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逆転不可思議世界  作者: さいとうももこ
14/24

水着選び

 水着を買いに行こう。

 最近は気温も上昇して暑くなってきた。そう夏が近づいてきているのである。

 授業で水泳もあるがそれはどうでもいい。今年の夏は泳ぎに行きたいのである。



 あべこべ世界に来てから女子と関わることが増えた。これまでなら男子しか仲の良い友達はいなかったが、今年はそんなことないのである。

 女子と一緒に泳ぎに行く。それはつまり水着姿を見れるということだ。それに堂々と女子の水着姿を眺めていても怒られない。素晴らしいではないか。



 そんな夢のパラダイスへ行くには俺も水着を着なければいけない。家のタンスをひっくり返して探したのだが、これといっていいものが見つからない。どうしようかと思っていたところに如月からの買い物のお誘いである。二つ返事で了承した。



「これがいいかな……でも、こっちも捨てがたい……柄はこっちがいいけどおっきいサイズなさそうだし」



 ガサガサと水着売り場で探していた如月が顔を上げて呟く。

 あちこちうろつきながら目当ての水着を探しているようだが、何度も同じところをうろうろしてあれやこれや見比べている。



 正直に言おう。まったくわからない。

 俺の趣味のものを選んでやろうと画策していたのだが、女性水着売り場に来て足が止まった。

 下着とも変わらない面積の水着に囲まれて、恥ずかしさに顔は赤くなるわ、如月に似合うんじゃないかな、と見つけた水着は合うサイズがないわで、探す手伝いもできてない。



 挙句の果てに、顔が赤らんだ俺をみた「ウブですねぇ」と思いっきりニヤニヤしながら、からかわれてしまう始末だ。

 そんなせんぱいも好きですよ。と耳元で囁かれてもう駄目だった。赤旗降参である。店の入り口で待つことにさせてもらった。

 自分でも情けないと思うが、まだこの世界に馴染み切ってないのだ。男が女の服を見ていても気にすることないことは理解しているのだが、ふと誰かに変態だと思われないかどうか、心配になってしまうのは悲しいサガである。



 大体如月も悪いのだ。あの豊満な胸を収める水着は数少ない。いっぱいあってもワイヤー水着やなんやら種類もあるみたいで、俺の頭はパンクしてしまった。

 わたしみたいなデブはサイズ選びも難しいし、似合う水着もないんです。とは如月の談だ。悲しそうに哀愁を漂わせる姿に、どんな言葉をかけていいかわからず、フォローできなかったことが悔やまれる。



 こんな脂肪なくなればいいのに、という言葉には全力で反対させてもらったが。俺はその胸が大好きだしなくさないでくれ! とつい熱弁してしまって、如月を戸惑わせてしまった。

 おおきいは正義だし俺の癒しだ。つい熱が入ってしまったのも当然のことだろう。



「セット水着……これだと上が合わないかぁ……なんでわたしこんなにデブなのかなぁ……」



 悲し気な声が聞こえる。胸とおんなじで苦労も大きいようだが、めげずに強く生きてほしい。豊満さをマイナスのイメージで捉えられるのは悲しいことだ。



「せんぱい! このアメスリなんてどうです? 派手過ぎるかなぁ」

「明るい色だがよく似合ってるぞ。ただせっかくの水着なんだし、もっと露出多いのにしないか?」

「えぇーいやですよー。わたしのデブっぷりが目立っちゃうじゃないですか」

「大丈夫。大丈夫だからこの辺りの試してみてくれ」

「ヒモじゃないですか! やだー!」



 指差した先の水着を見て、如月は不貞腐れるように頬を膨らませた。

 如月が持っていた水着は、へそだけ出して肩からゆったりとした大きな水着で、せっかくの如月の体型を隠してしまうタイプの水着だ。

 せっかくのスイカを隠すなんてもったいない。思う存分見せつけてほしい。



「胸元をカバーするデザインがいいんですってばー! ヒモだとポロっちゃいますしダメです」



 ポロリもあるのか! やはり揺れるだろうか。スイカが揺れて零れて……是非とも拝んでみたい!



