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逆転不可思議世界  作者: さいとうももこ
13/24

ママ活

 ママ活というものがあるらしい。

 寝るまでの暇つぶしにとネットを眺めていると、ママ活なんて知らない言葉が出てきたので興味がわいて調べたのだ。

 男性が援助してくれる女性を探す活動のことらしい。なんでも援交とは違い、肉体関係を伴わないデートや食事などでおごってもらうのだそうだ。

 大学生が生活費を稼ぐために行うことが多いらしいが、俺でもできるのだろうか。



「やめとけバカ」



 そんな話をラインでいろはにすると開口一番罵られた。バカとは失礼な。



「軽い気持ちで出会い系始めるとロクなことにならないぞ」

「出会い系ねぇ」



 言葉を飾ってもママ活は出会い系だ。知らない相手と会うからにはそれなりの危険もあるのかもしれない。

 ただ高級料理店でデートするだけで現金が受け取れるというのは魅力的だ。思春期盛りの男とはいえ、一回りも二回りも年が離れた人の相手したいわけではないから肉体関係がないというのもありがたい。



「金に困ってるわけでもないんだろう? そんなことしなくてもいいじゃないか」

「それはそうなんだが」



 困ってはいないが小遣いは欲しい。

 あって困るものではないし、あればあるだけ良いだろう。夏に向けて色々買いたいものもあるしな。それが少し食事やカラオケに付き合うだけで貰えるのならば、やってみる価値はあるだろう。



「もしかして暇なのか? そ、それなら次の休みとか私が付き合ってやってもいいが」

「すまんが、次の休みは予定があるんだ」

「そ、そうか……」



 今度の休みは、如月に夏の水着を買いに行きたいんです! 付き合って下さい! と熱望されており、一緒に買い物へ行く約束があるのだ。

 女子の水着なんて俺はちょっともわからないが、休日に男女二人で買い物なんてもうデートである。デートなんてしたことなかった寂しい俺には断る理由がなかった。新しい水着が欲しいと思っていたので丁度良いタイミング、文句なしだ。

 それにいろはは部活で毎日忙しいだろう。せっかくの休みに付き合わせるのも悪い。

 運動部の夏は三年生の最後の大会が控えているため熱意が違う。邪魔をするわけにはいかない。



「次の休みは無理だが、また暇な時遊びに誘ってもいいか?」



 だが、せっかくいろはが誘ってくれたのだ。ただ断るのは気が引ける。

 いろはとも遊びに行きたいしな。前遊びに行ったのは中間試験後だったか、カラオケで女性のボイスにとても癒された有意義な一日だった。

 これはデートにカウントしても良いのだろうか、よくわからない。



 そろそろ寝るにはいい時間だ。いつでもいいぞ! と喜んだ絵文字がいっぱい入ったラインを確認し、俺は布団へ潜り込んだ。











「うーむ。これはちょっと」



 素敵なママを募集するというサイトを眺めていたが、げんなりするばかりだった。

 まず年齢が高い。これはママである以上当然なのだが若くても50代、60や70代もある。これはサイト登録上の数字なので、実際には誤魔化している者もいるだろう。プロフィール画像を眺めていたが、想像していたよりもこう、なんだろう。うん、ないわって人ばかりなのである。

 そして既婚者が多い。ママ活は肉体関係がなく、また愛しているなど言わないのが原則のため、不倫にならないことから既婚者を堂々と名乗れるわけだ。

 肉体関係を持てば法律違反だがママ活は法に触れることないためか、ネットでもよく推奨されている。怪しい業者に騙されるエピソードも数多くあるため、注意を促す文面もあるのだが。



「そもそもダメなのか」



 大抵の出会い系サイトだが高校生、18歳未満利用禁止と書かれている。女性は登録に有料、男性無料なためどんなものか見てみようと思ったが、未成年だと色々問題があるらしい。考えてみれば当たり前だが高校生である俺が利用するようなことではないのだ。

 こっそりとやっている人もいるだろうが、そこまでしてやりたいとは思わない。



「俺にそんな価値あると思えないしこれでよかったか」



 食事に行くだけで大金を貰えるほどお偉い人間になったつもりはない。あべこべ世界になったものだからひょっとしてと思ったりもしたが、人間真面目に生きていくのが一番だろう。

 キャバクラなどは給与は高いが、相手を喜ばせる感情労働の職業だし誰でもできることではない。できるなら前の世界でもホストになれば良いだけの話だしな。



 あべこべ世界でも簡単に楽できるわけではないらしい。少なくとも俺には無理だ。

 色々調べていたスマホを鞄に入れようとしたところ、からかうような声が背後からからかけられた。


「君ってはいつも歩きスマホしてるね。ダメだって前に言わなかったかな」

「え、あ、由愛……さん?」

「ちゃんと覚えてくれてるんだ。感激だなぁ」



 振り向けば、前と変わらない派手なメイクの由愛さんが立っていた。



「これから登校だよね。サボってウチと遊びに行っちゃわない?」



 明るく快活なソプラノボイスが耳に心地よい。甘美な誘惑を振り切るように俺は口を開いた。



「ダメですよ。由愛さんは暇なんですか?」

「これから講義なんだけど、広瀬君とならふけっちゃおうかなって」

「ダメじゃないですか」

「振られちゃったかー、残念」



 あまり残念そうでない笑顔を浮かべながら由愛さんは言う。見ているだけで心が和むような明るさは彼女の特徴だろう。

 知り合ったのは最近だが、よくラインを送ってきてくれている。疲れたよーなんて時もあれば、この店がおいしかったとか、短く送ってくるのだ。



 俺は話題を振ったりするのは得意ではないので、簡素な返信になってしまうのだが、由愛さんはそんなことは気にしていないようだった。

 その日の返信はあまり続かず終わるのから面倒になることもないし、毎日のように近況を送ってくるので途切れることもない。由愛さんはとても楽しそうでバイトしたり遊んだり学生生活を満喫しているようだ。大学生は自由で羨ましくなってくる。



「それで今度はなにをみていたのかな?」

「あー……少しですけどママ活ってのを調べてまして」

「ママ活? 広瀬君そんなことしてるんだ」

「や、やってませんよ! ただどんなものなのかなと思いまして……」



 意外そうな顔をした由愛さんに慌てて反論する。興味があったことは否定しないが、やっていると思われるのは心外だ。やってみてもいいかなと心が揺らいでいたときもあったがそれは昔の話なのでノーカウントのはずだ。

 反論に納得したのかしなかったのか、ぽんと思いついたような表情を浮かべ、由愛さんは言葉を続けた。



「あのね。ぷちママ活じゃないけど、興味があるならウチに付き合ってくれない?」

「え、あ、なんでしょう」



 戸惑い気味になっている俺の前で、由愛さんはにんまりと面白いことを思いついたような微笑みを浮かべて言った。



「今度さ、学生コンパがあるんだけど広瀬君も参加してよ。もち、ウチが全部払うからさ」

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