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ベース⚾ガール!  作者: ドラらん
第八章 控えの意地
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100th BASE

お読みいただきありがとうございます。


ついに100話まで来ました!

これまで以上に熱い戦いをお届けできるように頑張りたいと思います!

《六回の表、亀ヶ崎高校の攻撃は、二番ショート、城下さん》


 この回の先頭バッター、風が打席に入る。一点でも返すため、兎にも角にも出塁したい。

 初球、インコースにシュートが来る。風は打たずに見送ったが、球審はストライクをコールする。


(六回に入ってもボールの力はそこまで衰えていない。それと何よりも、一球目にしっかりとストライクを入れてくる。待球はあまり意味が無い。打っていこう)


 二球目、辻本は再びインコースを攻めてくる。しかし今度は反対方向に曲がるスライダー。バットを出した風だが体を前に出され、引っ掛けた当たりが三塁側ファールゾーンを転々とする。

 これで風はストライクを二つ取られて追い込まれる。未だにタイミングは掴めていない。


(一気にフォークで決めてくるのかな? ファールで逃げられたら良いんだけど……)


 三球目、そのフォークが来た。見逃せばボールだが、投げた直後はど真ん中を通っており、風の体は咄嗟に反応してしまう。


(くっ、追い切れない)


 ボールがバットの下を潜る。空振り三振。


 ……のはずだった。


「風、走って!」

「え?」


 ネクストバッターズサークルにいた晴香が声を上げる。なんとキャッチャーの川端がショートバウンドを合わせきれず、ボールを後逸していたのだ。

 風は慌てて駆け出す。ボールを拾った川端が一塁へ送球するも、それよりも早く風はベースを駆け抜ける。


「ラッキー。儲けたよ」

「晴香さん、続いてください!」


 振り逃げという予期せぬ形だったが、ノーアウトでランナーが出た。亀ヶ崎ベンチのムードも急上昇する。


「ごめん、せっかく三振取ったのに」

「気にせんでええ。こっちから見てても明らかに変な跳ね方しとったし、運が悪かったとしか言えん。それよりこのバッター抑えることに集中しよ。亀ヶ崎の中で一番警戒しないかん選手やしな」

「うん、分かった」


 辻本が川端を宥める。点差は二点。それに打たれたわけではない。花月バッテリーには、まだ少し余裕があった。


《三番センター、糸地さん》

「よろしくお願いします」


 晴香が球審に一礼をし、構えに入る。このケースなら送りバントも有りだが、隆浯は腕組みをしたまま動かない。


(サインは無し。打って繋げということね。今の振り逃げで、私たちの方に流れが傾いてくるかもしれない。それを手放してはいけないわ)


 一球目は外角低めのカーブ。際どいコースがストライクとなる。


(相変らず入りは変化球が多い。それだけ自信があるんでしょうし、実際良いところに投げてる。それなら次の球は……)


 二球目、胸元にシュートが来る。晴香は腕を引き、体を縮こめるようにしてかわす。


(ん? なんか今おかしかったな)


 晴香の避け方に不信感を抱く辻本。普通なら上体を逸らして避けるべきだが、晴香は腕だけしか動かしていない。そのため体に当たるか当たらないかのれのところをボールは通過していった。


(死球でも塁に出ようということやな。執念見せてきとるわ)

(けどこれでかなり踏み込み辛くなったでしょ。残像が残っている内にもう一つストライクを貰う)


 川端とのサイン交換を終え、辻本はクイックモーションで三球目を投じる。外角へのストレート。先ほどの内角攻めを利用した配球だ。

 しかし晴香は思い切り左足を踏み込み、打ちに出る。ボールを手元まで引きつけてバットに乗せ、鮮やかにライト前へと運ぶ。


「なっ⁉」


 打たれた瞬間、花月バッテリーは揃って虚をかれたという顔をする。そんな二人の様子は意に介さず、晴香は口元を引き締めて一塁へと到達する。


(私にストレートを使ってくるなら、あのカウントからが一番有効。だからその前の球で仰け反らせて、狙われても踏み込まれないようにしてきたんでしょう。でも分かっていればそんなに怖くないし、仰々しく避ける必要も無いのよ)


 晴香が二球目で不自然な避け方をした理由は、体に纏わる恐怖感を和らげるため。仰け反って避ければその感覚が残り、次の球に踏み込んでいき辛くなる。晴香はそうならないように腕だけを動かして避けたのだ。

 バッテリーの組み立ては決して悪くない。だが晴香はその中身を完璧に読み切った上で、自らが打ちやすくなるよう仕組んでいたのだった。


 これでランナーが得点圏まで進んだ。しかも亀ヶ崎は、未だにアウトを一つも取られていない。ピンチの後にチャンスあり。終盤に差し掛かり、この好機は絶対に活かさなくてはならない。


《四番レフト、宮河さん》


 打順は四番の玲雄に回る。この試合はまだ沈黙しているが、一年前の対戦では辻本からツーベースを放っている。


(別に大きいのは要らない。理想はヒットで風を還して、後ろの二年生ズに繋ぐことだ)


 初球、低めのカーブがボールになる。ここも辻本は変化球から入ってきた。


(晴香が打ったのって確か真っ直ぐだったよね。それなら真っ直ぐをストライクゾーンに投げるのは勇気がいるだろうし、カウント整えてくるのは変化球じゃないかな。アウトコースへのスライダーみたいな感じで)


 晴香の一打を踏まえ、相手の思考を分析する玲雄。そして彼女の推測は当たる。二球目、外から入ってくるスライダーが来た。


(少し遠いけど、これなら拾える)


 玲雄はやや強引に打ち返す。しかし打球はショートの頭上を緩やかに越え、その後方で弾む。


「回れ回れ! 晴香もこっちまで来れる!」


 花月の外野は下がり目に守っていたことで、ボールに追い付くのが遅れる。それを見ていた三塁コーチャーの指示に従い、まずは風がホームを踏む。更に晴香も二塁を蹴って三塁に駆け込む。 


「よっしゃ!」


 思い描いた通りの形に持っていくことができ、玲雄は一塁ベース上で満足そうな表情を浮かべる。野球において四番と聞くとどうしても長打を求められがちだが、玲雄はそれに固執することはしない。地味な内容でも、大事な場面でしっかりと役割を果たす。それが彼女の信念である。


(さて、ここからは任せたよ。二年生ズ)


 玲雄の繋ぎは実を結ぶ。この後の打者、珠音が初球をライトへ打ち上げた。


「ゴー!」


 ライトの池野が捕球したのを確認し、晴香がタッチアップする。ボールが内野に返される間に、晴香は悠然とホームイン。これで三対三の同点となる。


 取られたら取り返す一進一退の攻防。試合は更なる混戦の様相を呈してきた。


See you next base……

WORDFILE.39:タッチアップ(タッグアップ)


 打者の飛球を野手が捕球した際、走者は一度元いた塁に戻らなければならない。その後は次の塁への進塁が可能となり、これらの行為を総称してタッチアップという。飛球が上がっている間に予め帰塁しておき、野手が捕球もしくはボールに触れた瞬間にスタートを切ることもできる。

 走者のスタートするタイミングが早すぎたり、帰塁が正しく行われなかったりした場合は、守備側がアピールすると当該走者はアウトとなる。逆に言えば、アピールが無いと走者はアウトにならず、進塁も認められる。

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