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逆転不可思議世界  作者: さいとうももこ
15/24

準備

 学生コンパに誘われてしまった。

 部屋のタンスから服を引っ張り出し、睨めっこすること一時間。着ていく服を決められずにいた。



 何度も読み返している由愛さんのラインを再度確認する。

 服装は自由で参加費は無料。場所は繁華街から少し外れた貸し切りのバーで、土曜日の19時からスタート。広瀬君は大学生ってことになってるから、そのつもりでヨロ♡



 年齢を偽れと仰せ付けなのだ、由愛さんは。



 つまり大学生として参加するのである。それなりに大学生っぽい格好していかなければならないし、なにか突っ込まれたときのために、大学の設定も考えとかなければならない。

 非常に面倒だが、それ以上のリターンもある。



 綺麗どころ揃ってるから期待しててね(笑)



 年上お姉さんと知り合う絶好の機会なのである。

 年頃の男として、このチャンス逃さずにいられようか。参加費無料なのも素晴らしい。誘ってくれた由愛さんには感謝しかない。



 順風満帆、高校生活は薔薇色というが疑いもない。思い返せば、これまでの生活は輝くことなく燻ってばかりであった。

 ただ、特記することないような平凡な日常を過ごしてきた。勉学も運動も恋愛も然りだ。言われるがままで世間の流れに流されるまま、やりたいことではなくやらされているものであり、自ら望んで勉学に励むことなく、意欲を持って運動に努めることなく、恋愛を感じることなく、広瀬圭太という人間は生きてきた。



 エネルギッシュな意欲を持ち、己の意思で活動する人間は眩しい。将棋界では近頃最年少棋士記録が更新されたという。甲子園では毎年、己の全てを賭けた熱い試合が行われる。誰もがひたむきに注ぎ込んでいる姿に憧れ、同じ土壌に立つことは不可能だと見切りをつけていたことを否定できない。

 自ら動かなければ何事も変わらない。停滞した毎日は己の心腐らせ、止まらない時間に流されるまま、生きているのか生かされているか判別できぬ日々が繰り返されていたはずなのだ。



 それが変わった。世界が変わった。



 人懐っこい後輩と出逢った。

 人の中心になる同級生と仲良くなった。

 昔の旧友と再会した。

 軽く親しみやすい年上と知り合った。



 どれも自ら行動した結果ではなく、偶然の産物であるだろうが、確実に俺の周りは変化し続けている。憧れていた世界へ、羨んでいた世界へ、俺も辿り着くことができるのかもしれない。



 必要なのは一歩踏み出す勇気だけ。



 今回の一歩もそうなればいいのだけど。時間は有限で無駄にするのは勿体ない。

 決めた、新しい服を買いに行こう。少し背伸びしたような、もっと大人っぽい雰囲気の服だ。全身諭吉一枚で揃うのもいいが、今回は特別に奮発しよう。高ければ良い物ではないけれど、選択肢が増えるのは見栄えも変わる。

 一人で行くのも寂しいし、誰か誘おうか。ふとひとつの顔が頭に浮かぶ。あいつなら今頃暇しているかもしれない。



「突然すまん。ちょっと服を買いに行くのだけど、暇なら一緒に来ないか?」



 二つ返事の了解を貰い、通話を切る。現地で待ち合わせなので急がなければ。俺よりあいつの方が近いはずだ。誘っておきながらあまり待たせるのは悪い。



 そういえば、自分から女性を誘うのは初めてだな。

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