「もーなんなんですかせんぱい。普段とちょっと雰囲気ちがいますよ……ってふぇえっ!?」



 両手で如月の肩を掴む。顔を近づけて小動物を連想させる両目を見詰めた。

 吸い込まれるように視線が重なって、林檎のようにボッと如月の頬が真っ赤に染まった。ビクッと身体が跳ねて固まった。言い聞かせるように声に力を込めて声を出した。 



「いいか。俺はな、お前に自信を持ってほしいんだ。お前は綺麗なんだから堂々と着こなせるはずだ!」

「え……その……せんぱい、いまわたしのこときれいって」

「お前を信じてる! だからこれを着てほしいんだ!」



 ぼそぼそと如月が呟いていた気がしたが、よく聞こえなかった。力説に心動かされたのか、せんぱいがそこまで着てほしいんだったら……と、ふらふら細いヒモの水着が並べられているコーナーに吸い込まれていく。

 すぐ後ろについて、ふと目に残った一つの水着を押し付けた。



「これだ。これにしよう! いいな、如月?」

「は……はい……せんぱいがえらんでくれるなら、なんでも着ます」



 かわいらしいピンクの花柄の水着を持って如月はレジの方へ歩いていく。見かけた中で似合いそうで一番大きそうなものを選んだのだが、大丈夫なのだろうか。ちょっと学生らしからぬ際どさのあるビキニを勢いで薦めてしまった気がするが、本人も納得しているので問題ないだろう。

 うん、素敵な夏になりそうだ。夏休みが待ち遠しいな。








「せんぱいはこの水着にしましょう! うん、これとってもせんぱいに似合いそうです!」

「やめれ、そんなもん着れるわけないだろ」



 鼻息荒く迫ってくる如月を押し返す。手に持っているのはどこで見つけてきたのかブーメランパンツ。ぴっちりフィットどころか、ほとんどはみ出ている。

 如月の水着を選んでから男性用水着コーナーに訪れていた。

 良さそうな水着のインナーパンツに合わせてパーカー選べばいいかと考えていたのだが、適当に選ぼうとすると如月が猛反対したのだ。



「なんでですか!? ぜったい似合いますからこれにしましょうよ!」

「似合うわけないだろ。通報されるわ」

「されませんよ! きっとみんなの視線独り占めですよ!」

「したくない」



 俺に露出趣味はない。見るのは好きだが見せるのは嫌いだ。男相手なら見たくもない。開放的な夏でもブーメランパンツはアウトだ。



「ずるいですよせんぱーい。わたしも恥ずかしいの買ったんですからお願いします!」



 それを言われると弱いのだが、如月が選んだ水着だと剃らないとダメなぐらいだし、大きさも隠すどころか見せつけるようなデザインになっている。乳まくらの一件で体験したが、絶対に大変なことになるのが丸わかりだ。そんなことになればどんな大惨事になるかわかったもんじゃない。



「もちろん男と女だと違うのわかりますけど、でもわたしみたいです!」

「その上目、やめてくれ。罪悪感がすごい」

「だって、せんぱいの素敵な姿みたくて……きっとみんなせんぱいをみて、それで魅力にき……」



 ハタとなにかに気付いたように言葉を止めた。普段しないような難しい顔をしながら考え込み、押し黙ってしまった。

 どうしたのかわからないがものすごい葛藤が渦巻いているような気がする。

 周囲の温度がどんどん下がっていくような錯覚を覚え、身を震わせた。



「……うん。やっぱりダメです。やめましょう」



 言い捨てるようにつぶやくと、返事も聞かずくるりと背を向けて水着を返しにいってしまった。

 言葉では表現できないような妄念や無念を漂わせている如月を、他の客は避けるように道を譲っていた。それほど近寄りがたいオーラが全身から溢れ出ていた。



「やべぇよ……やべぇよ」



 なんだかわからないが如月が豹変してしまった。可愛い後輩だったのに触れてはいけない爆弾のようである。

 その後如月が選んできた水着はおとなしいサーフパンツだった。スカイブルーの無難なタイプでそれにすることに決めた。

 会計が終わり立ち去るまで名残惜しそうにブーメランパンツを見つめていた如月がとても印象的だった。



 そんなに見たかったのかブーメランパンツ……できるだけお願いは聞いてやりたいが、すいませんそれは勘弁してくれませんかね。

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