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B級聖女 小話集  作者: さん☆のりこ
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スラン上陸

船から降りると、しばらく揺れていますよね。

 スランは麗しの街と言われているように、実に美しく素敵な街だった。


建物はすべて白い石で出来ていて、窓辺に可愛い花が飾ってある。何でも表通りの窓には花を飾るように街の御定めで決まっているそうだ・・ヨーロッパの何処かの国みたいだね。道にはゴミひとつ落ちていない、王都の平民用の大通りには隅っこにゴミが吹き溜まっていた、清潔面から見たらスランの方が断然綺麗かも知れない。スランはかなり北の位置にあるはずだが、温暖な海流のせいだとかで緯度にしては暮らしやすい、雪の少ない暖かな街なのだそうだ。街に溢れる人々はほとんどが平民達で、貴族などは領主の館に近い丘の上の方に生息しているらしい・・その辺は王都と同じようだ。


けれども王都と大きく違うところは、街をそぞろ歩いている人々だ。

褐色の肌の人や緑色の髪を持つ人・・耳が長く尖っている人・大きく丸い人。

何だろうこれは?色々な国から来た人が居るのだろうか?スランは王都より国際色豊かな、解放的な自由な都市の様だった。


「凄い、エルフ耳の人は美形・・なのか?北欧系?彫りが深すぎて目が見えないよ」

此処まで来たのなら是非ケモ耳さんにお逢いしたい!モフモフさせて頂けないだろうか?コボルトさんとかいないのかな~アァ会いたい。

道の端っこで、1人不審者のように悶えていると良い匂いが鼻を誘った。

船は早朝にはスランに着いていたのだが、入国審査(同じ国なのに?)に、時間が掛かってすでにお昼近い時間になっていた。ここは、腹ごしらえと洒落込もうではないか!詩乃は匂いに誘われる儘に屋台の並んだ一角へと向かった。


「何にしようかな~、おっ!肉パンがある。王都と味が違うかな?ここは食べ比べと洒落込もう」

詩乃はウキウキと屋台に近づき、恰幅の良いおじさんに肉パンを注文したのだが。王都で何度も繰り返してきた、ごく簡単な受け答えのつもりだったのだが、何だろう・・この地方の方言か何かなのだろうか。

聞き取りが難しい、詩乃の言葉もまた相手に聞き取れ難い様で、意思の疎通に時間が掛かってしまった。

言葉だけでは通じず、身振り手振りを駆使してようやっと肉パンを買うことが出来たのだ。此処の肉パンは王都と違って客の注文によってカスタマイズ出来るらしく、ソースはどうするだの、ハーブはどれを選ぶだの、あちらの世界の某舶来お洒落コーヒー店の様に難しかったのだ。

最後にはもう涙目である・・屋台の小父さんも大変だっただろうが。


『せっかくこの世界の言葉に慣れてきたつもりだったのに、一からやり直しか?酷いよ、あんまりだ』


泣きべそをかきながら肉パンを頬張る詩乃。

心細かろうが悲しかろうが、腹は減るのだ食べねばなるまい。

モッシャモッシャと食べていた詩乃だが、途中でパアァァァと笑顔になった。


「美味しい!何これ何これ、王都より断然美味しいよ!!」


思わず小父さんの方を向いて、手で頬をぺぺペッと叩く!この世界の<美味しい>を表すボディランゲージだ。小父さんも泣きべそをかいていたチビッ子が、好い笑顔で美味しいと伝えて来たのでホッとしたのだろう笑顔を返してくれた。


『肉が柔らかい王都の干し肉の様な固い肉とはえらく違う、ソースも何だろうローストビーフのタレの様な味でマジ美味しい。付け合わせに入っている野菜も新鮮でシャキシャキだ、それでいてお値段は王都の半額ときたもんだ、これは良い!食べ物が新鮮で安価と言う事は、物流や商売が発達しているに違いない!』


詩乃はもう大満足でいきなりスランが大好きになった、スラン良いとこ一度はおいで~。パンだけでは喉が渇く、飲み物は売っていないのかな?見回した詩乃は驚くような店お発見した。

ジューススタンド・・・。

王都では果物は超高級品の貴重品で、フレッシュなブツは平民にはまずお目に掛かれない品物だった。王都をうろつく様になってから知った事だが、平民は基本ドライフルーツを食べている、運んで来るのが難しいのかも知れない。離宮では果物はデザートに普通に出ていたが、聖女様だからの特別な計らいだったようだ。賄いに果物は出なかったし、詩乃がお菓子を作ろうと果物に手を掛けると料理人の小父さん達は遠い目をしていた。やたら手伝ってくれたのは、貴重な果物を無駄にしてしまったら懲罰モノの大事件になったからかも知れない。そういえばお茶会でミカンでお手玉しちゃったね、まあいいや、過ぎたことだし気にしない気にしない。


ジューススタンドには可愛らしい服を着たお姉さんが立っていた、生の果物をミキサーの様な道具(人力)でジュースにしてくれるようだ。見ていたら草臥れた小父さんが何やら注文をしている、紫色した毒々しいジュースをお求めだ。何だろう?疲れでも取れるのかなユ〇ケル的に。よく両親も仕事が大変になると手を腰に当てて飲んでいたっけ、あの小父さんの様に。どこの世界でも大人の所作は同じで、暮らし向きは大変そうだ。

