夫だよ。ここまでの感触は悪くないんだ。その通りにやれば良いだけだから)


 優築からサインが出る。それに頷いた真裕はゆっくりと振りかぶり、一球目を投じる。ただそのフォームに、躍動感は無かった。


 アウトコースへのストレート。棚橋は打って出る。


「あ!」


 打球は三遊間へ。風と杏玖の間を鮮やかに破っていく。


「ナイスバッティングです」

「ありがと。まだまだこっからだよ」


 棚橋は一塁ベース上でエルボーガードを外し、コーチャーに預ける。亀ヶ崎同様、奥州も先頭打者が出塁する。


(そんなに球の威力は感じなかったな。それなりの投手らしいけど、所詮一年生ってところなのか)


《二番セカンド、織田さん》


 打席に二番の織田が入る。ここでも、真裕の異変は収まらない。まだ一球しか投げていないのに息遣いは荒く、胸の詰まったような感覚が走っていた。


「はあ……はあ……」


 織田への初球、ストレートがワンバウンドする。優築はボールをレガースに当てて手前に弾いた。ランナーの棚橋は、一旦走りかけて止まる。


「すみません」

「気にしないで。楽にいきましょう」


 優築は肩を解す仕草をし、真裕にリラックスを促す。しかし今の真裕は、その程度で立ち直れる状態ではなかった。


「ボール。フォア」


 この後も三球続けてストライクは入らず、織田にはストレートの四球を与える。


(くっ、何で……) 


 四球目がボールとなった瞬間、真裕は思わず空を見上げる。精一杯投げているつもりなのに、指先に力が伝わっていかない。自分自身でもどうしてそうなるのか分からなかった。


《三番センター、原田はらださん》


 ノーアウトランナー一、二塁。一回表と全く同じ形でクリーンナップへと入っていく。亀ヶ崎はここから三点を取ったが、奥州の方はどうなるか。


(落ち着け。点はまだ取られてない。とにかくストライクを投げなきゃ)


 右打席でバットを構える原田に、真裕は一球目を投じる。ストライクゾーンには来たが、コースが甘い。原田は腰の入ったスイング打ち返す。


「レ、レフト!」


 レフトへ飛んだ打球は、玲雄の前でワンバウンド。ヒットとなった。


「棚、ホーム行けるよ!」


 棚橋は三塁を回る。玲雄は素早く中継に返球するも、バックホームはされない。奥州が一点を返す。


「ナイスバッティング、ナイスランです」


 ホームインした棚橋を、ベンチにいたメンバーが出迎える。その中には舞泉の姿もあった。舞泉は棚橋とハイタッチを交わすと、本塁のカバーに入っていた真裕に目を向ける。


(案外簡単に点が入っちゃった。真裕ちゃんならもう少しできるかと期待してたんだけど、私の目が間違ってたのかな。残念だなあ)


 訳の分からない内に点を取られ、未だに一死も取れない真裕。出端から試練が訪れた。


 そんな中、球場の外に、一人の男が現れた。



See you next base……





PLAYERFILE.42:小山(こやま)舞泉(まみ)

学年:高校一年生

誕生日:7/5

投/打:右/左

守備位置:投手、外野手

身長/体重:169/62

好きな食べ物:クレープ(ダブルショコラチョコレート)

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