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ベース⚾ガール!  作者: ドラらん
第八章 控えの意地
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109th BASE

お読みいただきありがとうございます。


今回は少しふざけます。

ご容赦ください(笑)

 夜になった。夕食後、外で少し体を動かした私は、大浴場で京子ちゃんたちと入浴を済ませた。


「はあ、気持ち良かった。やっぱり大きなお風呂は良いね」

「激しく同意。てかウチ、久しぶりに登場した気がする。一応主要人物のはずなのに」

「何言ってるの?」

「気にしないで。哀れな乙女の戯言だから」

「お、おう。了解」


 私たちは大浴場から自分の部屋へと向かう。その途中、先輩たちが何やら数人で集まっているのを見つける。そこにいたのは光毅さん、葛葉さん、杏玖さん、玲雄さんの四人。奥にある縁側の方を見つめていた。


「葛葉さん、どうしたんですか?」

「お、真裕か。なあなあ、あれ見てみなよ」

「あれ?」


 葛葉さんが指さした先には、縁側に並んで座る木場監督と森繁先生の姿がある。二人の手元には、缶ビールと封の開いたおつまみが適当に並んでいる。


「へえ。あの二人もお酒飲むんですね」

「そこかよ。他にもっと気にするところあるでしょ」


 葛葉さんは肩透かしを食ったように首を傾げる。


「どこですか?」

「これだよ、これこれ」


 葛葉さんは小指を立ててみせる。言いたいことは何となく分かった。


「前々から噂はあったんだよ。あの二人は歳も近いし。確か森繁先生の方が一個上だったかな。私たちの前でも仲良さそうによく話してる。しかもここに来て、こんな時間に二人っきりで飲んでるんだよ。怪しくない?」

「そうでしょうか。別にあれくらい普通じゃないですかね」

「そうかそうか。お前はそう考えるか。まあ良いさ。飲み始めて結構経つし、今にもどっちかの酔いが回って、決定的瞬間が見れるかもしれないぞ」

「は、はあ……」


 葛葉さんはにやつきながら二人に期待の眼差しを向ける。とても今日の試合で熱投を見せた人とは思えない。ていうか、いつの間にか京子ちゃんも興味津々になっているし。


「ちょっと貴方たち、何やってるの? そんなところに固まっていたら、他の人の邪魔になるでしょ」


 不意に後ろから私たちを注意する声が聞こえてくる。振り返ってみると、そこには浴衣姿をした晴香さんがいた。ユニフォーム姿の時とは異なり、長く下ろした黒髪が非常に妖艶な印象を与える。ただ目つきの鋭さは変わらず、こうして対峙するとどうしても体がすくんでしまう。


