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逆転不可思議世界  作者: さいとうももこ
10/24

アシスタント

「稜子……女って、不憫すぎない!?」



 バイトもない暇な放課後。友人の家にお邪魔したわたしは、机に向かいながら叫びだした友人をみて、ついに限界が来たかと思った。疲れが頭に回って壊れたんじゃないかと。

 叫んでいる友人のペンネームは斎藤桃子。同じクラスの同級生にして同人作家なのだ。



 同じクラスになって好きな漫画の話で意気投合。親友といえるほど仲良くなったのだけど、カップリングの違いで何度も喧嘩まで発展しているので、友人ぐらいが妥当だろう。

 どこか遊びにいくならカフェかカラオケが定番なのだが、とある時期になると一切誘いに応じなくなり直帰するようになる。その時期とは同人の〆切が近づいて来た時だ。



 いつもなら暖かい目で桃子を応援しながらバイトや他の友達と遊びに行ったりするのだが、手が足りないと泣きついてきたので手伝うことになった。

 こんな風に手伝うのは初めてではない。背景やトーン、ベタなど任されている。桃子はわたしの手伝いを見込んで専用のペンタブを購入したぐらいである。バイトがない時ぐらいは手伝ってやるかと桃子と肩を並べて背景に勤しんでいる。今回は本当に修羅場らしく日に日に肌も荒れ髪の艶も失っていく様子をみて、放っておけなくなったのもあるのだけど。



 時間がないからといって学校を休まないのは立派だが、授業中はほとんど眠っていたのでなにも聞いていないだろう。

 だが、桃子はテストの成績はトップクラスに良い。少し前の中間テストも全教科90点以上をキープしていたはずだ。

 教科書読めば勝手に頭に入るでしょというのが桃子の言葉、とってもうらやましい。



「不憫ってなにがさ」

「だって男とヤリたいっ! って常に考えているのに、男が望んでも生理が来たら諦めるしかないのよ! おかしくない!?」

「そりゃ男からしたら、股から血を流した女が乗っかってきたら恐怖でしょうよ」



 ついでに言えば桃子は変態である。変態エロ星人。男が近くにいても堂々と下ネタ振ってくるし、部屋もエロ本に囲まれている。ついでを言えば、今手伝っている原稿も18禁モノである。



「大体、男って貧弱なのよ。出したら終わりって、そんなんじゃ満足できるわけないでしょ!」

「女と違って、出したら溜まるまで時間かかるんだからトーゼンじゃない?」



 男は"出る"と脳内に性的満足を得る物質が放出されるらしい。それにより性欲は抑えられ、身体はダルくなり、眠気に襲われるのだそうだ。女はそんなことないのでどうしても性欲を持て余す。

 どうして男女は性欲に差があるのかわからないが、女の方が性欲が強くすぐ解消されることもないので、女が男を襲う事件がよくテレビを賑わせているのが現実だ。



 桃子はそれに不満らしい。ついにはバンと机を叩きながらペンを放り出して、椅子の上に片足で立ち上がった。



「なにが疲れてるんだ寝かせてくれ、よ! 始めてから十分もしない内に出しちゃって自分だけ満足しておねんねか! 早漏ふにゃ野郎!!」

「なんでアンタが書いてるキャラに文句いってるのさ……設定考えたのアンタでしょ」

「ショタが絶倫なんてリアリティーないんだもの!! あああああああああ!!」



 頭を掻きむしりながら叫ぶ姿にため息がでそうになり、心の中だけにとどめる。

 創作にもリアリティーを! が桃子の口癖だ。妄想に現実を取り入れて、妄想が思い通りにならず苦しんでいる。エロ同人なんてご都合主義で済ませてしまえばいいのに譲れないモノがあるのだそうだ。



 ちなみに部屋で大声を出しても文句を言ってくる人はいない。両親にはとっくに諦められているし、姉は同人パートナーでこちらも執筆中よく叫ぶらしい。姉妹揃って急に叫びだすものだから、防音リフォームをすることになったという武勇伝まで持っている。



「おちつきなさいな。はいこれ、背景終わったからチェックして」

「あああああありぃぃいいいいがぁああとぉおおおお!!!」

「ちょっと落ち着いてくださいおねがいします」



 どうどう、と暴れだしそうな桃子を落ち着かせる。



「で、これって彼氏じゃ物足りない女が、〇学生を襲う話よね? オチはどうするの?」

「エロ漫画の導入と事後なんて、誰も気にしてないわ。終わったらそのまま終わりよ」

「……ひどいはなしね」



 救いもなにもない話だった。むなしい。

 ちなみに友人は作品を作るが、イベントに参加するのは姉だけらしい。そりゃ未成年で18禁の作品出してますなんて公言するわけにはいかないよね。

 斎藤桃子は姉妹合同のペンネームで、壁サークルになるほど人気らしい。これからも続けていくらしいけど、詳しくはわたしもしらない。



 一息つこうとテーブルに置いてあるお茶を啜る。万が一にも零さないように作業机と休息用の机は分けられている徹底ぶり。

 あらためて手伝っていたページを読んでみる。



『やめて! ボクの童貞を奪わないで!』

『お前童貞かよ(歓喜)』

『いやだ! たすけてパパぁ』

『お前がパパになるんだよ!』



 うん。高校生が描く内容じゃないよね。



「ねぇ、稜子って兄がいるんだよね。資料欲しいからパンツ盗んできてくれない?」

「ジュース買ってきて。みたいな気軽さでなんてこと頼んでるの……無理です」

「いやぁ、男のパンツってわからないし、ダサいんじゃないかって不安になるのよ。表紙絵だからしっかり書き込まなきゃだしね」

「だからって兄貴の下着持ち出すとかありえません」



 勝手に男兄弟の下着を持ち出して、友達に見せるとかどう考えてもアウト。我が家では家族会議が開かれ、兄貴からは氷柱のような鋭い視線で睨め付けられるだろう。



 変態なのは諦めるけど、常識ぐらいはしっかり持ってほしい。



「仕方ないわね……買ってくるか」

「はいはい、好きにしてください」

「もちろん使用済みの」

「アウト」



 女だけで男の下着を買うというのは周囲の目が大変痛くなるだろうが、まだセーフだ。彼氏や兄弟のプレゼントならあり得ないこともない。

 だが使用済みとか、ブルセラじゃないか! 女はエロ目的で、男はお小遣い目的で使われているってもの。ほとんど風俗みたいなものだし、未成年は青少年保護規制条例で禁止されているんじゃなかったっけ。どちらにしてもアウトである。



「もっこり強調パットとかも欲しいところだね。使用済みパット……当ててみたい」

「このど変態女……付いていけないわ」

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