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逆転不可思議世界  作者: さいとうももこ
2/24

授業

「……であるからにして」



 退屈な数学の授業を聞き流す。世界が変わったからといってなにも変わらない数学は楽だ。問題は地歴公民。元の世界からあべこべになっているせいだろう。歴史上の人物が女性になっていたり、色々な差異があって小学校レベルから理解できなかったりする。絵も女版になると、誰が誰だかわかったもんじゃない。

 長ったらしい授業を聞いていると勉強の意欲より眠気が勝る。教科書をなぞるだけの授業なら尚更だ。

 眠気からウトウトしていると、背中をツンツンと突かれる感触がある。振り返ると後ろの席である近藤稜子が笑いながらこちらを見ていた。



「ねちゃだめだよ。ちゃんと授業聞かないと」

「お前も真面目に聞いてないくせに」



 教科書は開かれているがページが違う。おそらく適当に開いて、授業受けている振りしているだけだ。

 きれいな透明感のある黒髪のおかっぱ。ちょっと古典的なのが好きなんだ、と力説していた記憶がある。俺にはよくわからないけどもこだわりがあるのだろう。



「ねるぐらいヒマなんだったら、わたしにかまってよ」

「授業中だろうが」

「その授業中にねてたヒトには言われたくありません」



 からかうようにシャーペンの先で腰をつついてくる。やり返したいがこちらからだと身体ごと振り返らなければならない。そんなことすれば目立つし怒られるだろう。



「そんなことは休みにしてくれ」

「ヒロくん昼休みどっか行っちゃうんだもん」



 つまんないよーと少し恨めしそうに近藤がつぶやく。

 明るく人怖じしない近藤は誰とでも仲良くなるし、クラスの中心的女子だ。少なくとも俺がいなくても昼休み一人だったりはしない。

 この世界になってから男女の距離感を掴みかねていた俺だが、自分のペースでぐいぐい話しかけてくる近藤とは結構打ち解けていた。



「昼休みは約束があるんだよ」

「それって女の子だよね。後輩の」



 ニヤつきながら今度は指で俺の腰をつつく。



「この前一緒にいるの見かけたの。ヒロくんにも彼女がいたんだね」

「いや、彼女ではないが」

「え、でもあんなに仲良さそうなのに?」

「まぁ抱きつかれたりはするが……」



 如月とは仲が良いし最近では一緒に昼食を取るようになった。先輩と一緒に食べたいですと上目遣いで懇願されたら、男なら誰だって応えてやりたくなるだろう。

 もしかするとこの世界の男はしないのかもしれないが、俺からすればそうなのである。



「あのさー、思春期の女なんて下心ばっかりなんだよ? ヒロくん女子に対して甘すぎ」

「そうか?」

「普通抱きつかれたりとかしないもんだよ」



 それは望むところではあるのだが、そんなこと素直にいうわけにもいかない。

 この世界の考えだとあり得ないことのようだ。元の世界でいうと付き合ってない男子が先輩の女子に抱きつくようなものか。確かにおかしいと思われても当然である。



「いつかひどい目にあってもしらないよ」

「心配してくれてありがとな。でも大丈夫だから」



 小柄な如月が俺をどうこうできるわけもないと思うのだが、ここは頷いておく。

 どうやら俺はまだこの世界に慣れていないようだ。こういう時に確認できるのはよかった。

 近藤は友達想いで俺のことを心配してくれたのだろうが、如月とはそれほど不満のない付き合いができているのだ。あまり距離感を変えたくない。



「ヒロくんがそういうならそれでいいけど……ほんと気を付けてよね」



 授業終了のチャイムが鳴る。ちょうど授業も終わったようだ。



 ゆっくり教室から出ようとすると服の裾をつまむようにして近藤に止められた。



「どうした?」

「わたしと一緒にお昼しない?」

「いや、だから約束がだな」

「毎日一緒なんだし、一日ぐらい付き合ってくれてもいいじゃん」



