表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ベース⚾ガール!  作者: ドラらん
第八章 控えの意地
107/181

105th BASE

お読みいただきありがとうございます。


自宅の改装工事が終わりました。

 小藪が打席に入り、試合が再開する。今日の彼女は三打数二安打と調子が良い。前の打席でもタイムリーを放っている。


(背の高い人だけど、バットコントロールは非常に巧い。それを逆手に取ってゴロを打たせられたら最高だけど、そんな甘い考えは捨てる。葛葉さん、初球は膝元の厳しいところから入りましょう)

(了解)


 葛葉が一球目を投じる。内角低めの直球に対し、小藪はバットを出してきた。芯で捉えた当たりは、痛烈なライナーとなる。


「セ、セカン!」


 打球はセカンドの頭上へ。光毅は目一杯の背伸びをしながらジャンプする。


(守るって言った以上は、これくらい捕ってやんないと!)


 光毅が打球をグラブに収める。だが勢いを消しきれず、ボールはグラブを押し切って彼女の後方に零れ落ちる。

 ショートの風がカバーするも、ランナーはそれぞれ進塁。内場はホームを駆け抜け、花月に一点が入る。


「くっそ!」


 光毅は思い切り地面を叩いて悔しがる。絶対に捕りたかった。ほとんど捕りかけていた。でも捕りきれなかった。そんな自分への怒りが表れていた。


 ただ光毅が止めていなければ、打球は右中間を抜けていたかもしれない。そうなれば同点に追い付かれた上、サヨナラのランナーを得点圏に進めていた。そう考えると、このプレーの持つ意味は大きい。


「ごめん、捕ってりゃアウトなのに」

「いやいや、ナイスストップだったよ。サンキュ」


 葛葉は光毅に感謝する。けれども楽観視してばかりはいられない。一点差に詰め寄られ、ランナー一、二塁とピンチは続く。ワンヒットで同点というところまで来た。


《五番レフト、吉田さん》


 バッターは五番の吉田。打席に立ち、入念に足場を均す。その間に葛葉もロジンバックを手に取り、指先の感覚を整える。


(三連打された。去年と一緒だ。だけど寸でのところで光毅が助けてくれた。私にはまだ、リベンジのチャンスが残ってる)


 葛葉の心は折れない。一年前の悔しさを晴らすには、ここで抑える以外に方法は無い。過去の自分を越えるべく、葛葉は前を向き、吉田への初球を投じる。


 外角高めのストレート。吉田は打ちにいくも振り遅れ、ライトのファールゾーンに高々とフライを上げる。打球はフェンスに当たりそうだ。


(ちっ、差し込まれた。これでワンストライク……ん?)


 打った吉田を含め、ほとんどの人間がファールになるという思いで眺めていた。ところがライトの洋子は諦めておらず、全速力で打球を追っていく。


「オーライ!」

(嘘? 捕れるの?)


 ボールが落ちてきた。洋子は走った勢いを利用しながら、左腕を伸ばして飛び上がる。


(私の役目は打って終わりじゃない。守備でもチームを救うんだ!)


 洋子の体がフェンスに激突する。彼女は尻餅をついて崩れ落ちたが、グラブの中には、しっかりと白球が入っている。


「ア、アウト」

「ゴー!」


 すかさず二塁ランナーの辻本がタッチアップ。洋子は急いで立ち上がり中継に返球したが、三塁は間に合わなかった。

 しかし亀ヶ崎ナインだけでなく、場内全体からも洋子に称賛の拍手が送られる。大事な場面で飛び出した執念のファインプレー。洋子はとてつもない価値のあるアウトをぎ取ったのだ。


「大丈夫? 怪我は無い?」

「ええ。ちょっと背中を打っただけです」


 駆け寄ってきた晴香に、洋子は平気そうな顔で答える。彼女はうっすらと笑みを溢しながらベンチの方を向き、無事であることを伝える。


「ナイスファイト。素晴らしかったわ」

「ありがとうございます」


 晴香が差し出してきたグラブに、洋子は自分のグラブを重ねてタッチを交わす。これでツーアウト。勝利の二文字がはっきりと見えてきた。


(ナイス洋子。今日のあんたには、どれだけ頭下げても足りないね)


 五回途中からここまで、葛葉は懸命に投げ抜いた。バックも彼女を盛り立てた。そうして、あとアウト一つのところまで漕ぎ着けた。


《六番ショート、須知さん》


 だがまだ安心はできない。ランナーは三塁まで進み、本日二度目の対戦となる須知を迎える。もうヒットだけではなく、エラー、ワイルドピッチなども許されない。


(ワイルドピッチでも同点か。去年の二の舞とか洒落にならないからな)


 そう、去年の葛葉は、ワイルドピッチで負けた。その感覚は無意識の内に、彼女の指先に呼び起こされる。


 初球、葛葉はアウトコースにストレートを投げる。須知はバットを動かしかけたが、遠いと判断して見送る。


「ボール」

(最初に見た時よりも球は遅くなっとる。元々そんなにイニングを投げる投手じゃないっぽいし、疲れが出てきとるんかな)


 打者も葛葉の球威の衰えを感じ取れるようになっている。仲間に力を貰ってきたとはいえ、葛葉の体はパンク寸前。流石に誤魔化しきれなくなってきた。


(ここは焦って力勝負はせず、かわしていきましょう。葛葉さんの変化球なら、十分抑えられます)

(ここでフォークか……。分かったよ)


 優築のサインに、葛葉は内心戸惑いながら頷く。セットポジションに入った彼女は小さく息を吐き、それから足を上げて二球目を投じる。


「あ……」


 低めを狙ったはずが、腕を振りきれず高めへの抜け球になってしまった。須知は待っていましたと言わんばかりに思い切り引っ張る。


「サード!」


 鋭い当たりが三塁線を襲う。杏玖が飛びつくも及ばず、打球はレフトへと抜けていった。



See you next base……




WORDFILE.41:ファールフライ


 ファールフライは漢字で「邪飛じゃひ」と表記される。これは「正しくない方向に逸れる」という意味を持つ英語のfoulが由来で、それを日本語で「よこしま」と訳したからだとされている。

 因みにファールフライでもタッチアップが可能。三塁にランナーがいる時は得点を防ぐため、態とキャッチしない選択をすることもある。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=825156320&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