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ベース⚾ガール!  作者: ドラらん
第八章 控えの意地
105/181

103th BASE

お読みいただきありがとうございます。


今回は「洋子△!」なお話です(……伝われ!)

 ワンボールツーストライクからの四球目。外角に意識を置いていた洋子の逆を突き、島田はインコースへストレートを投げ込んできた。洋子はバットを出せず、ボールがミットに収まるのを見届けてしまう。


「ボール!」


 ストライクと言われてもおかしくないコースだった。だが球審の下したジャッジはボール。洋子は九死に一生を得る。ベンチで見ていた亀ヶ崎ナインは、一斉に安堵の溜息を漏らした。


「オッケーオッケー。ナイスボールだったよ。もう一丁行ったろ」


 島田が返球を受け取りながら、川端の言葉に頷く。登板直後の硬さは抜け、その表情の中には活力がみなぎっている。


(随分と自信のある顔をしてるわね。それだけ手応えを感じてるってことか。だったらこっちも、中途半端なことはやってられない)


 洋子は一旦両手のバッティンググラブを外し、手に付着した汗を拭う。態勢を整え、再び打席に入った。


(バッテリーの雰囲気的に、もう一球内角を使ってくる可能性も捨てきれない。けど私は自分の感性を貫く。狙うのはアウトコース。反対に来たらごめんなさいだ)


 島田がセットポジションに入る。すると川端は洋子の方に寄っていく。サインはまたもやインコースへのストレート。島田は二回ほど二塁ランナーの葛葉を目で牽制し、洋子への五球目を投じる。


「あっ……」


 ボールが放たれた瞬間、一人の選手がしまったという声を発する。その主は、島田だった。痛恨のコントロールミス。そして、白球は洋子の待っていたアウトコースに向かう。


(よし、行け!)


 洋子はコンパクトなスイングでボールを捉えた。痛烈なゴロがセンター方向に転がる。セカンドの内場が飛びつくも捕れず、打球は外野へと抜けていく。


「ゴー! 葛葉ゴー!」


 葛葉は三塁を蹴った。センターの森田からの送球はワンバウンドで川端の元へ。ホームはクロスプレーとなる。

 外側から滑り込んだ葛葉が、左手でベースタッチにいく。川端はその手首にミットの先で触れる。


「セーフ! セーフ!」


 ほんの僅かに葛葉の手の方が早かった。亀ヶ崎に勝ち越し点が入る。打った洋子もこの間に二塁まで進んだ。


「やったー! 勝ち越しー!」

「いよっし!」


 洋子が両拳を掲げる。普段はクールな彼女も、この時ばかりは感情を露わにする。


 最後まで狙い球を変えず、覚悟を持って己の読みを信じ抜いた。それが相手の失投を呼び込み、洋子は見事に打ち返した。まさに気持ちで放ったタイムリーである。


「はあ……はあ……。良かった……」


 洋子は震えの止まらない自分の掌を見つめる。収まらぬ興奮。彼女は今、代打として極上の一時を味わっていた。


(この一打席のためだけに準備してきた。だからこそ、このたった一本のヒットがこんなにも嬉しい。こういうのも悪くないかな)


 一年間守ってきたレギュラーは奪われてしまった。それでも洋子は腐らず、自らの出番に備えた。その結果、この大事な大事な場面での大きな成果に繋がった。たとえレギュラーで無くても、辛抱強く努力を続けていれば輝けるチャンスはやってくるのである。


 これで亀ヶ崎は一歩前に出た。けれどもまだ一点差。チャンスは続いているので、できればもう少し引き離しておきたい。


《一番セカンド、戸鞠さん》


 打順はトップに返り、光毅が打席に立つ。亀ヶ崎打線も三回り目に入る。


(サードは盗塁に備えてベースに付いてる。点を取られて相手も警戒が緩んでると思うし、仕掛けてみるか)


 内野手の位置をチェックする光毅。その初球、彼女は三塁側へ強めのバントを試みる。


「え? 嘘やろ」


 サードの酒井は出だしが遅れた。代わりに島田が捕りにいくも、窮屈な体勢での一塁送球となり、ボールは狙った位置から逸れてしまう。ファーストの小藪はベースから離れて捕らざるを得ない。


「おっしゃ。狙い通り」


 記録はピッチャーへの内野安打。光毅の意表を突いた作戦で、ランナー一、三塁とチャンスを広げる。


《二番ショート、城下さん》


 バッターは二番の風。この場面で芸達者な彼女を迎え、亀ヶ崎としては非常に幸運な巡りとなる。


(ここはヒットを打てなくても洋子を還せれば良い。私はアウトになっても構わない。どんな形でも一点を取る)


 初球、花月バッテリーは大きく外す。出方を覗ったようだ。


 次の一球の前に、風は隆浯からのサインを確認する。如何にして得点の確率を上げるか、監督の手腕が試される。


(風だからスクイズもありだが、向こうはバックホーム体制を敷いてきてる。ここは打たせてみよう)


 隆浯の選択は強打だ。二球目、島田の投じたストレートは内角のそれほど厳しくないコースに行く。果敢に打って出た風は、三遊間へ弾き返す。


「ショート!」


 やや詰まった打球が、サードの右を越えていく。その後ろでショートの須知がカバーに入る。


「ホーム無理!」


 三塁ランナーの洋子は転がった瞬間にスタートを切っており、須知が捕球した時点でホームの手前まで来ていた。須知は為す術無く一塁でアウトを取るしかない。


 亀ヶ崎に五点目が入った。その差は二点と広がる。生還した洋子が、ベンチの仲間たちとタッチを交わして喜びを分かち合う。その最後尾には葛葉の姿もあった。


「ナイスバッティングだったよ。最高!」

「ありがとうございます。葛葉さんもナイスランでした」

「えへへ。久しぶりにこんなに走ったわ」


 葛葉は両頬にえくぼを作って笑ってみせる。洋子もそれに釣られて微笑み返す。苦労を重ねた二人の力で取った勝ち越し点。喜びも一入ひとしおだ。


 しかしこの時、葛葉の体には異変が起こっていた。



See you next base……


PLAYERFILE.41:須知すち裕子(ひろこ)

学年:高校三年生

誕生日:1/26

投/打:右/右

守備位置:遊撃手

身長/体重:155/53

好きな食べ物:はちみつトースト


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