好奇心で詩乃もあれと同じヤツと身振りで注文してみた、途端にドッと湧く周囲の人達と苦笑いするお姉さん・・どうやらアッチに(アッチてドッチだ)に効くジュースだった様だ。

ムゥ~ッと、唇を尖らせる詩乃に代わって、誰かが詩乃の後ろから注文したくれた。


「今はブウドが旬だからね、白ブウドのジュースを2つ下さい」


驚いて振り返る詩乃に、モブっぽいお兄さんが笑ってジュースを差し出して来た。


「ようこそ麗わしのスランへ、オマケのお嬢さん」




 詩乃とお兄さんは広場の噴水に腰を掛けて、一緒にパンとジュースを頂いた。

お兄さんはデザートに名物のお菓子も買ってくれた。天気は良いし、でも風があってそれほど暑くもないし、食べ物は美味しいし大変にいい気分だ。お兄さんは王妃様から頼まれたボコール公爵様のお使いの人で、詩乃を迎えに港まで来てくれたと言う。詩乃が食べ物の匂いに誘われて、フラフラ歩き回ったから探してしまったらしい。


「ごめな・・お迎え 来る、考 て もいなかっ」

お迎えなんて有難い事だ、今までの待遇から考えるとかなりハッピーである。

気分が上がった詩乃は拙い言葉ながら、航海の感想やスランの印象など、今まででは考えられないほど話し込んでいた。モブのお兄さんが聞き上手な事も有ったが、彼は言葉が変でも馬鹿になんかしないし、ビックリするほど美形でもないし、普通な感じのお兄さんで話やすかったのだ。


食事を終えると2人は、公爵様の館へブラブラと歩きながら向かった。

緩い坂道を丘の上に向かって歩いていく、所々に小さな公園が有って休める様にかベンチが設置してある。お年寄りには坂道はきついからね、心憎い配慮に見えた・・王都ではあり得ないユトリある配置だ。

面白いお店が沢山有る、ファッションも王都より実用的な動きやすい服装が多いようだ。貴族が居ないせいなのか、街ゆく人達も闊達で威勢がいいように思える、江戸と大阪の違いの様なものか?


詩乃が連発する質問に、お兄さんは嫌な顔もせず何でも答えてくれた。

スランの人口や男女の比率、子供の数・学校の有無や識字率。平均寿命や福祉のあれこれ。主要産業や税収の仕組み、何でこんなに色々な人達が居るのか、パスポートは有るのか?ビザはどうなっているのか?他の国はどのくらいあるのか、皆王制なのか?

聞きたい事は今まで誰も教えてくれなかった、平民には無用な知識なんだそうだ・・無用な知識を持つことが教養と言うものでは無かろうか?よく解らんが。

とにかく詩乃は好奇心で一杯だった。



   ****



公爵様の館に招かれ客室を与えられた、メイドさんも付いているかなりの好待遇だ。でも詩乃は自分を戒める。これは王妃様への計らいで、詩乃自身の価値からの待遇では無いのだと。勘違いしてはいけない、自分は平民として生きる為に王都を出たのだ。


一休みしてからお風呂を頂き、公爵様との晩餐に相応しい服もお借りした。

嬉しい事に半魚人スタイルの服では無かった、メイドさん曰くデラックスフリル(半魚人の正式名称らしい)は、王都の貴族だけに流行っている服装だとかで富の象徴なのだそうだ。スランではあんなバカバカしい服は誰も着ないし、着たくも無いという・・確かにスランの服の方が動きやすいし、軽くて色も発色が良いし綺麗だ。そうメイドさんに感想を言ったら、染粉が外国からの輸入品でスランでしか手に入らない品物なのだと言う・・何気に自慢気である。


『王都とスラン・ボコール公爵領は、もしかして仲が悪ぃん?ライバル視って奴かしらん』


 時間になり食堂に案内されたら、すでに上座に恰幅の良いシルバーグレー?いや金髪だが・・そのくらいの御年を召した小父様が座っていた。執事さんがシルバーに到着を告げたので、カーテンシーをしながら挨拶をする。


「本日 お招キイ ただき 有難ゴザイま、王都 平民になる為に キマした、詩乃・大西と申す。仔細王妃様、お聞き てイるとます。よロシクご教唆 頂けま よう、お願いいたたマス」

緊張して胸がドキドキする、王都より発展していて先進的な街を治めている人はどんな感じの人だろう。


「詩乃・大西と言うのか、緊張しないで宜しい。頭を上げなさい」

おおぉ・・ハスキーボイスで腹に響くような重低音の声、中年の魅力って奴か?友達のドンコちゃんは爺専だった。宇宙戦艦ヤ〇トだったら沖田艦長が好きで、指輪の物語ではガ〇ダルフが好きだった。此処に居たらさぞかし喜んだに違いない。そう思い顔を上げたら・・アンソニーなんちゃら?羊たちの何とかと言う映画の、サイコパスのオジサン?みたいな公爵様がおいでになった。


『・・こいつはヤベエ、下手を打ったら生皮剥がれそう・・』


そんな失礼な事を考えていた詩乃に、覚えのある声が後ろから聞こえて来た。

『おおおお・・・お兄ちゃん!!さっき港まで迎えに来てくれた、モブのお兄ちゃんでは無いか』

少しだけホッとする・・公爵に襲われそうになったら、モブ兄ちゃんを生贄にして逃げよう。


かなり失礼な事を考えながら、公爵様と兄ちゃんのメンバーで会食は始まった。

肉パンのイメージは、ケバブです。

あぁ、食べたい。

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