押し掛け
学生コンパが終わった翌日。謝罪のメッセージを由愛さんに送り(既読無視されている。怒っているのだろうか)朝帰りとなったわけだが、姫ねえが俺のスマホで友達の家に泊まっていると連絡してくれていたこともあり、大した問題にもならなかった。
いつも通り平穏な日曜日。二日酔いが収まらないため自室でゴロゴロ過ごすことに決めたのだが。
「わたし、男の子の部屋に来るの初めてです」
「なんでお前が来てるんだ」
両親もどこかに出かけ、一人でのんびりしているとピンポンの強襲である。面倒ながら宅配便かなと玄関を開けると、そこ立っていたのは巨乳の女子後輩である。家を教えたことないのにどこで知ったのだろう。
「てか、なにしに来たんだよ」
「なにって、なんでしょう?」
小首傾げて不思議そうにするな! 可愛いんだから許しちゃうだろちくしょう。
四十五度の如月得意の上目遣い。どうにも俺はこれに弱い。だって潤んだ瞳で迫られて悪い気なんてするわけがないじゃないか。
身長差があるので、俺が如月を見るとどうしても首を下側に向ける必要があるのだが、そうすると視界に飛び込んでくるのは8割以上豊満な胸なんだぞ。
長いまつ毛に潤んだ瞳。小柄な可愛らしい顔とその下にはおおきなおっぱい。
もう無条件降伏である。これが世間ではデブって評価されるのだから、この世界の男はほんとに見る目がない。
「とりあえず飲み物入れてくるから、ちょっとここで待っててくれ」
「おかまいなく」
ぽすん。と俺のベッドに座り込む如月。枕を抱きしめて、すりすり顔をこすりつけ始めた。なにやってんだこいつ。
「マーキングですよ。わたしのものって証付けときませんと」
それはお前のではない。首根っこ掴んで引き離そうとすると
「やん♡」
色っぽい声で抵抗された。もういいや。好きにしてくれ。
突然の来客に用意もなにもなかったので、お茶だけ入れて部屋に戻ると、如月は布団に潜り込んで芋虫みたいな生物と化していた。もぞもぞと蠢いたり、陸に落ちあげられた魚のように跳ねたりする。埃舞うからやめてくれ。
「せんぱいのベッドって落ち着きますね。わたし、ここで寝てみたいなぁ」
「今寝てるじゃねえか」
「そうなんですけど……ちがうんですよ」
なにが違うんだろう。
いきなり押し掛けてきて、自由気ままに人の部屋を満喫するのを許しているんだから、不満げな顔されても困るのだけど。長い黒髪も乱れて、さながら貞子の風体を期している。ホラーかよ。
「あの、せんぱい」
「ん?」
「か……かもーん……ですっ!」
如月が布団からバッと手を出して大きく広げた。
わたしの胸に飛び込んでおいでみたいな、おいでのポーズである。
「馬鹿なことやってないで、はやくベッドから降りろ。髪もちゃんと直せ」
正直姫ねえあたりが満面の笑みですると、何も考えず飛び込んでいったかもしれない。だが目の前の如月は、顔を真っ赤にして、笑顔を作ろうとして失敗したみたいな、若干引きつったような顔をしていた。無理しているのが手に取るようにしてわかる。そして髪はボザボザの貞子ホラー状態。決まらないにも程がある。
無視されたことに不貞腐れながらも流石に悪いと思ったのか、素直にベッドから降りて、ぽすんと俺の横に腰を下ろした。肩が触れるぐらいの距離である。
淹れてきたお茶を渡してやると、ちびちび口へ運ぶ。小動物みたいな仕草も可愛らしいなぁ。
「ちょっとジッとしてろ」
「え、あ……」
手持ち無沙汰もあり、如月の後ろに立って乱れている髪を掴んだ。部屋にブラシはないので手で簡単に梳いて整える。ちょっと結んでやろうかな、あまり乱れていてもよくないだろうし。
「ほら、ゴムよこせ。持ってるんだろ?」
「ひゃっ!? ご、ゴム……ですか…………いやその……モッテマスケド」
「なら早くくれ。使うから」
「つ、使うんですか!?!? いま!?!?」
突然、声を大きくして叫ぶ如月。そんな驚くことなのだろうか、なぜだか知らないがうなじまで真っ赤になっていた。
「お、おう。いまやろうかなって。もしかして嫌だったか?」
「とんでもないです! 先輩にされるのが嫌なわけないです!」
ぶんぶんと首を振って否定する如月。せっかくまとめた髪が散らばるからやめなさい。
「ぇえ……ダメもとだったけど、こんな効果があるなんて…………女性雑誌恋愛テク特集すごい…………」
なにか呟いていたようだったが、声が小さすぎてよく聞こえない。
真っ赤にして固まってしまったが、なにか変なことでもしてしまっただろうか。
この世界の女の子は異性に初心なところがあるから、例に漏れず照れてしまっただけならいいのだけど、まだこの世界には俺が知らない常識があるかもしれないので、その度に相手の反応みて手探りのところがある。
髪を結ぶのは大胆過ぎだったのか、匙加減が難しい。
「あー、やっぱりやめとこうかな。悪い気がしてきた」
「そ、そんな……わたしせんぱいにシテほしいです! ほら、カバンの中にちゃんとゴム準備してきてますから!」
普段からは考えられないぐらい俊敏な動きでカバンを開くと、中から小さな箱を取り出した。
ナイスフィット0.01ミリ
…………これ、うん。ダメだろ。
すべて察した。なるほどなー。
「わたし……はじめてで…………でも、頑張ってせんぱいをリードしますから、任せてください」
「待て、違う。俺はそんなつもりで」
「エイッ!」
肩を掴まれて押し倒された。目の前に広がる如月の目はどこか血走っていて、小さな手は興奮と緊張で大きく震えていた。
「はぁ……はぁ……ついにこのときが…………せ、責任は取りますから!」
「バカ! 脱ごうとするんじゃない! おいこらやめろ!」
いくら馬乗りになられていても、力で俺が負けることはないのだが……ぽよんぽよん躍動するバストに視線が釘付けになって集中できない! 手を掴んで脱ぎだそうとするのを止めるだけで精一杯だ。ああ、もうどうすればいいんだ。
ほんとグイグイ来るな。普段からそうだが押しが強い。
「い、いただきます!」




