VS 公爵様
ご飯は美味しく食べたいものです。
公爵様との会食は、思ったほど緊張はしなかった。
港まで迎えに来てくれた、あのモブのお兄ちゃんが同席していたからだ。
紹介されてビックリした、なんと公爵様の4男様だそうですよ、庶民的な雰囲気なので解らなかったよ。今は晩餐に相応しく、それなりの恰好をなさってはいるが・・御免!地味!
王都のお嬢様方には、振り向いてもらえない感じがする、いろいろと頑張れ。
それに、この前まで毎日の様に、一国の王妃様と食事を共にしていたのだ。
緊張の基準が麻痺してしまっているのだろう、王妃様は質問上手だったので答えるだけで良かったのも楽だった。王妃様は本当に好奇心が旺盛で、色々な質問をしてきたものだ。
残念ながら理系の質問はほとんど答えられなかったが、原理が理解できなくても取説が有れば使えるんだもの。蒸気機関の話は出来たが、魔石に頼っている内は開発する事も無いだろうな・・化石燃料もまだ発見されてなさそうだし。
王妃様は特に金儲けに繋がりそうな話を聞きたがっていた、祖国が大変な事になっているのは聞いていたので協力はしたいとは思うのだが。
・・・しがない中学生なもので御免なさい。
ラノベで良くある畑の使い回し、三圃制みたいのはすでに起なわれている様だった。え~っと、農作物に必要な栄養素は窒素・リン酸・カリだっけ?おばあちゃんが自家菜園をしていたので、よくホームセンターにはお供したっけ。農業系高校の漫画も農大漫画も読んでいたが、余り覚えてはいないなぁ~。
・・思い出したピザ食べたい。
公爵様は王妃様と真逆で何にも喋らない、もっぱら4男様が詩乃に話かけて来る。失礼になってはイケないので(生皮剥がされそうなので)慎重に受け答えした、港でお出迎えしてくれた4男様から、色々と報告は受けているだろうから違う話をする。
=肉パンの違いについての考察だ=
生ものが新鮮で、かつ豊富にあると言う事は、この世界ではかなり凄い事に違いない。冷凍の魔術具が有るとか、保存の魔術が有るとか・・。王都の平民はその恩恵から焙れていた、王都の貴族並みの生活ができるスランの平民は幸せ者だ。値段も安かったし、何より美味しかった。王都より北に位置するスランで、肉や野菜を安く売るのは大変だろうに?
パンも王都のパンより美味しかった、粉が良いのだろう・・ふっくらとした白パンでハ〇ジじゃぁ無くても、庭師の皆さんに持って行ってあげたいくらいの美味しさだった。ソースにも香辛料が使われていた、南方のお高い(②が文句を垂れた、あの香辛料だ、スプーン1杯でかなりの値段がするはずだ)やつだ。
王都では手に入れ難い品物を、スランでは平民がごく普通に使っている。驚異的な事だろう。
詩乃はそんな事を、たどたどしく公爵様に話をした。
スランは貿易国際都市なのだろう、公爵領は何を輸出しているのです?
別に深い気持ちで聞いたのでは無かったが、執事様にジロッと睨まれた。
『おおぅ、怖いですぅ~~』
オタオタする詩乃に、4男様が笑って片手を上げ執事様の殺気を止めてくれた。
流石に公爵様の館の中だ、魔力の強い者が大勢いる。軟禁中や航海では、平民に混じって過ごしていたから忘れていたが、ここはノイズが五月蠅いし胡散臭い者を監視するような痛みを皮膚感覚にビンビンと受ける。そういえば、あの4男様からはノイズを感じなかった、凡人なのか出来る男を隠しているのか・・顔だけ見ていたら解らない。まぁ、とにかく・・・。
『あんまり、歓迎されてはいない様だね』
特に執事様は詩乃の事が理屈抜きで嫌いな様だ、執事様の居る方向からキリキリした痛みを感じる。この痛みは知っている、離宮で女官長から感じた類の痛みだ・・毒を含んだ侮蔑の感情。
やっぱり貴族は苦手だなぁ・・これは早いとこ出て行った方が身のためだな。
食後のお茶のため、ゆっくりと座れるソファに移動する。
メイドさんがお茶を進めてくれた、感謝の為に軽く目礼をする。
「それで、君は何故ボコール公爵領を選んで来たの?」
4男様に質問された。
詩乃は正直に離宮を抜け出して王都に出かけた時、地図屋のご主人から魔力の少ない者が住むのにはボコール公爵領は良い所だろうと勧められたと話をした。それから旅商人でジゴロな吟遊詩人の小父さんにも、公爵領を進められていました・・と。
「初め 王宮 庭師 ジイ 田舎 良い思テタ、①王子 実家 領地、王妃様 駄目 言わレタ 諦めした。王妃様 ボコール 公爵領 良い言うで来た。公爵 迷惑・・すみまそん」
「このスランに住みたい?」
「スラン トても、良い所 肉パン 安クテ美味、ジュース 飲メし。でも、私が住む 難しイ 思う。黒目黒髪 隠せんから、大キな街 では・・・面倒 困りマるスし?」
ふむ、4男様は顎を撫でながら続きを促した。
「余リ 閉鎖的、よそ者 嫌う 土地 困ます・・小さな町 良いテイマす。平民なる、街 一人、目立たず、褒めラレモせず、苦にモサれず・・そう言う人に、私はナリたいと思うノデす?」
