表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ベース⚾ガール!  作者: ドラらん
第八章 控えの意地
112/181

110th BASE

お読みいただきありがとうございます。


次回から準決勝突入です!

ライバルとの対戦とあって、これまでより一層ボリューミーに展開していきます!

「ただいま」

「あ、おかえり」


 私たちは自分の部屋に戻ってくる。紗愛蘭ちゃんと祥ちゃんは既に就寝準備に取り掛かっていた。テレビの上に置いてあるデジタル時計は十一時前を示しており、寝床に就くにはそろそろといった頃合いだ。


「そういえば、お母さんたちにまだ今日の連絡してなかったっけ」


 私はポケットからスマホを取り出し、家族のトークルームを開く。ちょうど一時間ほど前に、お母さんが試合結果を聞いてきていた。


「《勝ったよ! しかも次の試合は先発を任されることになった》っと」


 私はメッセージを送信する。ただこの時間だと、もう皆寝てしまっているかもしれない。

 ところがすぐに返信は返ってくる。送り主はお兄ちゃんだった。


《お疲れ。先発頑張れよ》


 短い言葉。しかも家族のトークルームを避け、個人で送ってくるところがまたお兄ちゃんらしい。

 私は布団に寝そべり、返事を打とうとする。そこで、ふと思うことがあった。


 もしもお兄ちゃんを誘ったら、応援に来てくれるだろうか。一応大学は夏休み期間で講義も無いため、来られないということはないと思う。


 実を言うと、準決勝で先発することにちょっぴり不安が募っている。もちろんマウンドに上がればそんなことは言っていられないのは分かっている。けれどもやっぱり、できることなら傍に心の拠り所があると嬉しい。お兄ちゃんが観に来てくれれば、今抱いている不安を少しは和らげられる気がする。


《明後日って何か予定ある? 良かったら試合観に来てよ》


 私は一旦文章を全て消し、再度打ち直してメッセージを送信する。暫くして返事が来た。


《え? 本気で言ってんの?》

《うん、本気》

《兵庫でやってんだろ。遠いじゃん》

《それは分かってる。でもお願い(≧◇≦) 可愛い妹のためだと思って》

《自分で可愛いとか言うなよ。バカじゃねえの》

「うう……」


 お兄ちゃんから手厳しい言葉が送られてくる。この感じだと来てくれるのは難しいか。そんな風に思いながら画面を眺めていると、もう一通お兄ちゃんからメッセージが届く。


《ま、考えておくわ》


 何とも希望の薄い返答である。しかし行けないとは言ってこないので、予定は空いているということだ。可能性はゼロではない。前向きに捉えておこう。


《ほんと? じゃあ期待して待ってるね。妹の快投をとくとご覧に入れるが良い》


 私は念を押しておく。お兄ちゃんは「はいはい」とだけ残し、それ以上の返信は送られてこなかった。私は静かにスマホを閉じると、歯を磨こうと起き上がる。


 外では分厚い雨雲が立ち込める。幸い明日は休養日なので、雨が降ってもそこまで大きな問題は無い。けれども空の真っ黒さは、今後激しさを増すであろう混戦模様を、暗示しているかのようだった。




 翌日。私たちはこれまで同様、近くのグラウンドで調整を行った。ただ天気は生憎あいにくの雨。加えて葛葉さんを始め、昨日の一戦での消耗が激しい人たちも多く、全体練習の量は最低限に抑えられた。


「ラスト、ストレート」


 練習終了後、私は明日の先発に向けてブルペンに入った。菜々花ちゃんに捕手を務めてもらい、三〇球ほど投げ込む。


「お疲れ。付き合ってくれてありがとね」

「明日の先発投手のお願いですから。これくらいお安い御用だよ。今日も良い球投げてたし、これなら明日も安心だね」

「そうかな……。まあとりあえず精一杯頑張るよ」


 私は照れ笑いを浮かべる。いよいよ明日、私はこの夏の大会で初の先発登板を担う。舞台は準決勝。相手は舞泉ちゃんのいる奥州大付属高校だ。


 思えば大会前日、私はこの場所で舞泉ちゃんと出会った。私が投球練習を行っている最中、突然舞泉ちゃんが話しかけてきたのだ。

 その時は「良い球を投げている」と声を掛けられたが、「これくらいなら打てる」とも言われた。初対面の人に向かって失礼極まりない言い草である。正直最初は私も、何を生意気なこと言っているのだと思う部分はあった。


 けれども実際にプレーしているところを見て、そんな気持ちは一瞬にして消え去った。舞泉ちゃんは紛れもなく、私とは比べ物にならないほどに高い才能と実力を兼ね備えている。そしてその力を自認し、夏の大会で思う存分発揮している。彼女がみなぎらせている過剰なまでの自信は、決して虚勢ではない。


「……真裕、どうかした?」

「え? あ、ごめんごめん。ちょっと考え事してた」


 いけない。私としたことが、つい物思いにふけってしまった。


「何か心配事? 聞こうか?」

「いや大丈夫。割とどうでもいいことだし」


 私はそう言って、菜々花ちゃんに持っていたボールを渡す。菜々花ちゃんは深く追求することはしなかった。


 割とどうでもいいこと。これは半分嘘で、半分本当だ。


 舞泉ちゃんたちが手強いことは間違いない。きっと苦戦することになるだろう。だけど、それは私たちにはどうしようもできない。優勝するためには、どんなに強い相手でも倒さなければならない。相手選手の巧さとか凄さとかを話していてもきりがないのだ。だから私がやることはただ一つ。一点でも少なく、一人でも多く抑えること。それだけだ。


「じゃあさっと整備して戻ろっか。長居ながいして風邪ひいたら最悪だし」

「そうだね」


 私たちは足早に引き揚げる。ブルペンの隅では、少し気の早いススキの花がひっそりとその身を濡らしていた。




 その夜、私は夢を見た。私はマウンドに登っていて、左打席にバッターが入っていた。しかし何故か一球も投げなかった。それなのにとても清々しくて、爽快な気分だった。


「んん……」


 疾走感のある曲に導かれ、私は目を覚ます。決戦の朝が、やってきた――。



See you next base……





★真裕の目覚めの曲


スギパブリック『疾風迅雷』


テクノ調でコミカルな雰囲気の中に、スピード感溢れるリズムが特徴的。聞いている人の背中を押すような歌詞も多く、気分を高揚させるには持ってこい。スポーツチャンネルの野球中継のテーマソングにも使用されている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=825156320&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