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ベース⚾ガール!  作者: ドラらん
第八章 控えの意地
100/181

98th BASE

お読みいただきありがとうございます。


明けましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いいたします。

 先に一点を取った亀ヶ崎だったが、その裏にすぐさま逆転を許した。この展開に、ブルペンで戦況を見つめている葛葉は、危機感を察知する。


(こっちのミスから始まってのことだけど、こうもあっさりとひっくり返されるとはね。この回に出番があるかも)


 葛葉はいつでも交代できるように心構えをする。幾度となく経験しているので、こうした状況下でのメンタルコントロールはお手の物だ。


《四番ファースト、小藪こやぶさん》


 再びグラウンドに目を移すと、辻本を得点圏に置き、花月の主砲、小藪が打席に入ろうとしていた。亀ヶ崎のピンチは続く。


(空さんの投球は悪くなかった。まさか向こうがカーブを張っていたなんて……。でも反省は後。ここで食い止める)

(落ち着け。まだ一点差なんだし、連打されないことが大事。締めていこう)


 優築と空は気持ちを切り替え、次に向かおうとする。けれども打たれたことへの動揺はそう簡単には拭えず、双方に微妙な狂いを生じさせる。


 小藪への初球、空は直球を叩きつけ、ワンバウンドの投球になる。それを優築が捕りきれず、横に弾く。


「ランナー走った!」


 これを見て辻本はスタートを切った。優築は急いでボールを拾い上げるも、投げることができない。辻本は労せずして三塁に進む。


(ここでワイルドピッチか……。優築もよく逸らさなかったが、それ以上にランナーの反応が良かったな。ここは過ぎたことを悔やんでも仕方が無い。全員で守り抜け)


 ベンチにいた監督の隆浯が、内野に前進守備の指示を出す。厳しい状況だが、亀ヶ崎としては追加点を許したくないところだ。だがこれに対し、バッターの小藪は幾分か気持ちが楽になる。


(ほう、前進してくるんか。当然っちゃ当然やが、これで打ちやすくなったわ)


 内野手が前に出てくる守備隊形は打者にプレッシャーをかけることができるが、裏を返すとそれだけヒットゾーンが広がるということである。それをどう捉えるかは人それぞれ。少なくとも小藪の場合は、自分に都合の良い方向に考えられているみたいだ。そちらの方が結果を出しやすくなることは、言うまでもない。


 二球目、バッテリーはストレートを続けたが、これもストライクにならない。空は微妙に制球を乱し始めていた。投げた後の表情も若干だが苦しそうにしている。


「くっ……」

「空さん、大丈夫です。バンバン投げてきてください!」


 空を立て直そうと声を掛ける優築。ただ彼女の方も余裕が持てなくなってきている。


(ツーボールにはしたくなかった。歩かせるわけにもいかない。前のバッターに打たれてはいるけれど、ストライクを取るにはこれが一番良い)

(カーブか……。できれば他の球が良いな)


 優築のサインに空は首を振る。辻本に浴びたツーベースが尾を引いていた。


(そうですか。ならスライダーで行きましょう)

(……分かった)


 サインが決まる。空は一旦サードランナーを見てからセットに入る。


(投手は一個目のサインに首を振った。何か投げたくない球があるならカーブやろうな。となればストレートかスライダー。それなら絞らなくても力で持っていける)


 空が足を上げ、三球目を投げる。真ん中やや外めから内側に曲がってきたスライダーを、小藪は強引なスイングで引っ張る。


「ふんっ!」


 打球は三遊間へ。サードの杏玖、ショートの風が共に飛びついて捕ろうとする。しかし球足が速く、二人の間を綺麗に抜けていった。


「よっしゃ。もう一点追加」


 辻本がゆっくりとホームベースを踏む。これで亀ヶ崎は二点ビハインドとなる。

 ボール先行のカウントを作ってしまい、ストライクを取りにいったところを狙われる。典型的な打たれるパターンだ。


「ちっ……」


 外野から返球を、空はグラブをはたくようにして受け取る。自分で自分の首を苦しめる投球になっていることは、本人にも分かっていた。


(空は調子を崩しかけてる。前の二試合での疲れもあるだろうし、こんなこともあるのは承知の内。傷口が広がる前に、代えてやることも考えないと……)


 ベンチの隆浯はブルペンの方を見やる。既に葛葉は準備万端。いつでも登板できるようになっている。


《五番レフト、吉田よしださん》


 ただここは空が続投。もう少しだけ隆浯は様子を見ることにする。空もまだまだ、闘争心を失ってはいない。


(もう点はやらない。このバッターを捻じ伏せて、流れを引き戻すんだ)


 気持ちをリセットし、吉田への一球目を投じようとする。だがボールを離そうとした瞬間、人差指に引っ掛けてしまった。


「あ!」


 空の投げた直球は吉田の体に向かって進む。吉田は避けきれず、ボールは腰骨の上に直撃した。


「痛っ。ここで当てるんかーい!」

「ヒットバイピッチ」

「す、すみません」


 空は帽子を取って謝罪する。まさかのデッドボール。吉田は一塁へと歩き、小藪も二塁へと進塁する。


「ここまでか……。葛葉!」


 この一球で隆浯は投手交代を決断。ブルペンにいた葛葉に向かって、マウンドを指さすジェスチャーをする。


(……来た!)


 小さく頷く葛葉。彼女は胸の高鳴りを感じつつ、マウンドへと走っていく。願っていた去年の雪辱の機会が、巡ってきた。



See you next base……


PLAYERFILE.38:辻本(つじもと)茂香(もか)

学年:高校三年生

誕生日:8/6

投/打:右/左

守備位置:投手

身長/体重:161/57

好きな食べ物:カマンベールチーズ


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