乳まくら
R15かもしれません
「揉みますか?」
ずいっと胸を突き出すようにして如月が迫ってくる。
ドクドクと鼓動が異常に烈しくなる。如月は普段と変わらない声色でなにも深く考えていないのだろう。そんな平常通りの如月に反して俺は緊張で固まっていた。
如月との距離が近い。手を伸ばせばすぐ届いてしまう。ちらと視線を落とすと主張が激しすぎる胸が飛び込んでくる。吸い込まれてしまいそうだ。
毎日のように抱きつかれているので、その膨らみの感触も暖かさを知っている。
だが、まだ一度も揉んだことはない。
揉もうと思えば揉めるのだ。この世界だと男が女の胸を揉んだところで問題にはならない。わかっている。わかってはいるのだが、興味がない振りをしてずっと無視していたのだ。
よく考えてほしい。これまで一度も女子と付き合ったことない俺が気軽に女子の胸を揉めるようになるだろうか。
できるわけがない。ちょっと胸揉ませてくれない? いいよー なんて切り出せる勇気があったなら、前の世界でももっと女子と仲良くなることができただろう。
つまりヘタレである。笑いたければ笑え。でもそんなことをお願いするにはものすごい勇気と度胸が必要だということをわかってほしい。
昼休みの空き教室。いつもと変わらず如月と駄弁っていたときのことである。俺の反対に座っていた如月が、机にうつ伏すようにベターと倒れこんだのだ。
するとどうなるか。胸が机に反発するように跳ね上がる。空気の抜けたボールのように潰れたりしない。持ち上がってその存在をアピールし始める。
一流のプロ野球選手は投げられたボールがピタッと静止して見えることがあるのだという。それが今の俺にも起こっていた。まるでスローモーションカメラで写したかのように時間がゆっくりと進む。
机に押し付けられなお存在を失わない膨らみに、倒れこもうとしている如月の顔が上から押し付けられる様子が俺の瞳に映っていた。
乳まくらだ。
如月の顔が、伏せた顔が胸に乗った。
いや、待て。完全には乗っていない。乗っていないが、他に表現する言葉が見当たらない。これは乳まくらだ。
時間が正常に刻み始める。それだけ今の一瞬に俺は目を奪われていたのだろう。
どれだけでかいんだあれは。まさかセルフ枕ができるほどとは思わなかった。ぽよんぽよんと弾んでいるようにも見える。弾むわけがないのだが、俺の頭は衝撃と興奮に占領されてそんな幻像まで浮かんでしまう。
視線が離れない。ジッと血走ったような目で乳まくらを見つめていた。
ふと顔を上げた如月に困惑の表情が浮かぶ。いきなりジッと見つめられたら当然だろう。そして俺の視線が胸に向けられていたのがわかったのかこう言ったのだ。
揉みますか? と。
いいのか? いや、いいのだろう。でも待ていいのかそれで。手にした瞬間俺の心臓は止まってしまうのではないだろうか。
「せんぱいにお見せするのは恥ずかしい脂肪の塊ですけど、運動頑張ってもやせないんですよ」
それを捨てるなんてとんでもない! 永久保存して語り継ぎたいほどだ。
「スレンダーのひとがうらやましいです。わたしなんかむにむにで」
むにむに!? むにむになのか!!
立ち上がった如月が嫌そうに自分の胸を持ち上げる。
ずいと上に強調された胸から目が離せない。そして気が付いたがこいつ、お腹にはそれほど肉がついているようにはみえない。
まさかキュッと引っ込んでいるのだろうか。普段ちっこい如月のお腹は、おおきな胸で視線が遮られるためこうして眺める機会はなかったから知ることがなかったのだ。
ウェストのくびれまでわからないが、きっと素晴らしいものに違いない。魔性の魅力がそこにはある。
目が離せず思考が空回りするだけで身体が固まって動かない俺をみてか、ゆっくりとした動きで俺の手を取られた。そしてロクな抵抗をすることもなく心を落ち着かせる余裕もなく、ふにっと如月の乳に押し付けられた。
ふぉおおお! なんだこの柔らかさは! 動かした指と同じように形を変える! そして力を抜けば押し返すようにその存在をアピールするのだ!
「せんぱい? どうしたんです?」
なにも話さずただ少しでもこのラッキーを味わおうとしていた俺に戸惑いを含んだ声がかけられる。如月はなにも感じていない。その無防備な姿がまた俺に罪悪感と幸せを与えるのだ。
「あ、休憩時間終わっちゃいましたね」
無情にも予鈴が空き教室に鳴り響く。
すっと俺の手を離した如月が離れ、俺の手から触れていた暖かみが消えていく……
「ざんねんですけど帰りましょうか。遅刻しちゃこまりますし」
残念だ。本当に残念だ。許されるならもっと幸せを感じていたかった。
それに贅沢を言うようだが如月に掴まれていて緊張で固まっていたから自由に揉んだとはいいがたい。こうして下から横から正面からゆっくり激しく思う存分堪能してみたかった。
心の中でため息をつきながら立ち上がろうとして……ガンと机にぶつけてやめた。痺れるように痛みが走るのを押し隠し、うずくまるようにして俺の姿を見られないようにする。
「ど、どうしたんですかせんぱい! 体調でも悪いのですか!?」
「いや! なんでもない! なんでもないがもう少しこうしていたいから先に教室に戻っていてくれ!」
「なんでですか!? 一緒にいきましょうよ」
「だめだ! ダメなんだ今はダメだから先に行ってくれ!」
「いみがわかりませんけど!? ほらっ! いーきーまーすーよー!」
「やめっ! やめろ!」
たちあがっていた息子が頭をぶつけて泣いているのを如月に紹介するわけにはいかない。泣きながら引っ込む様子のない息子が落ち着くまで立ち上がるわけにはいかないのだ。
必死に連れ出そうとする如月と立つことができない俺の攻防が続き、その日の五時限目は二人とも遅刻した。
夜中に頭に浮かんできました。私にもこんな後輩が欲しいです()