by宮沢賢治様・・好きだったな、悲し気味のファンタジー。
ふぅ~む、4男様は深く頷くとまた質問して来た、小さな町で何をして生きて行くつもりかと。
詩乃はメイドさんに合図を送ると、ハンカチを被せたお盆を持って来て貰った。公爵様にお礼に贈り物をしたいと、事前に話を付けてある。メイドさんがテーブルの上にそっと置いてくれたので、公爵様の正面に向ける様位置を直し、ハンカチをそっと取り去った。
・・・薄い青色をした、バララの花のコサージュ・・・
もし王妃様が、詩乃が出先で困らない様にと便宜を図っておいてくれた事があった場合に。助けてくれた相手の方に、お礼として渡せるようにと、あらかじめ用意して作っておいたコサージュだ。王妃様から下賜された端切れなので高級品だし、透かしに王妃様の御印の花のマークが入っているので、身元の証明にもなるだろう。
・・王妃様ったら、自分の派閥作りに利用してません?もう、腹黒なんだから。
「これは布で作った花か?美しいな。あの事件の時に、聖女様が付けられていた花に良く似ている」
「はい、お披露目 お衣装 ニ合うヨウ、聖女様 飾り 私作らセてマシタ。聖女様は装飾品に魔石を使うのを拒否なサっていマシタカら。貴重で苦労 採掘イる魔石、飾り 使エナい 常々イタもデスから」
4男様はコサージュを手に取り、しげしげと見つめた。
「こ ヨう 飾りとか、私の世界ニは色々な手芸ガアす。その様な物を作ッタリ、売ったり、作り方を教えたりス お店 開き 思ってイマす」
『ホントはパワーストーンのお店を開きたいけど、貴族に石関係の話はNGだからね。内緒だ!』
「なるほど、君の気持ちは良く解ったよ。此方としても、聖女様と色のよく似ている君を、国際港の有る大きな街には置きたくはない。此方が指定する街で不服が無いのなら、公爵領で生活する事を認めよう」
「有難 ゴザ ます?」
詩乃は深く頭を下げるとお礼を言った。どうぞ、このような品ですが、お納めいただけると嬉しいです。
4男様はコサージュを受け取ると、有難う彼女が喜ぶと言ってくれた。
『いるんかい彼女が、あれだな、爵位に目がくらんだヒロインか政略結婚の悪役令嬢だな、きっと!』
会食と言うヤヤ圧迫面接が終わり、お暇をして客室に戻ろうとドアを出ようとした時だった。
公爵様が、突然詩乃に話しかけてきたのは。
「君は、聖女様を恨んではいないのかね?」
余りに突然で、何を言われているのか解らなかった。
「君は聖女様に巻き込まれて、この世界に来てしまったと聞いた」
公爵様は睨むように、じっと詩乃の顔色を見つめている。
・・?何を言っているんだ、この爺様は。
「確かに聖女様に巻き込マレて、この世界に来ました。でも、この世界に呼んダのは聖女様では無く、この世界の人達デス?自分の世界の事を処理デキずに、違う世界の人間に丸投げした。」
恨むなら聖女様より、やっぱりこの世界の為政者ではなかろうか?
詩乃は振り向き、公爵様に向かい合い目をじっと見て答えた。
「私の祖父はいつも言っていました・・・自分のケツは自分で拭けと!」
それだけ言い放つと、詩乃は深々とお辞儀をしてサッサと出て行った。メイドさんに案内されて豪華な廊下を歩く、その背中越しに4男様の大きな笑い声が響いて来た。
『何がおかしい!やっぱり貴族なんて大っ嫌いだ!!!』
翌朝、詩乃は朝食もそこそこに、馬車に乗せられ港へ運ばれる事となった。
其処には公爵様も4男様もいない、慇懃無礼な執事もおらず、御者とメイドのみが見送る分相応の旅立ちであった。ろくにお礼も出来無かったので、取り敢えず館に向かって深々とお辞儀をしておいた。まぁ、これでいいだろう・・たぶん。
馬車に揺られ港に着くと、スランに来た時の船より、かなり小さめの船が泊まっていた。フェリーから大きめの漁船くらいにランクダウンかな?
最後のお茶の時に、江戸っ子爺ちゃんが降臨して来て啖呵を切ったからなぁ。
・・・・嫌がらせか?
大きな木製のクレーンを使って、詩乃の荷物が積み込まれて行くのが見えた、甲板に開いた穴にロープで吊り下げられて船底に降りて行く・・コンテナ船かいな。
いよいよドナドナか?いや、幸先良くないな・・食われちゃタマラン。
こんな時のテーマ曲は・・アニメ大好き仲間の友達の立子さんが、赤点量産でしょげていた詩乃に、元気が出る曲ばかり集めたオリジナルCDをプレゼントしてくれた事があったのを思い出した。
そう、往年の名作!ジョン・ロ〇グ・シルバー船長のテーマが良いね!
脳内で盛大に曲が流れ出した、ジャンジャジャンーーさぁー出航だ!!
詩乃は船首に仁王立ちして潮風を受ける。
某沈没映画は美男美女でいちゃついていたが、一人で結構!結構毛だらけだ!!
大きな声で歌を歌う!
「さぁ、行こう!!」
いよいよトデリに入ります。