 空いている手で髪を軽く抑えながらも服を離そうとしない。いつも明るい近藤だが少し元気がないようにもみえる。

 弱った。女の子からのお誘いを断るのは罪悪感がある。一緒にご飯というのは魅力的だし、クラスメイトと親睦を深めるのも悪くないだろう。



「あー、なら明日はどうだ? 今日はもう約束してるし明日なら空いてるぞ」



 とはいえ、如月を無視してドタキャンするわけにもいかない。妥協案として、明日ならどうだろうか。



「やった! ヒロくん約束だからね」



 パッと手を放して近藤が立ち上がる。弁当を持って、いつもつるんでいる女子のグループへ混ざりにいく。

 教室を出るとき横目でみたが、元気がなかったようにみえたのがウソのように普段と同じように近藤は友達と笑いあっていた。

 なにか釈然としないが女子ってこんなものなのだろうか。








「ね、ね、稜子。さっき広瀬クンと話してたけどなんの話?」


「んー? 明日一緒にご飯食べよって」


「うーわ。稜子、広瀬クンのこと狙ってるの?」


「いいなとは思ってるよ。優しいし素直だし」


「広瀬クンはガード緩いよね。この前胸チラしかけてたし」


「ヒロくんってさ……箱入りというか、自分が男って意識薄いよね」


「てかビッチでしょ、あれきっとそうだわ」


「そんなことない! ゼッタイ童貞だし!」


「……稜子、あんた広瀬クンにマジ惚れしてない?」


「……してる、かも」








 昼食を一緒に取るからといって、別段話したいことがあるわけではない。

 面白い話ができるわけでもないし、昼休み終わるまで話すのは適当なことだ。それでも如月は楽しんでくれているらしく、嬉しそうに寄ってくるから悪くない。

 空き教室なため他に誰もいないし、次時間が移動教室でもなければ通りがかる生徒もいない。

 だからなにをしていても問題はないわけなんだが



「お前はなにしてるんだ」



 如月は椅子をわざわざ隣に寄せてまで、俺の肩にもたれかかり二の腕を撫で始めた。密着されているし吐息が胸元に触れるしでわけがわからない。



「べんきょー疲れちゃったのでせんぱいに甘えてます」

「話ずらいだろうが」

「耳元で囁いてもいいんですよ」

「バカいってないで離れろ」

「いーやーでーすーむしろせんぱいが手をまわしてください」



 撫でるのをやめ、グイっと腕を引っ張られ如月の背中に手をまわされた。もう触れ合うどころかくっついてしまっている。小柄なためかスポっと収まった。



「はわぁぁ。せんぱいにつつまれてます、しあわせです」

「やめれ」



 傍から見れば俺が如月を後ろから片手で抱きしめているようなかたちだ。近藤に言われたこともあるし、これはアウトだろう。



「あっ、だめですっ!」



 俺が腕を離そうとするのを嫌がってか、両手でギュッと手を掴まれてしまった。離さないとばかりに胸元に抱きしめている。

 豊満な、柔らかい感触に手を埋められた。

 つい、振り払おうとする力が抜ける。振り払わなければダメだ、と頭ではわかっているのだが、どうにも身体が言うことを聞いてくれない。

 如月が俺の手を力強く掴んでいるものだから、おっぱいに埋まっているのだ。全部の意識がそっちに向いてしまう。こればかりは誰も俺を責められまい。なんせ今までまともに女子と関わりがなかったのだ。この柔らかい二つの山に免疫がないのだ。

 胸に挟んでいることを如月が気にする素振りはない。この世界では女の胸は特に気にするものではないのだろう。むしろ大きいとデブだと余計な脂肪扱いされてしまうぐらいなのだ。触られたなんて意識するわけがない。

 俺が抵抗しなくなったのをこのままでいいと受け取ったのか、ご満悦な様子で如月が鼻歌を歌い始めた。俺も無理してまで振りほどく気はない。

 如月が満足しているならそれでいいか。



 結局昼休みが終わるまで俺たちはこの状態のまま過ごすことになった。

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