「ふおお、やっぱ良いスタイルしてますなあ。どうやったらウチも手に入れられるんだろ」

「京子ちゃん、こんな時に何言ってんの」


 京子ちゃんの言いたいことも分からないでもない。しかしこの状況で最初に出る言葉として適切なのかは、甚だ疑問である。


「ま、待ってくれ晴香。私たちはただちょっとした観察をしてただけなんだよ」


 晴香さんの登場にたじろぐ葛葉さん。さっきまでの浮かれた気分は一体どこへ飛んでいったのやら。


「観察?」

「そうそう、観察。晴香も一回見てみなよ」

「はあ……。どうせくだらないことでしょ」


 晴香さんは一つ溜息をつき、仕方なさそうに縁側に目をやる。だが次の瞬間、晴香さんの表情が一変する。


「なっ⁉ あれはどういうこと⁉」


 晴香さんはこれまで私たちに見せたことないほど動揺した様子で、葛葉さんに詰め寄る。


「み、見ての通りだよ。なんか良い雰囲気じゃない?」


 まさかの晴香さんの反応に葛葉さんは困惑する。私もこれは予測できなかった。まあ晴香さんも女子高生なわけだし、こういうことに興味があっても不思議ではないが。


「そんな、あの二人が……」

「おい、何か見つめ合ってるぞ」

「え?」


 私たちは一斉に監督と森繁先生の動向を覗う。確かに二人の顔は向かい合い、その距離も心なしか接近している。


「おいおい、これまじであるんじゃない?」


 全員息を凝らす。私の心臓も騒がしくなってきた。


 その時だった。突然、光毅さんのポケットから振動音が鳴る。


「もう、何だよこんな時に」


 どうやら着信が入ったらしい。光毅さんは渋々スマホを取り出し、電話に出る。


「もしもし。今? 大丈夫だよ」


 私たちから少し離れて通話する光毅さん。彼氏さんからだろうか。私たちは引き続き、監督と森繁先生の行く末を見守る。


「……それほんと⁉ よっしゃ!」


 いきなり光毅さんが歓喜する。その声は私たちの背中を突き刺し、全員が体を震わせる。


「光毅、声が大きい」

「あ、ごめんごめん」


 光毅さんは口パクで謝る。幸い、監督たちには気づかれていないみたいだ。


「うん、会場はそこで合ってる。試合は十時からね。じゃあよろしくお願いします」


 光毅さんが電話を終え、私たちの元に戻ってくる。


「進捗はどう?」

「変わらずです。もう何も無いんじゃないですか?」

「何だよ、つまらんなあ」

「そういや、さっきめっちゃ嬉しがってたけど、何かあったの?」


 玲雄さんが電話の内容について尋ねる。すると光毅さんは大きく目を見開き、嬉しそうに答える。


「ああ、そうそう。次の準決勝さ、吹奏楽部が応援に来てくれるって」

「おお! マジ⁉」


 皆が光毅さんに注目する。光毅さんは誇らしげに親指を立てた。


「うん。クラスメイトの子に前々から頼んでたんだけど、男子野球部が負けちゃったから、来てもらえることになった」

「ナイス光毅! ふふっ、今から超わくわくしてきたわ」


 玲雄さんたちは声を弾ませる。野球の試合において、吹奏楽部の応援は大きな力となる。私も一度で良いから、迫力ある演奏が流れる中で試合をしたいと思っていた。悲願の優勝に向け、この上ない援軍である。


「おうお前ら、こんなところに集まって何やってんだよ」

「え? あ……」


 喜びも束の間、監督が声を掛けてきたのだ。私を含めその場にいた皆が顔を硬直させる。慌てて杏玖さんが機転を利かせ、適当に誤魔化す。


「じ、準決勝から吹奏楽部が応援に来ることが決まったらしくて、そのことで喜んでただけです」

「ほーん。そりゃ良かったじゃねえか」


 監督の隣に森繁先生の姿は見当たらない。自分の部屋へと戻ったのかもしれない。結局のところ、二人の間には何も無いのだろうか。流石に直接問いただすなんてことは……。


「あ、あの監督……、森繁先生と何してたんですか⁉」

「へ……?」


 私の予想に反し、誰かがど直球の質問を投げ込む。なんとも恐れ知らずのその人とは、意外や意外、晴香さんである。


「何って、軽く話してただけだよ。森繁先生に酒を飲む相手がいないって呼び出されたんだ」

「ほ、本当ですか?」


 晴香さんは監督に訝しげな視線を向ける。恥ずかしさからか、頬が若干赤らんでいる。


「ははは、安心しろ。お前らが期待してるようなことはしてねえよ」


 監督は朗らかに笑う。まずまずアルコールが回っているようで、私のお父さんやお母さんの酔っぱらった時に似ている。大人の人はお酒を飲むと、大体こんな感じになるのだろうか。


「でもそんなことよりお前らさ、覗きをするならもっと気配を消す術を身に着けた方が良いぞ。野球にも役立つしな」

「げっ、気付いてたんですか……?」

「当たり前だろ。まだまだ修行が足りねえなあ。あ、森繁先生はかなりお冠だったから、お前ら覚悟しておいた方が良いぞ」

「え、嘘でしょ……」

「それじゃ、明日も練習があるんだし早く寝ろよ。へっへっへ」

「は、はーい……」


 監督はそう言い残し、部屋へと帰っていく。私たちは揃って青ざめた顔をする。


 二人の真相は不明のまま。しかも骨折り損で終わるだけでなく、森繁先生の怒りを買うという災いも呼び込んでしまったのだった。翌日こっぴどく叱られたことは、触れないでいただきたい。


「とほほ……」


 準決勝進出を決めた夜の、とんだ茶番の一幕であった。


See you next base……


……因みに、和は酔うとちょっとめんどくさい。


「なあ木場君」

「なんすか?」

「この前彼氏と江の島デートしてきたんだ」

「へえ、羨ましいっすね」

「そうか? やっぱりそう思うか? えへへ、それでだなあ……」


隆浯はたっぷりと和の惚気話に付き合わされていました。

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