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ベース⚾ガール!  作者: ドラらん
第八章 控えの意地
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99th BASE

お読みいただきありがとうございます。


お正月休みも終わり、明日から普通の日常が始まってしまいました。

個人的には終わらせなければいけない大きなことがすぐそこまで迫ってきているので、フルスロットルで頑張ろうと思います。

《亀ヶ崎高校、シートの変更をお知らせします。ライトの踽々莉さんのところに武田さんが入り、ピッチャー。ピッチャーの天寺さんがライト。以上に代わります》


「悪い葛葉、こんな状態で渡しちゃって」

「謝らなくて良いって。こういう時に抑えるのが私の役目なんだから。それより再登板に備えて充電しておいて」

「……分かった。頼むよ」


 空が葛葉にボールを渡す。彼女の心の中は無念の気持ちで一杯だったが、それを押し殺し、柔和に微笑えんでみせる。


「空さん、どうぞ」

「お、ありがと」


 真裕から届けられた外野手用のグラブに交換し、空がライトのポジションに就く。それと入れ替わるように、紗愛蘭がベンチへと戻ってきた。その一部始終を見ながら、隆浯は眉を顰める。


(ここで紗愛蘭がいなくなるのは痛いな。その分、他の誰かに頑張ってもらうしかない)


 この場面、本来なら紗愛蘭を交代させるべきではない。二点のリードを許している展開にも関わらず、攻撃力の低下は免れないからだ。しかし残りのイニング数を考えると、控え投手を一年生の真裕一人にしておくのも良策とは言えない。こうした控え層の薄さは、亀ヶ崎の抱えている一つの弱点である。


「洋子」

「はい」

「代打の用意をしておいてくれ」

「分かりました」


 隆浯が洋子に声を掛ける。すると洋子はバットを持ち、ベンチ裏へと姿を消した。


(ここからはベンチワークが重要になる。ターニングポイントをしっかり見極めろ)


 投手交代に伴い、亀ヶ崎ベンチも慌ただしくなる。層が薄いと言っても、それを嘆いてばかりでは意味が無い。いるメンバーを上手に活用していくしかないのだ。ただしその前に、このピンチを抑えなければならない。


《六番ショート、須知すちさん》


 葛葉の投球練習が終わり、試合が再開される。打席には六番の須知。ここまでヒットは出ていない。


「ワンナウト、内野ゲッツーね」


 葛葉は一度後ろを振り返り、バックに向かって声掛けをする。そうして返ってくる仲間の声を聞いてから、バッターの須知と対峙する。


(一年越しのリベンジか……。けど今はそんなの気にしていられない。私の課せられた使命は、これ以上点を与えないこと。そのことだけを考えて投げるんだ。さあ、ここからは私のステージだよ!)


 右足でプレートを踏み、葛葉がサインを覗き込む。球種はストレート。葛葉は迷いなく頷いてセットポジションを作る。花月側のスタンド応援が力強さを増す中、彼女は須知への一球目を投げた。


「ストライク」


 細身の体をバネのように跳ね上げる独特なフォーム。そこから繰り出された伸びのある速球が、優築のミットを突き刺す。


「ナイスボールです」


 バッテリーは二球目もストレートを続ける。須知はバットに当てたが、見るからに振り遅れており、一塁側のファールゾーンに力ないゴロが転がる。


(二球で追い込めた。この勢いで一気に抑え込みましょう。あの球でお願いします)

(おっけー。ちゃんと止めろよ)


 三球目、葛葉は真ん中低めを目がけて投げ込む。ツーストライクということもあり、須知はバットを出していく。


「え⁉」


 ところがホームベースの手前でボールが仄かに揺れ始め、そのまま地面に向かって落下。これが葛葉の決め球、スプリットフィンガーファストボールだ。フォークよりも落差は少ないが、ストレートに近いスピードが出るため、バッターは見分けをつけにくい。案の定、須知もストレートと思って打ちにいっている。


「こんにゃろ」


 須知は辛うじてバットの先に引っ掛けた。高く弾んだゴロが、葛葉の左を越えようとする。


「ほっ!」


 葛葉はそれに素早く反応。ジャンプしながらグラブを伸ばし、ボールを掴む。


「ファースト!」


 けれども送球に移るには体勢が悪い。ダブルプレーにはできないと判断した優築が、一塁へ投げることを指示する。しかしここからが、葛葉が並の投手とは違うところだ。


(これくらいならゲッツー取れないと。セカンドは? ……よし、間に合う!)


 右足を軸にした軽やかな身のこなしから、葛葉は振り向き様に二塁へ投げる。鋭く精度の高いボールが、光毅の胸元へと届く。


「アウト」


 その後光毅は一塁に転送。間一髪のタイミングだったがこちらもアウトにし、併殺を完成させた。


「よっしゃあ!」


 葛葉は右手でグラブを叩き、感情を露わにする。一瞬にしてピンチの芽を摘み取った。


(嘘やろ。普通はあの体勢であんな速い球投げれんよ。どんな身体能力しとんねん)


 二塁で封殺された吉田が、半ば呆れ顔で葛葉の方を見つめる。この桁外れのフィールディングの良さこそ、葛葉の真骨頂なのである。


 元々運動神経抜群だった葛葉は、小学生の頃はサッカーやバスケットボールのクラブにも所属し、その全てでレギュラーを張るほどの実力を持っていた。しかしまだ体ができていない中で無茶な動きを繰り返したことの代償は大きく、いつしか怪我をしやすい体質となってしまった。それをきっかけに彼女はサッカーやバスケを辞め、比較的運動量の少ない野球に専念。だが他のスポーツで学んだ体の使い方は野球にも応用され、今のようにアクロバティックな動きができている。

 もしも怪我がちでなければ、野手としてもレギュラーを張り、より大きな飛躍を遂げていたのかもしれない。ただその場合、野球以外のスポーツを続けていた可能性も高いが。


「よく踏ん張った。さあ、もう一回ひっくり返そう!」

「おー!」


 逆転こそされたが、今の葛葉のプレーで光明が差した。まだ亀ヶ崎の攻撃は二イニング残っている。反撃なるか?



See you next base……


PLAYERFILE.39:小藪千聖(こやぶちさと)

学年:高校三年生

誕生日:9/11

投/打:右/右

守備位置:一塁手

身長/体重:166/60

好きな食べ物:プリン


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